高炉建設予定地の視察とレンガ職人のモーヴァイさん
今日は伯爵様と他メンバーで高炉の建設予定地に向かう。
製鉄業の仕事は各部署と貴族とで分業になっているので、
エリオス君が不在でも進む所は進んでいる。
グリーヴィス公爵家の担当の製造部門は主に公爵家のランドルフ宰相が
実務担当をしており、戦争とは別で王都から指示が出ているので業務は止まっていない。
もちろん伯爵様も人集めと場所の権利の話は進んでいる。
アナトハイム伯爵家領地の川沿いの郊外が高炉建設予定地である。
ここは鉱山が近く、水車の動力源である急斜面の川がある。
そこに耐火レンガ製造用の窯を建築しているのであった。
「こちらが建設途中の場所である」
「ありがとうございます。伯爵様」
「余の担当は本来安全や品質だが実質的に色々な実務も兼任している。
土地や人員の確保なども含めて」
「地の利という奴ですね」
「余の父上にも協力してもらっている。
最近、内政官殿が手伝ってくれないので手が足りなくてな・・・」
「伯爵様。
僕が戦争で不在だったのは伯爵様のご命令ですよ」
伯爵様に説明してもらう。
伯爵様が愚痴るが、エリオスには何も落ち度は無い。
そもそも戦争に参戦したのも伯爵様の命令である。
お互いを恨めしそうな顔で見る伯爵様とエリオス君であったが、
代わりはいないので苦しい所である。
そういう関係になってしまった。
「伯爵様」
「なんだ」
「内政官が足りていませんか?
事務員が沢山必要ですか?」
「・・・行政範囲が増えてきてプロジェクトも追加された。
難民や人口増加に加え、魔王国からの物流や商業も増えた。
所帯が足りていないのは事実だ」
「では組織を拡大されますか?」
「もう少し税金が増えたらな。
多少人が足りていない程度が一番良いんだ。
税収が減ったら賃金が払えなくなって目も当てられん。
忙しい、状態を維持させるのが余の仕事とも言えるな」
「それは間違いありません。伯爵様」
伯爵様とエリオス君がお互いに笑いながら雑談する。
人手不足は苦しい所があるが、高度な人材を簡単には増やせない。
識字率が低すぎるのだ。
「卿にだけ話すが、余はこの人材不足が容易に解決出来ないと考えている。
そして王都の大学から容易に人材を引き抜けないのも理解している」
「・・・伯爵様」
「余も領内に大学を作ろうと思う。幹部候補生として。
内政官殿の様な優れた人材を育てる為に。
例えばウィリエルやあの教授の子供達を引き抜いて教員にする」
「それはお金がかかりますな。伯爵様」
「余はいつかは避けられないと考えておるのだ。
王都から自立するのもな。
それが少し早くなっただけだ」
「承知しました。伯爵様」
少し先の話をする伯爵様。
エリオス君が長期にいなくなり堪えたのであろう。
人がいきなりいなくなると、その仕事をこなす必要があるから
残った人は辛いのだ。
そういう場合は、放置してやらない仕事が出てくる事になるが。
本来はなるようになるはずではあった。
しかし、本当に得難いものは人材である事も間違いない。
「そう言えば余はあそこに耐火レンガ用の窯を作らせた。
一度、卿も見てみるが良い」
「・・・あれはレンガ職人さん」
王都のレンガ職人さんを王命で伯爵様が雇用して、親方として
技術指導と高炉建築用に使う耐火レンガの窯を作っている。
高温に耐えられる窯を作りそれから耐火レンガを作るのである。
高炉を作るには膨大な量の耐火レンガ。
耐火レンガを作るには、レンガ用の窯を作る事から始まる。
窯でレンガを作り、更に窯を作る。
当面はこの作業の繰り返しであった。
「窯の次は高炉予定地での土木作業だな。
更地にして、重量に耐えられる土台を作らねばならん。
それも王都の職人を手配して進めている」
「少しづつ形になっていきますね」
「雇用した作業員は今は建築作業に駆り出している。
その為に必要な衣食住も近隣の村々から総出で手配している。
大掛かりな規模であるので、ここに街が出来るであろう」
「街ごと新しく作るレベルでございますな。
まさに国家プロジェクトに等しい姿です」
「・・・卿も早く新技術を立ち上げて欲しいものだ」
「・・・」
建築作業はある程度進捗している様子である。
しかし新技術の構築は戦争のおかげで遅れている。
王都に帰ったらラスティン先輩をしごいて働かせないと。
教授にも手伝ってもらおう。
そう伯爵様と雑談してると、
「貴方がエリオス卿ですね?」
「僕がエリオスです」
「噂はかねがね。
技術部長、棟梁かつ英雄殿との噂。
お会い出来て光栄です。
・・・失礼、私はレンガギルドから派遣されて来ましたうちの一人、
モーヴァイと申します」
「モーヴァイさん。宜しくお願いします」
「レンガの事なら何でもお任せ下さい」
レンガ職人さんのモーヴァイさんと挨拶するエリオス君。
モーヴァイさんは優れた職人さんで背丈はやや低めであるが
非常に筋肉質で優しい表情をしている。
エリオス君はこのモーヴァイさんに今後レンガの事や建築など
様々な事でお世話になるのであった。