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南の異教徒との停戦条約

 急に王宮に呼ばれる伯爵様とアーシャネット大佐とエリオス君。

何事かと思ったが、アーシャネット大佐と同席なら

戦争の話しかないであろうと、逆にホッとしてしまうエリオス君。

その考え方が非常に甘かった事を思い知らされる。


「アナトハイム卿がいらっしゃいました」

「席に座らせろ」


 大広間に円卓が置いてあり、国王陛下や宰相閣下など国家の重鎮が座っていた。

トーマス殿下に外務大臣、ジェロード皇太子もいた。

グリーヴィス公爵家からはランドルフ宰相とグリーヴィス公子が参加している。


 相対して向かい側には南の異教徒と思える服装をした貴族、

軍人にそして外交官が座っていた。

なにかの外交交渉であろうか?

空いている部屋の末席に座ろうとする一同。


「アナトハイム伯爵、以下3名参りました」

「遅いぞ伯爵。

 ・・・ほう、よくぞ来た。

 そこの小僧は俺の隣に座れ」

「えっ・・・?」


 宰相閣下が言うと隣のスペースに椅子が用意される。

実に円卓の中央側面に位置するVIP席であった。

嫌な思いをしつつも、顔に出来るだけ出さずに

用意された椅子に座るエリオス君。

実にまな板の鯉状態であった。


「む・・・」

「あのチビの小僧は、まさかローリッジ丘の・・・」

「あの猛将たるセリム・ギレイ王が殲滅させられたという」


 とたんに南の異教徒側の軍人の表情が変わる。

ニヤリとした表情をする宰相閣下。

ハッタリを効かせようという思惑であろうか。



「我が国は攻められた事に間違いはないが、負けた覚えはない。

 そちらがその気なら、次は我がロイスター王国総力を上げてやる。

 好きにかかってくるが良いぞ。

 そして次はこの小僧に10万の大軍を預けてやろう」

「・・・」

「加えてそちらはわずか1万2千の城塞都市ローリッジすら落とせなかったな」


 見事なハッタリをかます宰相閣下。

それはちょっと盛りすぎだろうと、心の中で思ったエリオス君。

どこに10万の大軍がいるのか?

そんなのあるのなら、最初から出しておけば、と。

しかし外交交渉の場なので、表情に出すわけにもいかなく、

ポーカーフェースを続ける。


「(小僧、何かハッタリをかませ)」

「(あ、ハイ)

 今回の手勢は寄せ集めの新兵のわずか3,500人に過ぎません。

 偵察目的のお遊びでございます、お遊び。

 次は隣国と同盟を結び、手つかずの国境警備隊も国内の守備隊も全部集めて

 総力でやらさせて頂きましょうぞ」


 宰相閣下に言われて無理やりハッタリをかますエリオス君。

内心はヒヤヒヤである。

正確な情報が伝わっているだろうから、あからさまな嘘は言えない。

即興でこんな演技をさせられてドキドキする。

これは後で宰相閣下に一言文句を言わねばならないな、と。

実は言えるはずもない。

心の中で貸し1個にしておこうと思ったエリオス君である。



「フン。そんな小僧のハッタリに何の意味がある?

 宰相よ。

 我が軍はほとんど手つかずで被害は微少。

 そちらには戦う戦力はもはや残っておるまい」

「果たしてそれはどうかな?

 我が公爵軍と王家の直属の軍は無傷。

 そして各貴族の方領や傭兵などはほぼ手つかずである。

 我が国は直接戦闘しても勝てる打算が今回ついたのである。

 貴公らの兵站能力の限界を見せてもらった。

 また野戦でなくては貴国は我が国に勝てぬと来ているな。

 我が軍の数を集める事は大した問題ではない。

 城塞都市ローリッジの城壁を少し傷つけた程度で調子に乗ってもらっては困るな」


 南の異教徒の軍人に一言言われるが表情も変えずに言い返す宰相閣下。

エリオス君は、この宰相閣下の啖呵を切リ方にちょっと尊敬を感じてしまった。

この度胸とハッタリは流石に凡人の物ではない。

この宰相閣下と王家が本気になれば、確かに不可能ではなく間違っていない。

逆に今回、援軍を出さなかった事が不思議でならないのであるが。



「それに我が軍には名将で有名なミルチャー卿がおりまする。

 大軍を任せられる英雄殿であります。

 その強さは貴公らもよくご存知のはずであります」

「チッ。あの伝説のヴァンパイアロードか。

 ただの噂に過ぎないと思っていたが、

 まだ生きておったのか」

「加えて、我らの同盟国も参戦を強く希望している様子。

 次は大軍を引き連れて本気で参戦しましょうぞ」

「小僧!

 貴様らはよりによってあの魔王の軍勢を呼び込むつもりか?

 やつら魔王国は神の敵であるぞ。

 魔王と手を結ぶなどと、神の名において許せぬ。

 恥を知れ!

 神の怒りを受けるが良い」

「私は誰も魔王国などとは申してはおりません」

「・・・くそ生意気な小僧が!」


 激昂する南の異教徒の軍人。

売り言葉に買い言葉である。

もう良いでしょうか?と心の中で思うエリオス君。

ギリギリと胃が痛くなる。


「・・・まあこの辺にしておきましょうか」

「そうであるな」


 相手の外交官と宰相閣下が頷きあう。

初めからお互いの打算がある程度ついていたのであろう。


「領土問題は現状維持として、

 停戦条約を3年ではどうか?」

「3年か。適当な所であるな。

 陛下、いかほどに」


 ここらが交渉の落とし所と判断した宰相閣下が陛下に決済を委ねる。

周囲からは反論は出ない。

すべては陛下の裁量に委ねられるのであった。

  

「よろしい。

 朕の名で停戦条約を結ぶが良い」

「承知いたしました。陛下」


 こうして南の異教徒とロイスター王国は停戦条約を結ぶ事になる。

国境のいざこざを挟みながらも、何故かこの停戦期間は守られる事になった。

そして南の異教徒は南の海を目指し、魔王国と対立する。

ロイスター王国は南の異教徒の脅威を一時的にも解消し

国内の平定に全力を注ぐのであった。 

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― 新着の感想 ―
[一言] どこが仲介国かが重要そうですね。そうでないと不都合を感じたらあっという間に破棄されそうですし。 あるいは人質や婚姻か…。
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