魔王国へ留学㉒ 魔王国からの出国とロイスター王国へ帰国
そうして魔王陛下に挨拶してお別れする。
ついに帰国の時期である。
船着き場で最後の挨拶をするエリオス君。
「公使閣下。お世話になりました」
「エリオス君も元気でね。
またこちらに来たら仕事を手伝ってほしい」
「その時はお願いします」
公使閣下と挨拶をする。
色々とお世話になったものだと、エリオス君は思った。
この先進国の技術力が羨ましくなって、近代技術から離れるのが寂しくなる。
しかし祖国ロイスター王国に帰って皆の顔を見るのも待ち遠しいのである。
「これで食生活が幸せだったらねぇ」
「エリカお嬢様?
コックのジェミリールさんの料理はとても美味しかったですよ?」
「食材や調味料がですね・・・
実はメニューを考えるのも結構大変でした」
「それは気づかず申し訳ありません。
でもとても美味しかったです。ジェミリールさん」
「いえいえ。
公爵家のコックとして恥じぬ仕事が出来て光栄です」
「・・・せっかくだから、ここで外交官として仕事しないか?
「何回も言うけどお断りよ。公使閣下」
「とほほ」
この留学の背景にはコックのジェミリールさんの活躍があった。
日々の料理に王宮でのデザート、料理それから色々と。
しかしジェミリールさんがいなかったらとても寂しい食生活になる事は間違いない。
来客をまともに歓待する事も出来ない。
実はロザリーナお嬢様とマルゲリーアお嬢様の目的の一つは
公爵家の美味しい料理を一緒に食べることだったのかもしれない。
「じゃあ、エリオス君。
短い間だったけど楽しかったわ。
また公爵家の美味しい料理を食べさせてね」
「マルゲリーアお嬢様にもお世話になりました。
色々と勉強になりました」
「おねえさまより役にたったよね?
そこの脳筋はエリオス君と魔王国にはもう不要ですわ」
「・・・妹よ。
それは聞き捨てならんな。
後でみっちりお仕置きじゃ」
「じゃ、じゃあね。
・・・別におねえさまが怖いからじゃないんだからね
また近いうちにロイスター王国でお会いしましょう」
と言いながら、ロザリーナお嬢様から逃げていくマルゲリーアお嬢様。
エリオス君には気になる一言があったのだが、この時はあまり気にしてなかった。
後日、このマッド・サイエンティストが大いに賑わかすのである。
「さあ帰りも長い船旅じゃ。
土産物は持ったか?
出港準備はもうすぐじゃぞ」
「もうあの船旅は遠慮したい所ですが」
「諦めるが良いぞ。
まずは慣れじゃ。あとは海賊退治。
海路の安全は海軍次第じゃ」
「我が国の海軍はまだまだですね。
海軍育成は確かに課題ですが、陸軍国なので」
この時代では船旅が一番速いのは間違いない。
将来的に大型蒸気船が出来るまで、大揺れの船旅は大きくは変わらない。
一同は思い思いにお土産を商店で買う。
「では出港しましょう。
ロイスター王国で皆が待っています」
「帰ったら、大忙しだわね」
「ええ、気がかりな事も沢山ありますが
まずは新学期に間に合わせましょう」
「学業もあったわね・・・」
こうして一同は魔王国をあとにする。
新しい技術と情報と人脈とお土産をもって帰国するのだ。
特にこの人脈は後々のエリオス君の人生を大きく左右する事になる。
実は外国にも相談できる、頼れる人が出来たというのは
人生にとって大きな強みである。
まして技術先進国のトップの人材と。
社会人になるとそういう人材のコミュニケーションは必要になる。
これから長々とまた船旅で帰国する事になったのだが、
帆船にまた風が吹かなかったり、海賊に襲われたり
船酔いになったり食糧難になったりするのだが、また別の話であった。
そうしてロイスター王国に帰国する。
漁港リトハイム村には沢山の人が出迎えに来ていた。
おそらくニールさんの日記を新聞で読んでいたのであろう。
その顔は期待に満ちていた。
「おかえりなさい。
エリオス君」
「ただいま、ニーナさん。チェリーちゃん。皆」
「思ったより元気そうだわね」
「船旅は大変でしたよ。
もう懲り懲りですね。ハイお土産です」
「・・・本当のお土産はエリたんの元気な顔よ」
「ふふふ。仲が良いのじゃな」
「後で報告してもらおうか。内政官どの。
仕事が大量に溜まっていて、余は苦しいぞ」
「伯爵様もお元気で何よりです」
「余には卿がいないと仕事が捗らない事が理解できたぞ。
さあこれからもビシビシ働いてくれ」
「とほほ」
帰国して早々に沢山の仕事と学業が待っているエリオス君。
想像していた通りであるが、まだまだ困難が待ち構えている事を予想する。
圧倒的に人材が足りないのである。
雇用にしろ、教育にしろ、技術力にしろ
魔王国と比較して大きく見劣りする事を実感したエリオス君であった。
これ以降、先進国の魔王国への留学と人材交流は加速する事になった。
これが将来のロイスター王国で色々な方面に大きく影響を与える事になるのだが
当面先の話である。
ロイスター王国の歴史書に、魔王国への留学の歴史が刻まれる最初の事例になった。