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魔王国へ留学⑥ 海賊との白兵戦

 エリオス君は船から小舟へ自家製火炎瓶を投げつける。

すぐに火は燃え移るが小舟を焼き尽くすまでには至らない。

火力がちょっと弱かった様子である。

驚いて必死に消化活動し始める一部の海賊たち。


「…これはちょっと火力が弱すぎたかな?」

「全然駄目じゃの」

「蒸留酒レベルじゃ、燃えきれないか。

 アルコール濃度がまだ低かったか?」

「ダメね、エリオス君」

「次はスピリタス並のアルコールを作らねばダメか」

「何それ…

 飲めないじゃない」

「…よく分からぬ言葉じゃが、

 エリカもちょっとネジが外れとるの」


 思った程の効果が無くてがっかりするエリオス君。

蒸留酒は7〜10回くらい蒸溜しても普通4〜50%前後までで、

その程度のアルコール濃度だとやっと火が付く程度である。

まだ大量の水分が残っているからだ。

当然、まだガソリンの様な揮発性の高いものは望めない。

ちなみに現在スピリタスは70回蒸溜して96%のアルコール濃度

のものが市販されている。

普通に引火事故が起きているので注意が必要である。



「やはり実験は失敗か?

 貴重な黒色火薬代わりにならないかと思ったが」

「釜煮えした油をかけるのと同じ考えじゃな。

 しかし、発想は悪くは無いの。

 威嚇にはなったぞ。エリオス」

「威嚇?」

「奴等の一部は驚いて小舟をこがずに消火に目を奪われておる。

 こちらに向かってくる敵の戦力が一時的に半減じゃ」

「…まあ仕方が無いですね」


 エリオス君の顔を見てロザリーナお嬢様があきれた顔でつぶやく。

しかしその間に小舟は帆船に近づいて海賊が登ってくる。

器用にもロープを引っ掛けて十数人が甲板まで登った。

通常、護衛がいなければ白兵戦になると、

戦闘員の数で勝る方が勝つであろう。



「俺はこの海域の海賊だ。

 この船は俺がもらった。

 神の敵である魔王国の連中は皆殺しだ」


 海賊の一味が暴れだす。

甲板に上陸した時点で既に勝った気分だろう。

しかし運悪くここには歴戦の剣豪が揃っていた。

既に戦う気まんまんである。

不幸な海賊はそれを知らなかった。


「ふむ。

 我ら魔王国に歯向かう上に皆殺しだと?

 その様な不届き者に容赦は不要だな」

「ちゃーも同意見だな。

 数が全然足りないな。

 ちゃー達と白兵戦で戦いたければ、一個中隊は連れてこい」

「僕達も神様の名において悪党は許せません」

「…あの、皆さん?」

「エリオスとニールは弱いから後ろに下がっておれ。

 行くぞランベルト、イザベラ。

 奴らを殲滅するぞ」

「御意」

「お嬢様に続きます」


 そう言い放つと、慣れない船旅に

ストレスが極限まで溜まっていたであろうと想定される

一同は一斉に海賊に襲いかかる。

ロザリーナお嬢様、ちゃー様、執事さん、メイドさん

シルヴィ君にティアナさんの6名は非常に強かった。

このレベル相手では揺れる船の上でも白兵戦には大して問題にならない。

ものの数分も持たず、十数人の海賊は殲滅された。

甲板の上が海賊達の血の海になる。



「ヒッ!!!」

「ニールさん、気を確かに」

「ば、化け物」

「…まあその一言は否定しませんね」

「改めてこうやって見ると確かに恐ろしい剣豪揃いね…

 学校の軍事訓練を思い出したくないわ」

「同感です」



「なんじゃ雑魚ども。

 海賊どもはどんどん甲板に登らせろ。

 妾が全員血祭りに上げてくれるわ」

「ちゃーも雑魚相手では訓練にもならん」

「お嬢様はストレスが溜まっているのです」

「お嬢様はイライラしているのです」



「バ、バーサーカーがここにいる」

「蛮族という意味では間違っていないですね」

「蛮族ですわね。言い方はともかく言葉の中身は」



 どんどん甲板に登ってくる海賊もたちまち斬りつけられる。

下の小舟から上の甲板上は見えないのだ。

襲いかかってくる海賊をあっという間に殲滅してしまった。

武装して陣形を構築した軍隊で無ければ、

個々の戦いでは実力差があり過ぎてまともな斬り合いにならない。

各個撃破されてしまった。


 商人であり普通の平民であるニールさんは卒倒しそうな表情である。

当然、斬り合う経験も無いであろう。

ほぼ傍観者になってしまったエリオス君とエリカお嬢様はため息をつく。

ぼこにされた軍事訓練を思い出して何とも言えない顔をする2名。



「姫様!

 ご無事でございますか?」

「おお船長か?

 妾は無事であるぞ。

 鍛えられた軍人であるからな。

 海賊どもは殲滅したぞ。

 もう大丈夫じゃ」

「…誠に恐縮でございます」

「気にするでない。

 民間人を守るのは軍人の任務じゃ」

「ありがとうございました」

「海賊の事は海軍に任せようぞ。

 彼らの領域である」



 傭兵の護衛と共に船長がやってくるが、

すでに甲板は血まみれで、多数の海賊が横たわっていた。

そのうち、息がある数人が海軍に引き渡される。

尋問するのであろうか。

たった6人ではるかに多数の海賊を各個撃破してしまった。



「所でエリオス君。

 さっきの火炎瓶はどうしたの?」

「お恥ずかしながら失敗作ですが。

 蒸溜したアルコールを瓶に入れてみて」

「…もったいないわね。この時代じゃ高いでしょ」

「手に入らないガソリンや

 貴重な黒色火薬の代わりにはなりませんでしたが」

「そういう時は魔法の方が便利だわね」

「遠距離ならファイアーボールをぶちかましますが、

 ファイアーボールだと、飛び火したら

 こちらの船も燃やしかねませんし

 魔法を使えない人が大多数なので」

「ふーん。

 重火器が十分になければ魔法は確かに有効よね。

 もし魔法を使わないとするなら、

 もっと燃えやすい油や発火材を使うことね」

「…エリカお嬢様に説教されてしまうとは」

「もう馬鹿な事を言ってないで、エリオス君」



 エリオス君とエリカお嬢様が雑談をする。

中世では黒色火薬の玉を投擲して使った話は多いが

それ以外の物質はあまり聞かない。

やはり化学物質の研究はこの時代では難しかったのであろうか。

と、エリオス君は失敗作を反省して次回に生かすのである。

 今回エリオス君は失敗しましたが、

失敗は次の改善の種なので色々と経験してもらいます。

どんどん失敗してもらいます。

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