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ジョン・ケイの「飛び杼」

紡績機の開発は少しづつ進んでいるが、

肝心の機織り機はまだ着手していない。

であれば、アレを開発しよう。

産業革命の最初の一歩とも言えるもの。

ジョン・ケイの開発した飛び杼である。


ジョン・ケイは1733年、機織り機の効率を4倍以上に高める

ある発明の特許を取った。飛び杼である。

この偉大なる発明により、イギリスは軽工業の機械化に邁進し

産業革命に大きな影響を与えた。

ご存知、世界史の教科書にもジョン・ケイと飛び杼は歴史に名を残した。

残念ながらジョン・ケイ本人はパクられて特許収入を得られず寂しくフランスに移住する。


飛び杼の効果は博物館で見てもらえば直ぐ分かるが、

機織りする際に縦糸と横糸を網目状に組み合わせる事で

布生地を作るが、縦糸はクロスするとして横糸をクロスするために

横糸を行ったり来たりを手作業で繰り返す必要があり、

大型の布地を作る際には当時はアシスタントさんが両側で杼を受け渡しする

必要があった。つまり複数の人員が必要だったのである。


所がこの飛び杼は糸を上下に引っ張るだけで

1名で短時間に高速で繊維を編む事が可能になった。

飛び杼には内部に糸のボビンがあり、移動しやすい様に滑車が付けられた。

簡単な設計である。

これだけでイギリスでは失業者が沢山出たらしい。

勿論、工業化が加速してコストが急激に下がったのは事実。


なお豊田佐吉氏が更に織機に改良を加え自動化する事で

財閥を作り上げたのは日本の産業としては名高い事実。


「形状を知っていれば作るのは簡単だが、

 問題は簡単に真似されてしまう事か。

 ジョン・ケイも先行者利益を受ける事が出来なかった。

 どうしようか。」


まだ特許という制度が確立していない。

開発品の特許を守る力は僕にはない。

どうせ真似されて広まるのは避けられないなら、

商業ギルドに使用権を売って収入をもらうか。

僕にはまず製造業を立ち上げる資本が必要である。

という事でアポを取ってから商業ギルドに行こう。



「こんにちは。ギルド長さんはいますか。

 面会予約をしておりましてお取次ぎをお願い致します。」


商業ギルドの窓口のお姉さんに声を掛ける。


「あら、エリオス君ですね。

 少々お待ち下さい。」


と言ってお姉さんは奥の部屋に入っていく。

10分ぐらい待った後に出てきて言った。


「奥の部屋でお待ちしていますのでどうぞ。」

「ありがとうございます。」


奥の部屋に行くとギルド長さんとまたトーマスさんがいらっしゃる。

どうしようか。こんな時に。仕方がない。


「エリオス君ですね。こんにちは。

 どうぞ座って下さい。」

「おう、坊やか。今日はどうした。」

「実はある開発品の権利を買って欲しいとご相談にまりいました。」

「事前に話は伺っていますが、どんなものですか?」

「飛び杼というものです。従来の織物の杼の効率を数倍に高めるものです。」


持ってきたダミーには細かい形状が分からないように

サンプルとしてモデルを置く。


「これはなんだね。坊や。」

「機織り機の横糸を効率良く紡ぐ道具です。」

「・・・それを商業ギルドに権利を売ってくださると。」

「はい。」


ダミーをゆっくりギルド長さんとトーマスさんが見る。

いやね、本当は独占したいんですけど・・・

史実を見ても独占は無理だと判断。


「非常に画期的な製品で商業ギルドで使用料を抑えてはどうかと。」

「・・・なるほど。そう来たか。」

「この発明は国家の生産量を数倍に増やして更に省人化します。

 コストは劇的に低下します。商品としても申し分ないかと。

 これはサンプルとしてのダミーです。」

「確かに繊維産業の生産性が上がり安く大量に作れる様になれば、

 国内需要だけでなく輸出も可能だ。

 我が国の貿易まで大幅に塗り替えるかもしれん。

 こんな小さなものが国家の力関係まで変えてしまうのか?坊主。」

「本当に必要な発明はひょっとしたら世界をも変えてしまうかもしれません。トーマス様。」


トーマスさんが興味深く観察する。

ギルド長さんは良く理解していないらしく考え込む。


「俺に権利を売ってくれないか?」

「商業ギルドから買ってくださいね。トーマス様。」

「うっ。残念だがそうするか。」

「トーマス殿、そんなに興味がありますか。」

「事実であれば、大変興味がある。商売のチャンスだ。」


ここから先は交渉である。


「じゃあギルドが8でエリオス君が2でどうだ。」

「詳細な機構は公開しませんよ。私が5でギルドが5はどうですか?」

「じゃあ仕方がない、ギルドが7でエリオス君が3でどうだ。

 どうせ製造と販売するのはギルドだ。エリオス君だけでは収益にならないだろう。」

「・・・・・じゃあ・・・」


交渉する。

まあ、特許を守って売る力がないから仕方がない。

ギルドが7で僕が3で合意する。

資金をベースに新しいものを作れば良いだけである。

そこが未来知識はチートな所なのであろう。


「坊やはどうしてこんなものを思いついたのだ?」

「キルテル村に機織り機の職人さんがいますが、作業は良く知っています。

 苦労されている姿はよく見ています。

 自分で作業してみれば直ぐに課題は見つかりますね。」

「自分で作業した事があるから気づいたという事か。

 悔しいが俺には分からない領域かもしれないな。」


とトーマスさんが呟く。

都市の住人には現地現物はわからないかも。

製造業の人間にとって現地現物を見たことがないのは大きなハンデである。


「契約書を作成しましょう。

 後でお持ちします。

 勿論、エリオス君は機構の譲渡と製造には協力してもらえるのですね。」

「それは勿論です。」


ギルド長さんに答える。


「坊やは本当に面白い子だ。

 着眼点が俺らとは違うな。

 その才能を今後も国家の為に活かしてほしい。」

「ええ、私も国家の一員です。収益と国税は国家の為になります。

 だからトーマス様も、国家のために是非お客様になって下さいね。」

「ふん、そういう所は可愛くないぞ。

 大人をからかうんじゃない。

 まあ、それでも坊やは大好きだ。

 ビジネスパートナーとしても頼もしい。」

「トーマス殿は本当にエリオス君の事がお気に入りですね。

 まだ数回しかお会いになられていないのに。」 

「俺は人を見る目は確かなのだと自負している。」


ははは、と笑うトーマスさん。

豪快な人ながらしっかり観察している。

この人も商売人なんだろうか。

そして、聞いてみる。


「トーマス様。今日はたまたまここにいらっしゃったのですか?」

「勿論、坊主が来ると聞いて事前に立ち寄りしたんだ。

 面白い話があるって聞いてな。

 坊主の話は俺の想像を超えていたぞ。」


う。

筒抜けでしたか。先回りされていました。

これは侮れない人だ。

悪い人じゃなさそうなので、まあ良い商売のパートナーになれると良いなあ。

さあ、産業革命を始めようじゃないか。

そして世界を制圧しよう。

歴史上に名高いジョン・ケイの飛び杼の話です。

史実では真似されてイギリスから各国に広まりましたが、

産業革命の第一歩として無くてはならないイベントです。

今回はエリオス君は商業ギルドに販売することで軍資金を得ようという考えです。

果たして上手くいくのでしょうか?

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