店舗リバティー・マーケットとマーケティング論⑬ 広告と王都での販売権
次は王都でのB(Business) to C(Customer) ビジネスモデルの構築である。
この店舗で売っているのは繊維だけじゃないので、
個人向け商品もどんどん販売していく必要がある。
だが、来店が少なく商売はうまくいっているとは思っていない。
「来店者が少ない」
「そうね。アンタの言う通り店舗は暇だわ」
「暇ですわ」
「お客さんが少ないの〜」
「僕もそう思うね」
と言うエリオス君とニーナさん、
エリノール副店長、チェリーちゃんにミネアちゃん。
場所が良くない事と知名度が低いので来店者が少ない。
これは個人向け商売としてはかなり致命的に痛い。
新しい顧客を探す必要がある。
「新しいお客様を集めないと売り上げが頭打ちになっていますね」
「新しいお客様ね。
アンタの考えは、前言っていた広告って奴?」
「そうですね。ニーナさん。
ここは広告で呼び込みしましょう」
「またビラでも配りますか?店頭」
新規顧客の獲得にはどうしても、呼び込みが必要である。
たいていの人はどこで、何を、幾らで売っているか
必ずしも良く知っているわけではないのだ。
まして、都市の奥の方にある小さな店舗ならなおさらである。
「広告とは、狙ったお客様に直接もしくは間接的にアピールする方法です。
商品と店舗を宣伝して、まず興味を持ってもらいます」
「狙ったお客様というと独身もしくは家族持ちの
中産階級の家庭だったっけ」
「朝と夕方に手分けして定期的にビラを配ります」
「分かったわ」
「他にもニールさんの新聞に広告をお願いすることにします。
後は目立つ場所にお金を払い看板を立ててアピールします」
と広告戦略を暫定的に決める。
少ない人員で出来るのは今はこれが最適である。
新聞やビラは使い回しで、看板は一度作ってそのまま置いておく。
もっとも妨害工作には十分注意が必要であるが。
「何か作戦でもあるの?エリオス君」
「私にも教えてほしいわ。店長」
「これは、2つの作戦です。
一つは特定のお客様をターゲットに集中的にビラ配りする
アピール戦略。
もう一つは新聞と看板を使い、不特定多数の読者にアピールします。
新聞を定期的に買える購買力のあるお客様を対象にします」
「アンタもちゃんと考えているのね」
「じゃあ前に作ったビラを少し直して皆で印刷しましょう」
「今作っている活字はキルテル村に送っているから手元には無いわよ」
「当面は木版で、木の板を削って作りましょう。
絵を入れたりも出来ますし。
活版は本を作る方に優先します」
「分かったわ」
販売戦略として本格的に広告に着手することにする。
広告戦略としては、エリア・マーケティングと
マスメディアを用いた不特定多数へのマーケティング戦略である。
近世には新聞がマスメディアであり、そして看板が一番の宣伝材料である。
テレビやラジオ、ネットが無いので広告効果も現代と比べれば限定的である。
そのうち雑誌ができれば、専門誌に投稿しても良い。
こちらから仕掛けても問題ないのである。
「店長。王家より使者がいらっしゃいました」
「もう来ましたか。
さすがはトーマス殿下と伯爵様」
「お前がエリオス卿か」
「ハッ。エリオスでございます」
「国王陛下からの勅命にて、アナトハイム伯爵家を代表して
卿に王都での販売権を与える事になった。
王家からの許可証を受けよ」
「ありがたき幸せ」
「陛下のご厚意に感謝するんだな」
と言って王家からの使者が国王陛下からの
販売許可証を与えて帰っていった。
店舗の一同は驚きのあまり声が出ない。
王都での手工業ギルドによる長年の独占販売権が
この瞬間に崩れ去ったのである。
「店長。一体どんな魔法を・・・」
「魔法ではありませんよ。
きっちりと王家と伯爵様を通じて政治的な交渉を行っています。
陛下はどうやらそれぞれの貴族のお抱えの業者に
販売権を与える形態にしたようです。
我々はおそらくアナトハイム伯爵家の直轄扱いです」
「・・・エリオス君。店長は凄いんですね。
いつのまに」
「まだ自由な商売には遠いですけど、最初の一歩です。
では伯爵様の紋章と王家の販売権の紋章を店舗に掲げてください。
これでまっとうな商売を開始できます」
靴下と繊維業などの販売権を得たエリオス君。
他にも宰相閣下の配下などいつくかの商店が販売権を得る事になった。
各貴族のメンツを保つ為であろうか。
自由化には程遠いが苦肉の策であろう。
こうして近代資本主義が政治的な圧力を通じて王都にも入ってきたのである。