表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
330/450

反射炉試験炉構築① 学生寮で構想案を考える

 エリオス君は、アイヴィーリさんと一旦別れて学生寮に戻る。

次の構想を練り始める。

今ここでやらなくてはならない物は何であろうか?と。

高炉の建設は、見回りはすれども各貴族の代表に委ねてしまっている。

しかしたとえ高炉が建設出来ても一番足りていない物がある。

それは・・・


「アラ、エリオス君。

 帰ってきていたのね」

「ニーナさん。こんにちは」

「アンタはアタシを置き去りにしてあちこち出歩いてばかりに」

「周りに振り回されてばかりですよ」

「一番大切な事を忘れていないかしら?」

「一番大切な事ね・・・」


 ニーナさんにそれとなく諭されるエリオス君。

ニーナさんの言いたい事は分かっているがひとまずスルーして

頭を冷やして考える。

一番大切なこと、一番大切なこと、と。


「それは反射炉だね」

「ふう。アンタったら・・・とぼけるのもその辺にしておいてよね。

 飲み物でも飲む?」

「もちろん、冗談ですよ。ニーナさん」

「全く・・・」


 呆れた顔でため息をつくニーナさんの横でエリオス君は考えを整理する。

ニーナさんを後でなだめておこうと思ったエリオス君。

久しぶりの自宅であるのでゆっくり考える事にした。



「で反射炉って何よ?」

「鉄をより高温で焼く設備です」

「まだ炉を作る気なのね・・・」


 今度はニーナさんが本当に呆れた顔でいう。

反射炉とは、某番組でやっていたのでご存知の人は沢山いるだろう。

金属や銅、鋳鉄を溶かして高温で酸化させる炉である。

反射炉はパドルで空気と混ぜながら金属を溶かしたのでパドル炉と呼ばれる。

不純物と炭素成分を酸化によって除去して高純度化するのである。

不純物を除去することで、脆い鋳鉄が鉄へと、

そして後処理で鋼鉄へと作り変える事が可能である。


 反射炉ができるまでは鍛造で鉄や鋼鉄を叩いて作っていた。

高温で叩く事で鉄の組織を緻密にし不純物を除去する。

しかし量産性が悪すぎて大型の鋼鉄が作れない。

大型の鋼鉄もしくは青銅が大量になければ大砲は作れないのである。

いわゆる軍事的な要求から製鉄業が発達し、

余剰の鋼鉄から蒸気機関や橋などが出来て産業革命が発進したのであった。


 中世の大砲は鋳型整形であり、金属を型に流し込んで作った。

鋳鉄の均質性が悪すぎて熱衝撃で割れてしまったのだが、

15世紀に青銅砲が出来て割れなくなった。

以後、近代まで青銅砲が主流になるのだが、

反射炉で不純物の少ない鉄ができる様になると、

青銅に必要な錫が不要でかつ安価に原材料が入手できる

鉄の大砲へと少しづつ切り替わっていく。

その話は日本でいうなら幕末の佐賀藩や薩摩藩などが有名である。


 しかし反射炉は構造上難しいのである。

反射炉は耐火レンガのみで作られた高温炉である。

しかし当時の耐火レンガには断熱性が無い。

という事は熱が大量に外部に放出する。

本来、高温でありたい炉の内部から多量に放熱して、

熱量が足りなくなって温度が上がらない。

そのためにアーチ状にしたりと無理な設計が多いのである。


「内張りと外周のレンガには自重で壊れない範囲で

 可能な限り断熱耐火レンガを使用して放散熱量を下げないと。

 全然温度が上がらないだろう。

 小型試験炉を作るしか無い」

「また色々と作るのね」

「どうしても量産機を作るのに時間がかかりすぎるから、

 実証試験のスタートのタイミングですべて決まってしまうんだ」

「・・・まあ、戦争があったからね。

 アタシもアンタも。

 体は一つしか無いわ」

「うん」


 という事で試験炉の構想設計をするエリオス君。

高炉と対になる反射炉がなければ、将来の鉄不足と

蒸気機関の量産に支障をきたす事は間違いない。

そこで進歩が止まってしまう。

しかし反射炉は蓄熱という概念で難易度が高い。

現在のロストテクノロジーとも言えるかもしれない。

 


「今度一緒に遊びにいきましょ。この可愛い幼馴染と」

「それは構いませんが、他の幼馴染が何ていいますかな」

「もちろん内緒に決まっているでしょ?

 誰にも喋ってはだめよ。

 分かったわね?」


 いつもニーナさんにお世話になっているので

頭が上がらないエリオス君であった。

しかしその埋め合わせの機会はだいぶ後になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ