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魔王国へ留学⑤ 海賊の襲撃と大国火矢、火炎瓶

 一部で船酔いに苦しみながらも、航海は順調に進んだ。

乗船する時に購入した新鮮な食べ物は腐る前に最初に食べ尽くしてしまうので、

食べ物が干し肉や保存食になってくるとご飯のありがたみがなくなってきた。

食料の保存が課題である。

やはり瓶詰めやビタミンCが必要になる。



「海賊は、襲ってこぬの」

「ちゃーもそう思った。

 やはり魔王国は恐れられているのかもな」

「しかしミルチャー卿。

 妾としてはそれはそれでつまらんの」

「小舟が近づいてくる」


 ちゃー様とロザリーナお嬢様が会話する。

甲板から外を見ると小さな島の木陰から小舟が出てきた。

荷物を積んで近づいてくる。

こちらの船舶も慣れている様子で普通に応対している。

実に不思議な光景であった。



「…あれは多分、水と食料と燃料を売りにくる地元民であろう。

 闇貿易じゃな」

「闇貿易」

「そうじゃ。

 時々、地元政府の目をかいくぐって売りにくるの。

 時には海賊らしい連中ものもおるだろうが」

「小遣い稼ぎであるか…

 海賊の奇襲でもあったら危険だとちゃーは思うが」

「一応、合図はあるが海賊じゃないとは限らん。

 その可能性は多いにあるが、

 陸の新鮮な野菜と肉には勝てない。

 まあ戦になれば護衛が戦闘して殲滅じゃ。

 むしろ、各個撃破のチャンスであるの」

「…それでは護衛の海軍は常に無くならないとちゃーは思う」


 ちゃー様がロザリーナお嬢様の言葉にため息をつく。

護衛が常に必要になり、そして海賊が無くならない訳である。

当然、魔王国が海賊狩りを始めると近隣諸国とのいざこざになる。

それで海賊は魔王国にとっても大きな悩みであった。

そして海賊は船団の数が少ない所を狙ってくるのである。



「また小舟である。

 ちょっと数が多くないか?

 ロザリーナ殿」

「…実に怪しいの。

 戦闘員を集めようかの。

 海軍も動くであろう」

「ちゃーは海賊狩りは初めてであるな」


 あくまでも悠長な態度で、戦う姿勢を崩さない武闘派2名。

多数の小舟が近づいてくるが、 2人から見たら

獲物が蜘蛛の糸にかかった様にしか思っていない。

そうして甲板に呼びつけられるエリオス君他メンバー。

もちろん非戦闘員であるニールさんには後ろで隠れてもらう。


「見えますか?

 シルヴィ君、ティアナさん」

「ええ、エリオス様。

 彼らは武器を隠し持っている様子です。

 それも多数」

「海軍も先回りして臨検する動きを見せています」

「そこで距離を詰めて一戦ですか」

「海軍が何か信号を出しておるの。

 停船命令か。だが小舟が無視して突っ込んでくる」


 停船命令を無視する小舟に海軍が威嚇射撃を加える。

それを見て戦闘準備を開始する一同。

魔王国の国旗を見ても逃げずに突っ込んでくるのは

たんなる海賊ではない。

勇猛なのか無謀なのか。



「皆の者、戦闘準備じゃ。

 良いの?エリオス」

「ええ、ロザリーナ中尉。

 皆さん戦闘準備でよろしくお願いします」

「ちゃーは承知した」

「私たちにお任せを」

「あー、私も頑張るわね。それなりに」



 威嚇射撃を無視して突っ込んでくる海賊に

海軍は大砲の実弾を小舟に叩きつける。見事な砲撃である。

小舟は吹き飛ぶか炎上して沈む。

しかし接近しようと試みる小舟。

当時の海戦は洋上の不安定な砲撃では大勢が決しなかったので

最後には接近戦の勝負になるのだ。



「戦闘が開始された様子です」

「ならシルヴィ君、ティアナさんお願いします」

「ええ、エリオス様。

 弓は我らにお任せを」



 エリオス君が言うと双子エルフはいつもより大きな弓をつがう。

弓が放たれると数百メートル先の小舟に見事当たり炎上する。

人間にはとても不可能な命中精度であった。

実はエリオス君が試作した「大国火矢」飛火炬(とびひこ)である。

黒色火薬を筒状の容器に入れて矢に取り付けた。

命中した対象物を炎上させる目的である。

戦国時代末期に使用された。



「…魔法よりエルフの矢は実に恐ろしいの。

 こやつらが一個大隊もいたらと思うと想像しただけで妾は恐ろしい」

「なまじ精度と飛距離が長いので木材建築物相手には効果ありますね」

「しかし矢の飛距離では大砲の射程には勝てまいの」

「次はこちらを皆さんよろしくお願いします」

「まだあるのか?汝は」

「…僕が試作した接近戦の切り札です」


 と言うとエリオス君は陶器で作った瓶を多数取り出してくる。

先端に布が巻いてあり封止してある。

レンガ用の釜で焼いた陶器の瓶である。

叩きつければ割れる程度に厚みを微調整してある。



「この瓶の中に高濃度の蒸留酒を入れてあります。

 そして布に火を付けて敵に投げつけて下さい」

「…それはエリオス君。

 もしや火炎瓶?」

「ご明察です。エリカお嬢様。

 是非実験にご協力を。

 とても危険だからこぼさないで下さいね」

「エリオス君。貴方は。

 本当に危険な人ね。

 野蛮人とは本当に誰の事かしら?」

「知恵をつけた野蛮人は実に楽しいものです。

 エリカお嬢様もどうですか?」

「私には野蛮人はごめんこうむるわ。

 アイスバレット!!!」


 高濃度の蒸留酒は主に消毒薬として古来から作られてきた。

まだ高価であるが即席用の兵器として転用する。

射程は数mから時には数十mにも及ぶ。

木造船舶への兵器としては十分であろう。

投げつけると、たちまち小舟は炎上する。

こうして接近する小舟の数を少しづつ減らしていくのだった。

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