城塞都市ローリッジ大包囲戦⑩ ちゃー様と砦への夜襲戦
砦攻めは正面からの奇襲に成功し、壁を乗り越えて内部に侵入する
ちゃー様とヴァンパイア小隊の一同。
それを遠くから目撃して追いかけるアーシャネット中佐とエリオス君。
「見張りを潰して、門を破れ」
「外部の味方を引き込めば勝ちだ」
ヴァンパイアの部隊が門を巡って交戦する。
門を守る部隊は思ったより数が多く、
初手の奇襲の効果が薄れたため、敵味方入り乱れての白兵戦になっている
「ローリア。一人で突出しないで?」
「心配しすぎです。メロちゃん。
早く門を突破して外の仲間と合流するのです。
ここは弱兵。先手を取ります」
恐ろしいスピードで剣を振るい圧倒する。
局地戦なら満月の夜のヴァンパイアは非常に高速で
見回りの兵士ではとても対抗できない。
「なんだこいつら。
化物だ」
「ふふふ。そこをおどき!」
「ローリア。早くかんぬきを外すわよ」
「はいな!」
剣を振りかざすヴァンパイア小隊の働きで、
スキが出来た門のかんぬきを外す。
それに伴い門が開かれる。
「よくやった。
後は我々に任せろ。
騎兵隊突撃」
「アーシャネット中佐に続け!」
「妾の刀のサビになりたい者は、こちらに来るが良い」
そしてアーシャネット中佐率いる騎兵隊が一斉に門へなだれ込む。
敵側も徐々に応援が駆けつけるが既に遅く、
圧倒的な戦力差で蹂躙する。
エリート部隊である騎兵隊に白兵戦で対抗する
アーシャネット中佐、ロザリーナお嬢様、執事とメイドや双子エルフ含む戦力は
この国の中でも強力な剣豪であった。
「さて、無事に砦内部に侵入したな。
ここの局地戦を制すれば、
後は敵将の首だけである。
卿らに感謝を。名はなんと申す?」
「あ、私はローリアです」
「メロディーヌと申します。中佐殿」
「実に見事な奇襲であった。
卿らに心からの感謝を。
して、ミルチャー卿はいずこに?」
「ちゃー様は闇に紛れて敵将の首を取りに行きました」
「満月の夜のちゃー様に一対一で勝てる者など、おそらくは殆どおりますまい」
「む。英雄殿は既に先に向かわれたか。
しかし英雄殿に鍛えられたヴァンパイア小隊は恐るべき戦力だ。
我々も続こう。
よし、この砦を落とすぞ」
アーシャネット中佐がそういうと、
騎兵隊は下馬して砦を駆け上がる。
当然敵も殺到してくるのでここで白兵戦になる。
砦の外側を見ると、遅れてエリオス君と歩兵隊、傭兵隊に魔法使いが包囲している。
魔法使いやマスケット兵が最大限に戦力を発揮できる陣形で
包囲網を構築しつつある。
「砦を包囲して逃げてくる敵を殲滅させるとともに
敵の援軍が近づいてきたらここで迎え撃つ」
「エリオス君は砦に入らないの?」
「今は騎兵隊が突入しています。
狭い砦のなかなので少数精鋭で援軍には向かいます。マーシリエお嬢様」
「そう。
ならば傭兵隊も少数精鋭を選別して向かわせるわ」
と裏口から密かに逃げてくる敵兵。
弓やマスケットで銃撃する。包囲網は簡単には突破出来ない。
一人一人倒されていく。
そして砦の内部。
門から侵入する騎兵隊に敵の兵士が殺到しており、手薄になっている。
ヴァンパイア達は密かに敵将へ向かっている。
「敵は門に向かっているな。
ローリアとメロディーヌ達は門を開ける事に成功したか?」
「ちゃー様。
敵が門に殺到したおかげでこちらが手薄になっています。
敵の将を狩りましょう」
「早く決着をつけて被害を少なく抑えたいな」
砦の奥に小屋があり、先程は多数の兵士が守っていたが
今は皆、門の方に移動しており少数のみである。
奇襲をするなら手薄な今がチャンスであった。
警備している兵士に襲いかかるちゃー様。
流石に、一対一でヴァンパイア達に対抗できるはずもなく各個撃破される。
「敵兵が戻ってくる前がチャンスだ。
一気に制圧するぞ。
中に入れ」
「・・・誰だ貴様らは」
「貴様がこの砦の将か?」
砦の奥の小屋の中に入ると、数十人の兵士と
敵の将らしい男が椅子の上に座っていた。
大斧を持って、大型の巨漢である。
「もう一度聞く。貴様がこの砦の将か?」
「何者だ、貴様ら。
俺をこの砦の守備隊長と知っての狼藉か?」
「大人しく投降するなら命までは取らん。
だが抵抗するならその命は無いと思え」
「このちび小娘ごときが。
お前らが敵のロイスター王国軍か?
まあここまでたどり着いたのは褒めてやろう。
兵士が戻ってくる間の少しの時間だ。遊んでやろう。
名を名乗れ」
敵の将らしき男が大斧を振り、こちらに向けて威圧する。
それを気にもせず堂々たる態度で迎え撃つちゃー様。
そこらの兵士とは風格が違うのである。
「名を名乗れか。それもまた一興か。
ならばちゃーは名乗ろう。
ちゃーはワラキア公のヴラド4世・ミルチャー・ヴァシリッサである。
元ドラコ騎士団のヴァンパイアだ。
もっともちゃーがワラキアの貴族だったのは300年前の話だがな」
「・・・300年前だと?
まてよ。我が国に激しく抵抗した貴族。
あの歴史上のヴァンパイア・ロードか?」
「もうすっかり忘れ去られているとおもったがの」
ちゃー様に驚く敵将であったが、
逆に興味を示したのか、好戦的な態度を取る。
「ほほう。
貴様が伝説のヴァンパイア・ロードなら上玉だ。
確かにそれなら夜戦は得意であろう。
だがここまでだ。
俺がその武名を打ち砕いて天下に名を轟かせてやる」
「ちゃーにわざわざ向かってくるのは愚かさか蛮勇か?
まあ、かかってくるが良い」
そう言うと敵将は大斧を振りかざして襲ってくる。
巨漢な割に高速で大斧を振るう所はかなりの力量はあるであろう。
しかし、直前でちゃー様には当たらない。
完全に間合いとスピードを見切って躱している。
「・・・全くかすりもしない。
何という体さばきとスピード。
これがヴァンパイアか」
「少々やる様だが、その程度ではちゃーには全く及ばんな。
お主には恨みは無いが、これも戦の定めじゃ。
悪く思うな」
そう言うとちゃー様は一気に懐に入り込み敵将の片足を切り捨てる。
片足を失い敵将は体勢を崩すと防御する間もなく
二刀目でちゃー様の剣で首を落とされる。
まさに電光石火である。
殆ど痛みを感じる間も無かったであろう。
瞬間の出来事であった。
「敵将、討ち取ったり」
「お見事でございます。ちゃー様」
「ふん。ちゃーをちびの小娘などと呼びおって。
人をちびっ娘扱いするからこうして油断するのじゃ。
愚か者めが」
「・・・ちゃー様は立派な方でございますよ」
「門ではまだ味方が戦いを繰り広げているであろう。
急いで敵将の首を持っていけ。
ここの戦は終わりじゃ」
「承知しました。ちゃー様」
周りを見ると敵兵は既にヴァンパイア達に殲滅されていた。
満月の夜に祝福された少数精鋭のヴァンパイアは確かに暗殺向きである。
雷光の様なスピードで蹂躙し局地戦には滅法強かった。
こうしてちゃー様の夜襲は見事成功したのであった。
そして今宵はとても満月が美しい。
それは正に神が祝福しているかの如くであった。