城塞都市ローリッジ大包囲戦⑤ 城塞都市ローリッジ内部
舞台は変わって城塞都市ローリッジ内部。
グリーヴィス公爵とパッカード将軍が防衛準備を整えている。
南の異教徒が宣戦布告した際には、激しいパニックが生まれ
富豪を中心に城塞都市から逃げ出す人が後をたたなかった。
しかしグリーヴィス公爵が帰還した事をきっかけに
城塞都市は落ち着きを取り戻す事になる。
流石のカリスマである。
パッカード将軍はホッとしたのであった。
「公爵様。
防衛の準備が進んでおります」
「よろしい。
トーマス殿下の部隊と魔王国の部隊、伯爵の援軍に感謝を」
「承知しております」
「食料と弾薬は十分あるか?」
「食料は冬までは十分持ちこたえられます。
弾薬は十分ではございませんが・・・」
「弾薬は致し方がないな。
大砲も小銃も無限に打ち続ける訳にもいくまい。
傭兵たちにも給料の未払が出ないように」
「承知しました」
グリーヴィス公爵とパッカード将軍が会話する。
圧倒的に不利な状況であるが、防衛側にも少し有利な点があり
一つは食料がある事、もう一つは大砲と防衛設備が十分にあることであった。
しかしこの時点では、南の異教徒がどれほどの軍勢を率いているか、
曖昧な情報しか伝わっていない。
補給線が途絶えれば、籠城戦に勝てるという思惑と
補給線を断てなければ、いずれ大軍に飲み込まれるという恐怖がある。
稜堡には大砲が据え付けられ、外側には堀になっており水を満たしている。
堀は20メートルで深さは6メートル程であった。
その外には防御柵と斜堤がありここには一切の建築物が禁止されており
緑地帯になっている。大砲の射線である。
堀をまたいでの市門にはいつでも落とせる様に木製の橋になっている。
そして一つの要塞が落とされても城塞が落とされないように
各要塞のそばにバリケードを建築した。
もちろん城塞の外側の住宅は全て破壊され大砲の壁にならないように処置した。
城塞都市内部に逃げ込んだ住民も、当然大砲による
火災の火消しのために桶を準備している。塹壕掘りにも協力した。
そして堀や大河の支流のどぶさらいを行い防御と水上運送を確保した。
「公爵様。
アナトハイム卿の援軍が追加で到着しました」
「まだその様な軍勢を残していたのか。
国内をがら空きにしてでも軍を出してきたな」
「アーシャネット中佐率いる旅団クラスです。エリオス中尉もいますな。
数は3,000ぐらいでしょうか?
東の丘に砦を築き、対抗する様子です」
「あの小僧か。
あの丘は城下を一望出来るから、強襲するには良い監視所ではあるが、
城塞都市から少し離れている為に防衛には弱い」
「補給路を確保する事が目的と考えられます。
敵の包囲網に穴が開けば、という仮説下での状況ではございますが。
それでもあそこに大砲を設置すれば、敵からみて後背から襲われる形になるでしょう」
「敵が警戒して大軍を出すか?
しかし寡兵では持ちこたえられまい。
本来であれば各個撃破の対象である。
確か新兵中心という噂だったな。
時間稼ぎにでもなれば良いがな。
吉と出るか、凶と出るか。
アナトハイム卿もそうとう博打が好きだと思われるな」
ガハハ、と笑いながら公爵様が答える。
城外で守りの無い場所で敵の大軍と交戦するのだ。
少数では持ちこたえれない。
「公爵様。急報です」
「どうした」
「南の村で民衆の大虐殺が・・・異教徒共に・・・」
「・・・何だと」
急報に驚くグリーヴィス公爵とパッカード将軍。
南の異教徒の軍隊は略奪を容認されている。
国家に1/10の課税を支払えば略奪分は自分の物と認められるのだ。
そして捕虜は身代金の対象として拘束され、
その価値がない市民は奴隷として売却されるのだ。
彼らの戦意を維持し、そして残虐なものになる。
故に恐れ逃亡するはずではあったが・・・
「疎開させたのではなかったのか?」
「公爵様。この領地全ての住人を疎開させる事など不可能であります。
土地以外に生活の糧を持たない農民が殆どです。
彼らは自分の財産を手放して生きる道を
選択することは出来なかったのであります」
「余の命令を徹底させる事は出来なかったのか」
「・・・申し訳ありません。公爵様」
グリーヴィス公爵は命令を出したが、
迫りくる敵を目の前にして領地を偵察する余裕は無かったのである。
己の命令が徹底されぬまま、
最終的に領民を見殺しにしてしまったのだ。