表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
280/450

店舗リバティー・マーケットとマーケティング論⑦ 競合分析、製品仕様など

 早速、買ってきた靴下ギルドの製品を皆で調査する。

基本は外観だが、使っている繊維、製法、糸の太さ

刺繍の技術などなど実現可能か否かが重要となる。

また供給可能な価格と納期、物量などが競合としての比較の対象になる


「これが靴下ギルドの高級品ね」

「美しい金銀の刺繍と凄く肌触りが良い繊維を使っているわね。

 アンタ、本当にこれに勝つつもり?エリオス君」

「チェリーもここまでの物は無理。作れないよ」


 皆で一斉に高級品の靴下を見るが驚きの声があがる。

普通、庶民は王侯貴族が履く様な高級品は着用しない。

しかし元現代人は別である。

現代ではお金があれば色々な物が簡単に買えるので身近である。


「この材質は絹か。

 肌触りが良いから王侯貴族には人気だろう。

 この寒い国では今は絹を生産できない。

 恐らく輸入品だ」

「そう言われるとそうだわね。エリオス君。

 日本や中国と違ってカイコはこの国では聞いたことは無いわね。

 他国から輸入しているのでしょうかね?」

「商業ギルドでも国産は聞いた事がありません。エリカお嬢様。

 南の異教徒に奪われた温暖な土地を奪い返せば、

 ひょっとしたらカイコを育てて作れるかもしれませんけどね」

「・・・」


 絹の繊維となるカイコは中国から日本や

ヨーロッパでは6世紀にイタリアに入ってきて12世紀に定着している。

その後、フランスでも16世紀にフランソワ1世がイタリカから職人を招き

絹の量産に結びつけている。

 ただし、イギリス、オランダ、ドイツ、ロシアなど北方の国では

寒い気候が影響しカイコの育成条件である25℃の温度管理が難しく

良質の絹の生産が難しかったとも言われている。

そのために高品質な中国産が長く輸入される事になった。

シルクロードの言葉の語源でもある。

銀が大量に中国に流出し、茶と共にアヘン戦争の一因にもなったとも言われている。

 またそのフランスでさえも、1850〜1860年に微粒子病で

壊滅的な大打撃を受けて、国産が困難な不幸な歴史になったのだが

それは別の話である。


「絹の量産は寒い我が国では難しそうなので

 靴下ギルドでも国産は難しいだろう」

「靴下ギルドは独占販売権を利用して、輸入品を更に高く売りつけているの?」

「可能性はあるよ」

「・・・ならば靴下ギルドもそこまで怖くないかもしれない訳ね。

 高級品を輸入品に頼っているなら流通だけの優位点?って所ね」

「さすがは鋭いエリカお嬢様」

「でも身分制度があって、絹は王侯貴族しか着用出来ないの」

「我々庶民は麻織物製品ですな」


 エリオス君他、庶民は身分制度のため絹織物を着用する事は出来ない。

庶民には安価なグレードのリネンなどを用いた麻織物などが多かった。

中世ヨーロッパから生産された毛織物も当時は高級品であった。

17世紀後半になるとインドや中国などから肌触りの良い綿織物が入ってきて、

貿易戦争が活発になるのである。


「中産階級向けは高めの毛織物と安い麻織物に分かれているわね」

「素材だけを見てもかなり違いがあるわけですわね。

 麻や羊毛を混ぜて繊維にしているのもあるらしいですわ」

「糸の太さでも、太い糸が多いですね」

「庶民のは麻を太い糸で安価に編み込む。

 まだ機械でも細い糸を強く巻き取るのも切れやすくなり非常に難しい。

 中産階級は麻と羊毛をブレンド、高級品は輸入の綿か絹か。

 後はファッションとしての刺繍の技術という事になるか」

「だいたいの製品の傾向が見えてきましたわね」


 実際の競合の製品を材料から製法までしっかりと比較することで

その特徴とコスト設計などの利益に関する項目がからみあってくるのが分かる。

やはり工業製品として対抗するには、ニーズに応じた

スペックと価格目標を明確にすることが重要である。


「とすると、麻織物で太めの糸を機械で安く作る製品が一つと

 毛織物で中産階級向けの製品が一つね」

「綿花や絹糸が大量に輸入できれば機械で作り込みたい所はありますが。

 現在入手出来る綿花は少数で大量生産に供給出来ません。

 温暖な気候の国から輸入が重要です」

「しかしエリオス君。

 もし綿花が安価に輸入できれば、

 糸の製造から織りこみまで機械で行えば

 靴下ギルドは対抗出来ないわよね?

 綿花の大量入手は最重要ではないの?」

「綿花の輸入は貿易次第ですね。

 後は規模による生産コストの削減が鍵になります。

 規模が増えれば増えるほど、機械の効果が大きくなります。

 また素材を輸入して加工品を出荷できれば、付加価値は高くなります。

 中間マージンが少なければ少ないほど利益は高くなります。

 目指す姿は、素材の入手から最終製品の販売まで

 一貫した生産および供給体制の確立です」


 結局は素材を輸入して加工品を出荷するという、

加工貿易の形を目指さなければならない事が分かる。

逆に靴下ギルドには安価な素材から糸を作り込む事は出来ない。

中間マージンが増えれば増えるほどコストは上昇する。

一貫した生産体制を持てる側の圧倒的な優位点がそこにあった。

製造業では素材から最終製品までの一貫した生産ラインが理想とも

一時期には思われていたのが事実である。


「でも高級品の刺繍の腕はどうするの。

 チェリーにはまともに対抗できないよ」

「それは前も言いました、職人さんを雇います。

 ギルドから首になったはぐれ職人さんがいるはずです。

 まずは探してみましょう」

「あたいも頑張るからね」


 高級品は職人さんを探して技でも対抗する。

基本的な方策が少し見えてきた。

競合のものづくりを解析して比較するのが競合分析である。

それは原材料や調達方法まで工法を遡る必要がある。

そうしてコスト設計から利益を産出するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ