城塞都市ローリッジ大包囲戦⑳ グリーヴィス公爵の負傷
「公爵閣下が爆発に巻き込まれて、負傷なされた!」
城塞都市ローリッジが大騒ぎになる。
士気向上の為の視察の際に坑道での爆発に巻き込まれたのだ。
グリーヴィス公爵は最高権力者であると共に
精神的な支柱であるので、士気に影響する。
「余はなんとか生きている」
「公爵様。
その様なお怪我で。医者を早く呼べ」
「余よりも、伯爵家のローラッド大佐が!」
グリーヴィス公爵が叫ぶ。
速やかに医者が来て診断するが、首を横にふる。
「公爵様は重傷ですが、命には別状はありません。
爆発した壁の破片が腹部にあたり内蔵を痛めている様子です。
しかしローラッド大佐はほぼ即死でございます」
「余は爆破による当たり所がまだ良かったのか。
ローラッド大佐は実に残念である」
「公爵様を直ちに医務室にお運びします。
治療を開始します」
「頼む。
それと、伯爵家のジェレール中佐に指揮を継ぐ様に
伝えてくれ。細かい話はパッカード将軍に任せる様に」
「承知しました」
「この事は公にするな。箝口令をしけ」
医者が診断する。
それにグリーヴィス公爵が答える。
そして苦しそうな顔をするグリーヴィス公爵を連れていく。
しかし箝口令と言っても、口を十分に塞ぐ事は出来なかった。
その連絡がパッカード将軍に伝わる。
公爵様負傷の知らせを聞いてパッカード将軍の顔が曇る。
実質の軍をパッカード将軍が率いているとは言え、
あくまでトップと精神的な支柱はグリーヴィス公爵である。
「大変な事になったな」
「パッカード将軍。
しかし将軍が健在であれば、まだ戦えます。
公爵閣下には少し休んで頂くしかありません」
「それはそうだな。
もちろん戦いは継続する。
それはそれとして、アナトハイム伯爵軍のジェレール中佐を呼べ」
「承知しました」
パッカード将軍が指示する。
アナトハイム伯爵家の軍をジェレール中佐に引き継ぐ為である。
「パッカード将軍。お呼びでしょうか」
「忙しい所、すまない。
ジェレール中佐。
先程、敵の襲撃で公爵閣下が負傷し、
ローラッド大佐は戦死なされた」
「なんと・・・
公爵様とローラッド大佐が」
「卿にアナトハイム伯爵軍の部隊を率いて欲しい。
後は公爵様のご指示で箝口令をお願いしたい」
「・・・承知しました。
しかし士気が下がりますな」
「そこをお互いが何とかするしかない。
公爵軍は小官が指揮を取る。
卿も何とかご協力をお願いしたい」
「承知しました。
アナトハイム伯爵軍はお任せを。
まずはこの戦に勝利しましょう」
「心苦しいが、まずは勝ってからお互いに考えよう。
公爵閣下は健在である。
お互いが生きてさえいれば何とかなる」
パッカード将軍がジェレール中佐と会話して、
指揮権の移譲と部隊の指揮を依頼する。
この場にいる最高位士官なので当然ではある。
簡単な話だけをして、お互いの持ち場に戻る。
まだ戦闘中なのだ。
「パッカード将軍。
敵が地下から進入しております」
「分かった。直ぐ向かう。
守備隊よついて参れ」
「ハッ」
それぞれの持ち場に敵が進入したら、
援軍を送り込んで反撃する。
時にはパッカード将軍自ら現地で指揮を取る。
一進一退の攻防である。
そこにリンプラー要塞技師がやってくる。
「パッカード将軍。
敵は地下から進入を企ててきます。
守備隊を置いて迎撃体勢を整えます」
「卿の判断通りに。
リンプラー要塞技師。
この城塞都市も簡単には落とさせぬ」
「そう言えば、パッカード将軍。
先程、噂で聞いたのですが・・・」
「・・・もうそこまで伝わってしまったのか」
リンプラー要塞技師に説明するパッカード将軍。
事態の深刻さをここで再び理解する。
「パッカード将軍。
地下から坑道を掘ってくる敵に水攻めをしましょう」
「水攻めとは?
リンプラー要塞技師」
「大河から堀に流れてくる水を使います。
その水を奴らの坑道に流し込みます」
「そんな事が出来るのか?」
「堀に細工して穴を作ってあります」
「・・・よし、頼む」
「承知です」
リンプラー要塞技師は、堀の水を使い
坑道を水攻めにする。
流し込まれた水は坑道を伝って、
逃げ場の無い敵を溺死させる。
これも日本の中世で良くやられた手法であった。
こうしてグリーヴィス公爵不在でも戦いは続いていくのであった。