火薬バイオテクノロジー④ 郊外の森の中のレイトアークの村、村長のモーリックさん
権力者たちから無事に予算を勝ち取ったエリオス君。
筆頭魔法使いのアイヴィーリさんと一緒に、
公衆衛生の改革と硝石づくりに励むことになる。
「凄いのだ。エリ君。
あんなにアッサリと予算を確保してにゃ」
「いやあっさりとはしていませんから。
怖いですよ、宰相閣下とか。
理由が無ければ近づきたくもないです」
「それは分かるにゃ」
しんみりと心理状況をアイヴィーリさんに語るエリオス君。
最近、急に宰相閣下と直接色々とやりとりするようになると
政治的問題に巻き込まれそうになって心配になるエリオス君。
南の異教徒との大戦争の影響だろうか?
「で、エリ君。次はどうするにゃ」
「そうですね。
まず村の家の下に穴を掘りましょう。
その穴の中の土で硝石を作ります」
「なんでにゃ?」
「冬場は寒いから硝石が出来ないんで効率が悪いんです。
出来るだけ温かい場所を確保しなくてはなりません。
暖炉の下なんか良いですね」
「・・・?」
「土掘り職人のジェムズさんに相談しましょう」
エリオス君の回答にアイヴィーリさんが首をかしげる。
気温が低いとアンモニアを分解するバクテリアが活動しないらしい。
だから家の地下に設置する事が多かったとの事。
当然、熱源である囲炉裏の下にある方が望ましい。
しかし、相当家の中が臭ったであろうと想像するエリオス君。
細かい所はプロの土掘り職人のジェムズさんに相談する事にする。
ちゃんと正式に国家から予算がついたなら、雇用する形で
色々と作業を手伝ってもらおう。
「・・・という訳です」
「やっぱり君たちは王家の使いと」
「いえ、しがない研究者です。殿下の使いっ走りです」
「研究者だにゃ」
「・・・まあそれは良いんだが、
人手がいるな。弟子にも手伝わせたいが良いか?」
「助かります。お願いします」
ジェムズさんと労働力をゲットするエリオス君。
この手の作業人員は好まない人が多いだろうから、
専門家がいるのは助かる。
しかしあまり気分の良い作業ではない。
そこを請け負ってくれると非常にありがたいのであった。
「まず機密保持のために、森の中にある集落に行きます。
各家庭の床下に穴を掘ってそこに排出物と植物と貝殻を
粉砕したものを段積みにして埋めていきます。
しっかり空気が通る様にして。
できるだけ温度の高い場所を選びます」
「そんな都合の良い家はあるのか?」
「郊外の王家直轄地の村にお願いしましょう。
宰相閣下や殿下から指示を出して頂きますのでなんとかなるかと。
機密保持も直轄地なら大丈夫なはずです」
「よし。なら人手を集めよう」
「アイヴィーリさんも研究所代わりの家屋を交渉して
お借りしたらどうですか?」
「そうするにゃ」
こうして郊外の村で硝石作りを行うことになる。
村は王都から徒歩2日程の場所のレイトアークの村に向かった。
早馬で行けば、そんなに遠くないので通うとしてももってこいである。
まさに首都圏郊外の別荘地、グレイスの森であった。
「ようこそおいでなさいました。エリオス卿
村長のモーリックでございます」
「エリオスです。
こちらは主席研究員のアイヴィーリさん。
土掘り職人のジェムズさん達」
「お話は王宮の使者どのからお聞きしております」
「ありがとうございます。
王の勅命によりこの村で研究をさせて下さい。
情報は全て機密扱いでお願いします」
「承知しました」
「こちらのジェムズさんからのご指示にて
ご協力をお願いします」
村長のモーリックさんと会話するエリオス君。
国王陛下からの勅命が先に届いているので話は早い。
当然、この村の状況は王宮に随時報告されて、殿下や宰相閣下の
耳にも届くであろう。
「ではこちらの空き家を住居としてご利用下さい」
「悪くない家だにゃ」
「ありがとうございます。
家政婦としてメイドさんを村から雇用させて下さい」
「承知しました」
空き家を紹介して頂く。
もう使われなくなった没落貴族の別荘だったらしい。
ここがアイヴィーリさん他の研究所兼別荘となる。
そして時々ふらっと遊びに来る放蕩殿下の引きこもり場所にも
なってしまうのであった。
はるか未来は避暑地として活況になる場所でもあるが、
今は、硝石の生産拠点となり少し臭うかもしれない。
「エリオス殿、アイヴィーリ殿。
人員が必要であれば、農業や林業の繁忙期以外でありましたら
村の住人を雇用して頂けないでしょうか?」
「これから冬場なので寒い時期ですが、
冬から春先までにかけて土の仕込みを行いますので、
そのご協力をお願いします。
必要な工数はジェムズさんと相談するので
こちらから雇用させて下さい」
「ありがとうございます。
村の住人も生活が苦しいので、
新しい仕事があると助かります」
「雇用には困っているのですか?」
「ええ、エリオス殿。
寒くて森の中なので農業に適していない貧しい村なので
収入が少なくて困っています。
水や森林資源はありますが林業では生活出来ないので・・・」
村長のモーリックさんから相談を受ける。
キルテル村は工場が拡大し雇用が足りなくなってきているが、
他の村々はまだそうではない。
人的資源もかなり余っていて賃金も安いだろう。
この村の土地柄は非常に資本主義商売に向いている。
「この村で工場を作って、王都向けの製品を量産するのも良いかもな。
ちょうどキルテル村の労働力も不足している頃だろう。
お父様に相談しよう。
大都市での売上を上げるチャンスかもしれない」
エリオス君の頭の中でふと第2工場のイメージが思い浮かんだ。
こちらであれば、より王都に近い。
早馬で一日もかからない。王家の保護もある。
そして水資源や林業と雇用も余っている。
王家の直轄地であるので当然伯爵様は良い顔をしないであろうが、
拡大する商売の予防線をそろそろ考えても良いのかもしれない。
生産拠点が一つだと自動化による効率改善には良いが、
どうしても資源の問題や自然災害などの被害が出た場合に
バックアップが無ければ商売が耐えられなくなる。
企業が工場をあえて分散させる理由は、
雇用問題とリスクヘッジを目的にする場合も多いのであった。