魔王国へ留学① 国王陛下からの勅命と陸軍少佐への昇進
エリオス君は新年早々に王都に呼び出される。
どうやら任務らしいが見当がつかない。
伯爵様と一緒に王宮に向かう事になった。
「今度は何をやらかした?」
「いえ、特に何もでございますが」
「余も分からん。
とりあえず王宮に行けば何か分かるか?」
「…そうでございますね」
半ば投げやりになるエリオス君と伯爵様。
ここの所、戦争や研究で忙しかったし
新しい仕事を任されても何かが中途半端になる。
しかし、王命なら拒めないのも事実であった。
「新年おめでとうございます。
国王陛下、トーマス殿下、宰相閣下」
「よく来たアナトハイム卿とエリオス卿」
「伯爵と坊主に来てもらったのは他でもない。
まず特殊任務をお願いしたいのだ。
多分、坊主にしか出来ん」
「何なりと。殿下」
「よろしい。
そこの小僧に同盟国である魔王国に向かってもらいたい。
間者としてな」
「宰相閣下。普通にスパイ宣言ですな…」
いきなりの宰相閣下の一言にげんなりするエリオス君。
そしてデザインレビューの際にそんな指摘があったなと思い出していた。
様は魔王国の技術力を見てきて盗んでこいと。
よくある話であるが、本当にエリオス君に命じられるとは
最初は思ってはいなかった。
「まあ坊主。
ひらたく言い直すと外交官身分として交流しながら
先進国へ留学してこい。
しっかり勉強しろ。
という訳だ」
「…そうですよね。殿下」
「魔王国の技術力の調査と分析、
そして国力を4月を目処に調べて参れ」
「ハッ」
「アナトハイム卿も良いな?」
「もちろんでございます」
4月までであれば新学期までであろうか。
そして伯爵様はポーカーフェイスを崩さないまま、
丁重な言葉遣いと表情で返答する。
この狸っぷりはまだエリオス君には届かない領域かもしれない。
しかし内面は如何であろうかは、
後でエリオス君が伯爵様にこっそり聞くだろうか。
「ついては、エリオス卿に先の戦と此度の任務の功績で昇進をする」
「陛下?」
「エリオス卿を陸軍少佐に昇格させて、
此度の魔王国留学の際に外交官特権を一時的に与える。
しっかりと学んで参れ」
「ありがたき幸せ」
「まあ普通はこの年齢には任せない任務だが、
小僧は極めて不気味な存在だから
魔王国も怖がるだろうから適任だろう」
「…宰相閣下」
陛下の任命に対し、宰相閣下がちくりと嫌味を言う。
この人のパーソナリティかもしれない。
あまり仲良くしたくないタイプの人であった。
この時は。
「もちろん国費を出そう。
他に数人、卿の裁量で供を連れていくが良い。
準備を進めるが良い。
最新の技術を学ぶが良い。
商業と外交を探れ。
出来れば魔王国で人脈を作れ。
そして我が国に味方する世論を形成せよ。
卿の知見は我が国の生きた財産となるのだ」
「承知しました」
こうして国王陛下から勅命が下りる。
そして謁見が終了しエリオス君と伯爵様は外に出る。
国家の重鎮から開放されてホッとする。
「大げさな話だな」
「そうですね。伯爵様」
「良かったな。内政官殿は少佐に昇格である」
「実は裏がありそうで怖いです」
「しかし卿がいなくなると代わりがおらぬ。
また余の苦悩も増えるな」
「今の所順調なのでは?伯爵様」
「実はそうでもない。
まあ内政官殿のこれからの人選に比べれば
大したことはないのかもしれないがな。
で、誰を連れていくんだ?
外れた奴はもちろん卿を恨むだろうな」
「…それはどういう意味ですか?」
「自分の心に聞くんだな。
蒔いた種は自分で回収することだな」
伯爵様がニヤッと笑いながら不吉な事を言う。
エリオス君には何の事だろうか?と考える。
誰を連れていくか?
そんなの決まっているだろう。
決まって、いるか?
いや決まっていないな、と。
決まるかな、とエリオス君は思った。
「ふーむ。
なかなか難しい問題でございますな」
「ほう、やっと気づいたか。
せいぜい悩むが良い」
「…本音はコックが欲しいですね。
僕の勝手な想像ですと、かの国の食文化が
個人的に怖くなってきました」
「何故その様な意見が出てくるのかが、
余には全く理解できぬのが卿らしいが、
そんな所で悩むのならまだ心に余裕があるのであろう。
ゆっくり人選を考えるが良い」
魔王国は先進国だから産業革命が現在進行中だろう、
ならば食文化はイギリスの例を見ても壊滅的であろう
と勝手に想像するエリオス君であった。
当然忙しくて飯を作る暇もないだろう、と。
しかしそれは紛れもなく本質的な話ではない。
悩みとは別の所からやってくるのであろうと
伯爵様は予感するのであった。