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魔王国へ留学⑯ アルベルト大佐と魔王国の軍港、造船所

 大学の次は海軍に向かう。

海軍基地から造船所まで視察するスケジュールになっている。

案内してくれるのは、当然既知であるアルベルト大佐である。



「ここからは私がご案内致します。

 宜しくお願いします。エリオス少佐」

「宜しくお願いします。

 アルベルト大佐」

「兄上が案内役であるか」

「お兄さまがいれば心配ないですわね」



 海軍のアルベルト大佐が声を掛けてくる。

豪奢な白髪と青い目、透き通る白い肌のアルビノ。20歳くらいの

神々しいオーラを感じる軍服を着た好青年が立っていた。


 アルベルト大佐は妹達がいる事と、

仲が良さそうな雰囲気が気になってつい声を掛けてしまう。



「妹たち、自分の仕事は良いのか?」

「エリオスの面倒を見るのは外交官の妾の仕事じゃ。兄上」

「ワタクシは残念ながら魔王陛下より案内役のご指示を頂いております」

「・・・まあ、私は別に良いのであるが」

「その、アルベルト大佐も大変ね」

「公爵令嬢殿の言葉の意味は分からぬが。

 こちらが我が国最大の港のヴァレッド港です」

「素晴らしい港ですね」



 まずは軍港を説明して頂く。

民間の港の近くに軍港が設置してあり、そこに帆船が大量に並んでいる。

大型の戦艦もあれば、小型の帆船もある。

そして大きな倉庫や商店など非常に賑わっている。

まだ蒸気船は存在していないが、魔王国の技術力を考えれば時間の問題だろう。



「今日は軍艦は護衛のため、近隣の海域に出払っていますが

 修理や補給の際にはここに大量に軍船が並びます」

「それは壮観な眺めですね」

「こちらの戦艦は、前にも貴国に向かったのと類似のタイプで

 1100ton級の第2等級戦列艦で 主砲90門、船員と兵員で乗員650名。

 これが多数あります」

「どのくらいの数があるのですか?」

「・・・それは軍事機密です」

「そうですよね」


「最近は海賊が増えておりまして、商船の護衛や海賊退治の任務が増えています。

 後は母国と植民地の護衛です」

「出動回数は多いのですか?」

「最近は多いですね。他国は海賊行為を奨励している様子です。

 魔王国は海軍で商船を守らなければなりません」

「・・・それは陸軍国の我が国ではわかりかねる話です」



 魔王国の海軍は多数の帆船と砲台を抱えた大規模な軍隊であり、

数百隻の最新鋭の戦艦を抱えていると噂されている。

その射程、砲台数は他国を圧倒して凌駕している。

そんなものが沿岸にひしめいて貿易港を襲ったらひとたまりもない。

今は魔王国とは小康状態ではあるが、各国は魔王国の海軍の襲撃を心から恐れていた。


 そして近世から近代にかけて、海賊が横行していた。

大航海時代以降で海上貿易の重要性が高まっていた為である。

そのため、海軍が各国で増強されて最後には国家間による条約が締結される事で

敵国の国力を削るための海賊が不要になり、

国家による海賊退治の元で18世紀は海賊が衰退して無くなっていった。



「まあ東や南の国で取れる資源は輸入しなければなりませんし」

「そうですね。エリオス少佐。

 魔王国も食料品などの物資は貴国や植民地などの貿易に頼らざるを得ません。

 異教徒国家がそれをよしとせず、妨害活動を続けています」

「同盟国として我が国に協力出来る事があれば是非教えて下さい」

「・・・貴国は独力で、異教徒どもの大軍を陸で押し返し独立を保持しました。

 海の戦いは我々魔王国の戦いであると、自覚しております」

「フン。確かに我が国は陸軍しかありませんわ。しかしね・・・」



 エリオス君とアルベルト大佐が会話する。

アルベルト大佐の意見は一見尊大に聞こえるが、

ロイスター王国には戦艦の1隻もまだ無いのである。

エリオス君にはそれが密かな配慮に聞こえたのであった。  

しかしそれを聞いて不満顔の一同ではあったが。


「次は造船所をご紹介しましょう」

「よろしいのですか?」

「ええ。ゆっくり見ていって下さい」


 次は造船所を見学させてもらう事になった。

造船と言っても当時の船は主に木造建築であるので大工さんが沢山いる。

しかし大砲や武装は鉄や青銅などの金属部品で構成されているので、

さながら製鉄所と言えるほどの設備があった。

造船は一大産業である。

沢山の資材と設備と人員が集積されている

大規模な工場とも言える規模であった。


 大規模な船舶が組み立て中であり、土木職人と製鉄職人

それから設計者と思われる技術者が指揮している。

浸水や傾いたりする危険性があるので、

非常に腕の必要な仕事であろうか?

エリオス君は船舶の技術者では無いので詳しい所はわからない。



「これは凄い規模ですね」

「造船所は色々な技術と人材が集まっています。

 海軍の心臓部分とも言えるでしょう」

「ちゃーから見ても陸軍国の我が国には到底出来ぬな」

「ちょうどそこで帆船を組み立てています。

 船舶のバランスが崩れたら大変ですから設計者の腕がなる所です」

「ロイスター王国で軍船を作るには相当先の話になりそうです。技術力的に」



 魔王国の造船技術に舌を巻くエリオス君。

実質的な設計は簡単には出来ないな、と思った。

試行錯誤を繰り返して、設計力を積み重ねねば難しいと判断。

必要があれば魔王国から買うしか無いと、断念する。



「ちなみに、我が国が商船などを購入したい

 と言えば売って頂けるのでしょうか?」

「それは私の口からはなんとも。軍人なので。

 売買の話は然るべき窓口から相談するしかないでしょう」

「・・・そうですね。

 申し訳ありません」

「よろしい。

 その時は妾が外交官としてちゃんと話をつけよう」

「ロザリーナお嬢様は本職は陸軍軍人ではないですか?」

「ふん。どうせ良かろう。

 そういう話をつなぐのも仕事じゃ。多分な」

「お姉さま。またそういう適当な事を・・・」



 大規模な船舶が必要になるのは当分先の話になるだろう。

しかしエリオス君はまだ意識していなかった。

ロイスター王国の北方の軍事国家の存在を。

この時は海を隔てて争うとは心も思っていなかった。

そういう事態になって、始めて国防の難しさを実感するのである。

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