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城塞都市ローリッジ大包囲戦⑮ ミルチャー卿とマスケット兵の3列2段撃ち

 迫り来る圧倒的な数の敵にビビりそうになるが、

砲兵隊の放つ榴弾が着弾すると拡散し兵士を吹き飛ばす。

この榴弾は魔王国から持ち込んできた最新兵器の一つである。

魔王国の100門の大砲は当時の一軍の装備に匹敵する膨大な数であった。

日本の近世、いわゆる戦国時代では殆ど榴弾は使われていなかったが、

近世ヨーロッパでは30年戦争を境に野戦にも大砲が

用いられる様になり榴弾が使われた。


 榴弾は特に隊列を組んだ非装甲の部隊には影響が大きく

敵の陣形を吹き飛ばした。動揺する異教徒の騎兵やパイク兵。

しかも南の異教徒は十分な数の大砲をこの地に持ち込む事が出来なかった。

中世では騎兵に対抗するために密集陣形である事を要求されたが、

大砲の大規模な導入により戦の形がどんどん変わっていく。

密集陣形は大砲の威力増加に伴い、

自殺行為へと変化していくのである。


「ミルチャー殿。

 もう直ぐマスケット兵の射程内です」

「分かった。

 マスケット兵、隊列を組んで構えろ」


 教官かつ指揮官であるちゃー様がマスケット兵に指令を出す。

3列2段攻撃の陣形である。

この攻撃シフトはスウェーデンのグスタフ2世アドルフ王の戦術を

エリオス君の指示で真似した隊形である。

ちゃー様の指導で猛特訓して身につけたのだ。


 軍事革命でのオラニエ公マウリッツのカウンターマーチは

7列構成で後ろへ下がりながら、交代してマスケット銃を連続して打ち続ける隊形だったが、

衝撃力を増すために3列を1段として一斉に射撃し、

2交代で打ち続けさせた。弾込めにかかる時間は猛訓練で短縮させた。

結果として敵は弾幕に押されて陣形を突破する事が困難になった。


「撃てー」


 ちゃー様の号令で爆音と共に一斉にマスケット兵が銃撃する。

そして後列と入れ替わり再び銃撃を行う。

これを繰り返す事で敵兵を食い止めるのだ。


 しかし敵も非常に勇敢であった。

爆音と銃撃にもひるまず騎兵隊はつっこんでくる。

本来なら馬が爆音に反応して先に驚いてしまうので近づくのは容易ではない。

あわや突破されると思ったその瞬間に、ある異常に気がつく。

馬防柵の前に偽装した大きな堀が掘ってあったのだ。

そこに罠が仕掛けてあった。

堀に落ちて身動きが取れなくなった所に止めをさされる。

堀を飛び越えようとしても馬防柵に阻まれる。

多段構えの防御と攻撃であった。

これはもちろん、長篠の戦いを元にアレンジしたエリオス君の発想だ。

事前に、周到に野戦築城を作り続けた結果でもある。


「敵兵は非常に勇敢である」

「攻防一体となったエリオス殿の野戦築城は、

 魔王国の新兵器と重ね合わせると

 末恐ろしいものがあります」

「だが敵は大軍だ。

 死体を乗り越えて攻め込んでくる。

 実に勇敢で手強いの」

 

 部分的に馬防柵を突破してなだれ込んでくる場所が出てきた。

敵も流石である。しかし、残念ながら突破力をそこで使い切ってしまう。

そこに双子エルフの率いる弓兵が、高精度の弓を打ち続ける。

鍛えに鍛えられた弓兵はマスケット銃に勝る。

敵の先兵はどんどん討ち取られていった。

だがその後背には敵のパイク兵本隊が迫ってきている。

敵は3倍以上の大軍である。


「督戦隊でもいるのだろうか。

 逃げぬとは奴等は恐れをしらないのか」

「中佐殿。

 敵の騎兵が迂回をしております。

 この丘を包囲するつもりであります!」

「予想通り別働隊が包囲しに来たか。

 エリオス殿。合図を」

「マーシリエお嬢様の傭兵隊に伝達しましょう。

 伏兵で逆襲を。

 シルヴィ君お願いします」

「エリオス様。承知しました」


 エリオス君が双子エルフのシルヴィ君に合図すると、

シルヴィ君は鏑矢をつがえて、遠くまで放つ。

笛の様な音と共に現れるパイク兵の傭兵隊。

機動力の高い騎兵が丘を包囲すると先読みして、

事前に伏兵を仕掛けておいたのだ。


「敵の騎兵を攻撃せよ!」


 マーシリエお嬢様の一声と共に隠れていたパイク兵の

槍を前に掲げて敵の騎兵隊を迎撃する。

ベテラン兵が多い傭兵隊に槍を持たせて陣形を作っているのだ。

馬は尖ったものが苦手であるので、パイク兵と相性が悪い。

中世ではパイク兵の密集陣形は大きな戦力となっていた。

突如横槍を受けて、伏兵による奇襲を受けた形になり

敵の騎兵隊は総崩れになった。退却を余儀なくされる。


「策は見事に成功した様子です」

「まだまだ」


 戦はまだ終わっていない。

敵の本隊が正面から近づいてくる。

まだ敵はこちらより遙かに数が多いのである。


「銃剣を着剣せよ。

 白兵戦だ。

 全軍抜刀」


 アーシャネット中佐のかけ声で着剣を開始する。

至近距離になるとマスケット銃の弾を込めるのが難しくなる。

本来、マスケット銃は射程距離が100m前後と短く、

歩兵や騎兵の接近を許すと対抗手段がなかった。

しかし銃剣により槍の代わりとなり独力で迎撃する事が可能となった。

そうして全てがマスケット兵に置き換わり、白兵戦も可能になった。

こうして戦いは白兵戦に移り変わるのであった。

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