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魔王国へ留学⑩ ジュゼリオ技官との密談

 魔王陛下への謁見は終了になり、

一同は控え室に移る。

魔王陛下には別の謁見の仕事があり当面広場から動けないだろう。

一同は控え室で一息をついてやっと気が抜ける。



「凄い魔王さんでしたね。

 エリオス様」

「シルヴィ君も緊張していましたね」

「ちゃーはどこかで見たような気が」

「それは多分ロザリーナさんね。

 あの方は確かに親子だわ。

 似すぎているわ」

「それは言えるかも」

「僕はまだ緊張しているよ。エリオス君」

「ニールさんはゆっくりして下さい」


 ざわざわと雑談を始めるエリオス君と皆。

よほどインパクトのあった魔王陛下なのか、

それともどこかで見た人とそっくりなので

ついダブって見えたとかだろうか。



「気になった事は沢山あるけどエリオス君?」

「何ですか?エリカお嬢様?」

「あの魔王様、見た目ちょっと若すぎない?

 あんなに大きい子供がいるんでしょ?」

「それは僕も思いました。

 歳を取りにくい種族か外観なのでしょうか?」

「…それはとても羨ましいわね。ねえ。チラッ」



 と外観の話になる。

ちらっとちゃー様を見たエリカお嬢様がつぶやく。

一見するとヴァンパイアは歳をとらないように見えた。

実はそれは本人の前では禁句である。



「ちゃーの方を見るでない。

 ちゃーはもっと、長身でがっしりとした筋肉の付いた体型が良かったのじゃ。

 何かと生活が不便で、皆が羨ましくて仕方がないわ」

「べ、べつにミルチャー卿の話では…」

「ふーん。そうなのか?ギロリ」



 気に障ったちゃー様に睨まれてビクリとするエリカお嬢様。

人には色々とコンプレックスがあるのだ。

それに触れてはいけないのである。

その手の話題はしない用にしようと思ったエリオス君である。


 そんな雑談をしていると、一人の来客がやってきた。

そう、先程の技官であるジュゼリオさんである。

やはり話をしたい事があるんだろうか。



「エリオス卿はここにいらっしゃるか?

 私は技官のジュゼリオという者である」

「私がエリオスです。

 ジュゼリオ卿。初めまして」

「ジュゼリオと呼んで欲しい。

 所で、君と別室で少し話がしたいのだが」

「問題ありません。

 せっかくなのでエリカお嬢様もいっしょに」

「…いや、それは」

「この人は大丈夫です。僕と同類です」

「それならば歓迎だ」

「ちょっと何の話よ、エリオス君」


 そうしてやってきたジュゼリオさんと会話する。

何らかの目的があるのかもしれない。。

わざわざ魔王陛下が呼んで引き合わせたのだ。

当然、何か目的があるのかもしれない。

であれば一緒に話をした方が良いかもしれない。


 そして部屋を移動する。

他の人に聞き耳を立てられない用にして。

ジュゼリオさんが話を始める。



「実は私は、元大英帝国の軍人であり

 西暦1,854年のクリミア戦争で

 戦死して、気がついたらこの魔王国に生まれていた」

「…なるほど」

「食べる物も満足に食べられない貧しい家だったが、

 たまたま魔王陛下に拾って頂き、

 そして前世の技術を復活させて、この国を育ててきた。

 今45歳となるまで頑張ったが、どうだいこの国の姿は」

「理解しました。素晴らしい国です」

「まあ産業革命は道半ばであるが…

 魔王陛下への報告内容では卿らも異世界から来た天の使いであろう」

「…」


 ジュゼリオさんがいきなり直球を投げてきて

どう答えようかまよって硬直するエリオス君。

エリカお嬢様へアイコンタクトするが、

観念した様子で首を縦にふる。

細部を隠したまま話を続ける。



「そうですね。私たちは天の使いです。

 転生者です。

 ちょうど、ジュゼリオさんより少し後の時代から来ました」

「…少し後か。

 どこの国から来たんだ?」

「東アジアの小国の…」

「清国か?」

「いえ違います。島国の日本という国です」

「すまないが、私は東アジアの事はよく知らないんだ」

「まあそういう国があります」



 かいつまんで聞かれた事だけを答えるエリオス君。

この人をどこまで信用して良いものか、まだ判断しかねている。

まずは情報を聞き出す事しか今は出来ない。



「そうか。

 所で、卿らのこの世界での目的は何だ?」 

「実は何も聞いていないんですよ。

 第2の人生を楽しめ、としか。

 なので具体的な事は何も分かりません」

「…そうか?

 そうなのか?

 そうであろうな。

 神は全く何をさせたいのか…」

「とりあえず産業を立ち上げて、

 生活レベルを向上させようかと。

 人々が仕事にありつけて、餓え無く生活出来る社会をと」

「…世界を征服するとか、この魔王国を滅ぼすとか」

「考えたこともありません。

 僕は最初は資産も無いただの平民です。

 生きるために生活するだけで精一杯です」

「貴国は貧しい農業国だったな。当時は」

「ええ。今もそれほど大きくは変わりません」



 昔を思い出すかの様に説明するエリオス君。

収入を得られる様になったのは今だけの話であって、

ロイスター王国はまだ発展途上である。



「まあ良い。

 君たちには是非、貧困と餓えの無い新しい世界を

 作ってもらいたいものだ」

「その考えは理解できます」

「ならば私も協力しよう。

 何か知りたい事があれば手紙でも書いてくれ」

「ありがとうございます。承知しました」



 短い話であったが、

お互いの思いを伝える。



「最後にもう一つだけ教えてくれ。

 大英帝国は、クリミア戦争はどうなったか?

 セヴァストポリ要塞は陥落したのか?」

「セヴァストポリ要塞は1,855年9月11日に陥落しました。

 セヴァストポリ包囲戦では大英帝国の勝利です」

「…そうか。それを教えてくれてありがとう。

 女王陛下万歳」



 そして敬礼するジュゼリオさん。

エリオス君も敬礼して返す。

このジュゼリオさんとは今後も手紙をやりとりする仲となる。

長い友情の始まりであった。

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