店舗リバティー・マーケットとマーケティング論①
店舗リバティー・マーケットの立地は表通りではないので、
さすがに大手の商店には負ける。
であれば、宣伝広告である。
最初はそれしかない。
「商品を売るためには、お客様にお店に来て頂く必要があります。
このお店は知名度が足りていません」
「ムムム、
一理あるわね。
確かに表通りの店舗と比べると、この店のお客様は少ないわ」
「お客様が来て頂いたら、気に入って頂いて
繰り返し来て頂くのが理想です」
「・・・難しいわね」
ニーナさんとエリオス君が会話する。
店舗型商売は新規のお客様とリピート率で決まってしまう。
売るというのも結構難しいのである。
最初は目立つ、目につくお店や小説にお客様が集まるのだ。ぐすん。
「マーケティング戦略を見直ししないと駄目ですね。
商売がうまくいかないのは戦略が悪いせいです」
「なにそれ?マーなんとか?
あたいにも分かるように教えてよ。エリたん」
「エリオス君はまた分からない謎の言葉を出してきたわね」
「・・・平たく言うと売れるための方法論です」
マーケティングの概念は1776年にアダム・スミスが著書
『The Wealth of Nations』から発案されたのが最初であるが、
実際に活用されはじめたのは200年後の20世紀である。
産業革命が始まり大量生産が行われると、衣食住など
当時はまだ必要なものしか作られず安ければ売れた時代であった。
産業革命から第1次世界大戦までは、製品がちゃんと製造できるか?
安く製造できるか?がポイントであったが、
第1次世界大戦後は大量生産が当たり前になり競合が全世界に広がり
大恐慌を通じて製品が売れない時代を通じて、製品がちゃんと売れますか?
製品を十分供給出来ますか?といったマーケティング論が最終的に出来た。
「簡単にお話しますと、製品は価格が安ければ沢山売れて
価格が高くなると少ししか売れなくなります」
「もう少し詳しく説明してよ」
「製品が幾らで売れるかはお客様の財布事情で決まります。
財布に少ししかお金がない人は安いもの、
財布に沢山お金があるお金持ちは高いものが買えます。
しかし当然人口比率ではお金持ちは1%未満の極僅かで
99%以上はお金のない普通の人が殆どです」
「貴族や富豪は高いものでも確かに普通に買うわね」
「で、その財布の中身ですが
人々は税金や衣食住など生活必需品を除いたお金だけを自由に使えます。
自由に使えるお金の中から選んで欲しい物を買うんです」
「アンタの言おうとしている事は何となく分かるわ」
「また物を作るにはお金が必要です。
原材料を買ってきたり、人を雇って人件費を払ったり
設備を買ったり修理したり、税金を払ったり。
つまりそういう出費を合計して元手がかかります。
儲けつまり利益はお客様に製品を売った売価と
出費、いわゆる原価を引いた分になります」
「ふーん。アンタはそういう解釈ね。
勉強になるわ」
概略を説明する。少し考えれば誰でも分かる話ではあるが、
さすがにニーナさんは賢いので直ぐに理解出来る所はさすがである。
「エリオス君、一つ質問良い?」
「良いですよ、エリノール副店長」
「幾らで物を作って、幾らで売るかってどうやって決めるの?」
「中々良い質問です。
幾らで物を作るかは、さっきの出費を合計したものです。
当然、高い所から原材料を買うと高くなりますし、
人件費の高い職人さんや外注に作ってもらうと高くなります。
大量に作る場合は設備を導入して人手の代わりに自動で
生産した方が安くなる場合もありますが時と場合によります」
「じゃあ、売る方は?」
「売る方はお客様が欲しいと思った金額ですが、
それは色々な要素があります。
どうしても必要かつどうしてもそこしか買えない場合は高くても売れます。
逆に他の店でも買える場合は安い店から普通は買います。
もちろん品質や信頼や利便性という概念もありますが、
つまり競合と比較して始めて売価が決まります。
製造原価と売価には全く関連性がありません。ここ重要です。
後はお客様の財布事情です」
エリオス君が簡単に製造原価と売価、利益の関係を説明する。
現代ではごく当たり前の考え方ではあるが、中世から近世では
まだまだ曖昧な概念とも言えるだろう。
まあ銭勘定が出来ない商人はどの時代でもたぶんほとんど生き残れないであろうが。
「アンタの言いたい事はつまり他のお店がいくらで
どんな物を売っているかでお客さんがどこで幾らで買うか考える訳ね」
「まあそうです。
それだけでは決まりませんので
もう少しだけ説明させて下さい」
「面白い話だわね。
現代マーケティング論ね?
私にも聞かせて?」
「エリカお嬢様は基本的な事はご存知では・・・?
まあ別に良いですけど」
ちょっとマーケティングの勉強会みたいになってきた。
良い機会なので、従業員の皆様にもマーケティングの考え方を学んで頂こう。
製造業で利益を出すにはどうしても物を売れないと意味がない。