城塞都市ローリッジ大包囲戦⑬ 補給線への騎兵突撃
丘の上からじっと敵陣を見つめるエリオス君。
どうやら敵の動きに変化がある様子である。
アーシャネット中佐と会話するエリオス君。
「敵陣に動きがありますね。アーシャネット中佐」
「ふむ。力攻めを中止したか。
攻城戦としてはこれからが本番でしょうか」
「城塞都市ローリッジの防御力の高さに警戒したのかもしれません」
ふとアーシャネット中佐がエリオス君の顔をじっと見る。
何事かと気になってアーシャネット中佐の顔を見て目線を合わせる。
「どうしましたか?」
「・・・エリオス殿が敵将なら次はどうする?」
「力攻めの次は絡め手でしょう。
地下から攻めるか、内部から崩壊させるか。
兵糧責めにするか、築城するか。
手は幾つかありますが敵に選択肢は少ないでしょう」
「その中だと、地下か兵糧攻めか。
そうか兵糧か」
アーシャネット中佐の頭の中で何か閃いた表情をする。
それを悟ったエリオス君は少し嫌な表情をする
この人の考える事は攻めに転じて暴走しがちで
守勢に回ると結構大変である。
そこの所を注意しないと直ぐ崩壊してしまうのであろうか。
「なら我が軍に出来る、敵が最も苦しい1手とは何であろうか?
エリオス殿」
「・・・それは補給を絶たれる事でしょう。アーシャネット中佐。
あの大兵力を支えている食料、つまり補給線です。
そこを襲われるとたちまち餓えるでしょう。
奴らのアキレス腱です」
「ならば後方を襲撃するか?
密かに騎兵隊を送り込むか」
「博打の要素はありますが、効果はあります。
敵は兵糧を運ぶのに護衛が必要になるでしょう。
それだけで相当の負担です」
「牽制の手としては面白い。
私好みの1手であるな」
「・・・暴走しないでくださいよ。
騎兵隊がいない状態で奇襲攻撃を受けたら、
本隊は包囲されて壊滅です」
「敵が本格的に攻めてくる前の今がチャンスだ。
一撃離脱であれば被害は最小限に押さえられるであろう。
よし行こう」
そう言うと急に騎兵隊を集める。
嬉々としてやってくるのがこのロザリーナお嬢様。
この人を連れてきたのは間違いだったのであろうか、
と一瞬悩むエリオス君であった。
「ロザリーナ殿。
私はこれから敵の輸送部隊を騎兵隊で急襲するつもりです」
「ほう、中佐殿は戦を良く分かっておるの。
妾も同意見じゃ。
敵の弱点を急襲するつもりじゃの。
騎兵隊が丘で籠もっていても意味がないのじゃ」
「よし、敵の後方へ遠回りして忍び込んで
襲撃し、食料に火を放とう。
一撃離脱である。
エリオス殿。丘の指揮は頼む。
善は急げ」
蛮族と蛮族の親分の意見が一致した瞬間である。
こうして裏から騎兵隊が襲撃する事になった。
歴史上、支城から後方を襲撃するのはオーソドックスな手段である。
しかしそれに対抗するために常に大軍で包囲し
支城を落とし続ける事が必要であるが容易ではない。
それだけの兵力を支城に集中しつつ、
かつ長期間の戦闘に耐えなければならない。
騎兵隊を率いるアーシャネット中佐が大きく迂回して
敵の輸送部隊を発見する。
12万の兵の食料を維持するために、
長い補給線を沢山のラクダで毎日運搬し続けなくてはならない。
当然、遠目で見ても隠しきれる訳でもない。
「あれか」
「その様です。中佐」
「よし、突撃するぞ。
騎兵隊は横隊に展開、
一撃離脱で敵兵を攻撃し荷物には火をつけろ。
そのまま反転し撤退だ。
敵はほぼ非戦闘員であろう。
良いな?」
「ハッ」
「では全員サーベルを抜刀しろ、
チャージ!!!」
騎兵隊は白兵戦を重視してサーベルを装備している。
機動力を重視して軽装備でかつ衝撃力を重視している。
近世では有名なポーランドの重装槍騎兵の様な、
敵陣を崩す為のランスを持っている訳ではない。
軍事革命の結果、銃弾を鎧で防げないと判断し
高価で重い重装備の代わりに軽装で接近戦に切り替えて
戦のやり方を変えているのであった。
非戦闘員である敵の輸送部隊はたちどころに蹴散らされる。
サーベルで馬上から切りつけられて対抗できない。
十分な護衛をつけれていなかったのである。
中世から近世にかけての対騎兵戦は、パイク兵で陣を組むしかない。
当然、輸送部隊は騎兵隊の奇襲には弱い。
「アーシャネット中佐。
敵は荷物を置いて逃亡しております」
「深追いは不要だ。
荷物に火を付けて直ぐに撤退するぞ。
もたもたすると直ぐに敵の援軍がやってくる。
我々には大軍と対抗できるほどの戦力が足りてない」
「承知しました」
輸送部隊を蹴散らした後は物資に火を付けてから撤退する。
あくまで標的は補給物資である。
今後は護衛をつける事を強要された南の異教徒には
更に遠征軍の負担が重くなり、継戦能力が大きく落ちた。
後に大きな影響となるのであった。