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店舗リバティー・マーケットとマーケティング論⑧ トーマス殿下と販売権の政治交渉

 次に王宮へ向かう。

トーマス殿下と交渉するのだ。

お互いに知った仲ではあるが、交渉内容はかなり政治に関わる。

そのため、非公式での対話を進めたいとエリオス君は思っていた。


「おはようございます。トーマス殿下」

「おう坊主。

 わざわざ自分から王宮まで来るとは珍しいな。

 どういう用事だ?」 

「実は、殿下にご相談なのですが・・・」


 エリオス君はトーマス殿下に一連の話を説明する。

靴下ギルドの独占販売権の話である。

しかし各種手工業ギルドは主に大都市しか無く、かつ権力と結びついている事が多い。

つまり地方では手工業ギルドを構成するだけの組織が無いのである。

これは、手工業ギルドの原点が商業ギルドの販売権に対抗するために

職人達が団結して構成したのが理由だった。


「それは一大事だな」

「ハイ、一大事でございます」

「そう気軽に言ってくれるな。

 販売権の話は俺の独断では決められない。

 当然彼らは組織的に抵抗してくるだろう」

「殿下のご指摘通りでございます」


 トーマス殿下の意外と前向きな反応に心の中で驚く。

まるで、はじめから考慮していたかの様な話である。



「しかし、何故このタイミングでその内容を?」

「独占販売権が、国家の経済力を弱めていると思いました」

「それは何故だ?」

「我が国は鉱山資源は多数ありますが、

 寒い土地柄の関係で、綿花や絹や砂糖などの

 温暖湿潤な気候でなければ生産出来ない原材料は輸入に頼っています」

「そうだな」

「安価に原材料を輸入して、我が国内で加工して、最終製品を販売出来なければ

 高価な最終製品を外国から輸入せざるを得なくなります。

 時として、国内の産業を崩壊させるほどの危険性があります。

 その代表の事例が高価な絹製品でございます」

「絹製品は確かに輸入に頼っているかもしれん。

 ・・・国内の産業育成が目的か?」

「そのとおりでございます。

 商品とは原材料から最終製品まで加工して始めて商品として消費者に届くのです。

 最終製品の行き過ぎた高価な価格統制は将来の外国製品に打ち勝てません。

 国民の財産を独占販売権で吸い上げているだけに過ぎません。

 すでに、悪影響は表面化しております」

「今その議論が必要な時勢か?坊主」

「殿下もご存知の通り、人の手作業から機械で物を作る動きがあります。

 大量に売り先があれば、人が作るより機械が作ったほうが

 人件費や設備費を含めた諸費用が安く済みます」

「つまりギルドの職人による手作業が非常に効率が悪く高いと言いたいのか?」

「仮に各国が機械で大量に製造できれば、競争で優位になります」

「まあそれは坊主の工場の話だろうが、

 それがお前の商売にも影響している、と言いたい訳か」

「独占販売権を容認し続ければ非合法による闇商売が増えるだけでしょう。

 それは闇金として国家の税収にも影響してくる可能性があります。

 自由に競争させて、より強い商売を伸ばすべきだと思います」

 

 実際、近世にはまだ独占禁止法は存在しない。

権力に対するロビー活動で販売権を抑えているに過ぎない。

しかしギルドと一言に言っても、ヨーロッパの国々によって大きく異なる。

イギリスやオランダの様なギルドが弱い国とドイツ諸国のギルドが強い国が存在した。

手工業ギルドは12世紀に成立し13~14世紀には各都市の政治・経済を支配したが、

16世紀以降衰退して資本主義に飲み込まれていくのである。


「まあ確かに私の商売もその中に入りますが」

「坊主の商売のためだけに認める訳にはいかないが、

 他国と比べより競争力のある商売を育てる意見だけは賛成だ」

「いずれ手工業ギルドは競争に負けて崩壊するでしょう」


 トーマス殿下も悩む。

政治的には一大事である。 



「しかし手工業ギルドを潰せ、か・・・」

「聡明な殿下であればこそ、ご理解頂けるかと」

「実に大胆な意見だな。

 他の者には聞かせられない発言だ」

「お心遣いありがとうございます」

「他国に先んじて、産業を競争させ、

 弱者を潰し強者を育てる。

 最終的にはその強者が国際貿易で勝利する。

 理にかなっていなくはない」

「・・・」

「ふん。坊主らしい突拍子も無い考えだな。

 まあ良いわ。

 俺も奴らギルドの横柄な態度には辟易としている。

 一先ずは緩やかに緩和させていこう。

 陛下には俺から相談しておく。

 それまで誰にもしゃべるなよ。

 特に宰相には」

「承知しました」


 一旦はトーマス殿下を説得するエリオス君。

まだ決まった訳ではないが、力強い味方でもある。

政治権力は時には使わねばならない。 

競合の商売がそれに強く依存している場合は特に。

出来るだけ対等な立場、そしてより優位な位置へと。

そうやって自由な商売を促進させていく事で

弱肉強食の資本主義へと時代が移り変わり、

より産業に投資する資本家が育っていく時代になる。

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