第2回帝国大学祭① 農学部の出し物
あの後ウィリエルさんは悩みながら帰宅し、女神様は再び消えてしまった。
エリオス君はこの複雑な状況に頭を抱えつつも、
とりあえず商売を優先させる事にする。
「店長。エリオス君。
所で大学祭もうすぐだね」
「・・・
今、何て言いましたか?エリノール副店長」
「大学祭。
大学祭だよ」
「・・・」
副店長のエリノールお嬢様がつぶやく。
そう季節は秋が深まり冬に入る。
もうすっかり寒いのである。
去年は大学祭の裏幹事としてイベントを支えたエリオス君だが、
今年はまだ何にも関与はしていなかった。
エリオス君は戦争に行っていたから。
そうなると今年の大学祭は大学の有志で運営していた事になる。
一応去年の大学祭の幹事はリリアンヌ教授だから、
2回目にもなればなる様になるという事であった。
イベントは経験がものを言うので初回が重要な話である。
「去年の大学祭が好評だったから、今年もやるそうです。
我々も何か出展しましょうよ。店長」
「・・・すっかり忘れていました。
何も準備していません。
どうしましょう」
「うーん。そうですねぇ。
その聖書の訳本でも」
「今から聖書の新規出版をしても大学祭には間に合いませんよ」
「その見本があるじゃないですか。
売り物には出来ませんけど」
エリノールお嬢様がつぶやく。
何やら考えが有る様子である。
一瞬任せてしまおうか、と思ったエリオス君であったが
大学の他の研究室の出し物を聞いてから考えても遅くはない。
「大学の他の研究室も一度回ってみましょう。
何か出し物の考えがあるかもしれません。
参考にさせて頂きましょう」
「そうですね。店長。
今までの分もしっかり働いてもらいましょう」
「・・・発言に毒がありますね」
「ええ、店長。何か言いましたか?」
「なんでもございません。では研究室を回りましょう」
エリノールお嬢様に当面逆らえないエリオス君。
色々とストレスが溜まっている。いや怒っているのか?
当面大人しくしていようと思ったエリオス君であった。
「まずは農学研究室、と。
リリアンヌ教授はいらっしゃいますか?」
「アラ、エリオス君じゃないの。
無事で良かったわ」
「エリオス君。心配したよ」
「戦争が終わったのだから、たまには大学にも顔を出しなさいよ」
作物学のリリアンヌ教授と畜産学のセドリック教授、エリカお嬢様である。
驚いた表情とホッとした表情をした三人であった。
とても心配していたのだろうと表情から悟るエリオス君。
「この国の食料問題も解決したとは言えないのよ」
「我々は来る日も来る日も芋ばかり」
「小麦やパンが高騰していてね。大学教授の収入では辛いわ」
「研究者が芋を食べなくてどうする?
我々がしっかり食べて食糧難を解決するんだ」
げんなりするリリアンヌ教授と力説するセドリック教授。
戦争で穀物が十分に取れなくて苦労している様子である。
まあこの人達は研究者だから、なんでも工夫して食べるだろうが
普通の庶民はそうはいかない。
芋、芋、おかゆの毎日である。
元々、戦争で穀物が値上がりするから買い占めろ
と言い出したのが実はエリオス君である。
備蓄や投機を目的に多数の金持ちが食料を買い込んだ事だろう。
狙いは戦争に勝つために南の異教徒の食料を買い占めさせる事だったが、
当然のごとく物価は急上昇しインフレになる。
戦争の後始末の事はちゃんと考えては、当然いなかった。
「人間、芋が食えればとりあえず死にはしませんね」
「エリオス君。その発言は酷いわね。
でもちょうど芋があって良かったわ。
餓死者を出さなくて幸いよ。
エリカお嬢様が美味しい芋メニューを作って
民衆に振る舞ってくれたから。
大貴族様のお陰ですわ」
「ふふん。私も食料問題で頑張ったのですからね」
「そんな事が裏にあったのですか・・・」
リリアンヌ教授から意外な背景を聞いて驚くエリオス君。
食料との戦いも、一種の戦争と同じだったんだなと
今更ながら考えるエリオス君。
「まあ、作物はともかく畜産は何の貢献もしていないけどね」
「・・・それを言うな。
リリアンヌ教授」
リリアンヌ教授がセドリック教授をチラっと見て言う。
畜産技術はまだ十分ではないので、食糧危機に貢献出来ていない。
エリオス君はため息をつきながらも、本題に入る事にする。
「大学祭の出し物は何か決まったのですか?」
「そうよ、大学祭ね。
今年もやるわよ。
作物は・・・芋しかないのよ。今」
「流石に貴族は芋を食わないしなぁ」
「なら芋料理レシピ帳を作ってコンテストしましょう」
「それ面白そうですね。
じゃあ今年も秋はビートの季節なので、
ビート蜜と砂糖のパンを行きつけのパン屋で焼いてもらいます。
必要な小麦はどこぞの放蕩殿下にたかります」
「なら我が公爵家ではビスケットを焼いてもらいましょう。
そしてじゃがいもで大学芋風アレンジとポテト料理を」
「食い物ばかりだな・・・」
食い物に走るリリアンヌ教授とエリカお嬢様。
ため息をつくセドリック教授。
とは言え農学部の問題は食料問題である。
であれば、手に入る食材を普及させて餓死者をなくすのも
立派な仕事とも解釈できない事もない。
「そう言うなら、うちの公爵家のコックとメイドを呼んで料理教室をやるわよ」
「ああ、それも面白いですね。
貴族は自分で調理しないでしょうけど、庶民組には
面白いかもしれません。
貴族にはついでにコックの参加を要請しましょう」
「出し物のネタはそんな所かしら?」
「一旦はそれでいきましょう」
農学部はあるものを工夫して出展に出さざるをえない。
食料高騰に適応して新メニューや食べ方を提案するのも一つの考えであろう。
しかし貴族相手には受けは悪いだろうとも思いつつ。
こんな感じで大学祭の出し物を考えていくのであった。