新入生 アーヴィン様とヴィクター様
教授の特別講演の後、一休みする。
と伯爵様の館でお会いした方と遭遇する。
「エリオス内政官殿」
「これはアーヴィン様。ご無沙汰しております」
「噂はお聞きしていますが、卿は本当に大学生なんですね」
伯爵様のご長男のアーヴィン様である。
伯爵様似のキリッとした目つきと
豪奢な金髪が特徴である。
「アーヴィン様も今年で8歳ですね」
「私も今年で王都の付属学校に入学しました」
「そうでしたね。
お話はお聞きしております。
よろしくお願い致します」
「こちらこそ。内政官殿」
アーヴィン様とご挨拶する。
伯爵様の息子さんなので、しっかりした態度である。
ちゃんと教育されているんだろうなと思いつつ。
僕らとは全然違う好青年になりそうだ。
腹黒い伯爵様に似ない様にと。
「あら可愛い子ね。坊やいくつ?」
「あっ・・・
マーシリエお嬢様」
「っ、男に可愛いって言わないで下さい」
「あらあら」
軍事学教授の娘さんのマーシリエお嬢様が声をかける。
止める間もなく、本音が出てしまった様である。
確かに男に可愛いは禁句である。
ぐすん。
「マーシリエお嬢様、駄目ですよ。
そんな事を言っては」
「うふふ。
男の子ですものね」
「こちらの方は?」
「こちらは軍事学教授の娘さんのマーシリエお嬢様です」
「フューゲル男爵家のマーシリエです。
よろしくね」
ニコリと挨拶するマーシリエお嬢様。
当然、教授の特別講演に聞きに来ていたんだろう。
照れるアーヴィン様。まだ子供じゃの。
「内政官殿。・・・この方が例の魔王国の軍人お嬢様」
「いや違います。
もっと変人です」
「・・・変人ですか」
「見たら分かります。多分」
「人の事を変人だなんて失礼だわ、エリオス君」
多分別の人と間違えているアーヴィン様。
軍人関係だからロザリーナお嬢様の事だろう。
あの魔王国のお嬢様はひと目で見て分かる変人だから
説明はあえて不要として今回は目をつぶる。
そんな雑談をしていると
「愚民共が、何をしておる。
邪魔であるぞ。どけ」
「・・・」
「フン。愚民風情が」
小さい子供が偉そうに通路を開けろと命令している。
またいかにも貴族らしい子供が現れたものだ。
イラっとしながらも道を開けるエリオス君。
親の顔を見たいとは思うが、実際に貴族には会いたくはない。
しかしどこの家の貴族だろうと思っていると、アーヴィン様が
「あの方は、ウィントリン公爵家の次男のヴィクター様です」
「ウィントリン公爵家???
はて、誰でしょうか?
知り合いにウィントリン公爵家の方はいなかった様な気が」
「こらこらエリオス君。
それこそ失礼ですわよ。
我が国きっての大貴族かつ宰相閣下のご一族ですよ」
「・・・あの宰相閣下のお子様ですか」
マーシリエお嬢様に説明して頂く。
宰相閣下の名前はギルバート・ステュワート・ウィントリン公爵。
うわ。嫌な顔を思い出してしまった。
最近よくお会いするからすっかり顔を覚えられている。
小僧小僧って呼ばれていたっけな。
実に会いたくない。
「おーい。エリオス君。
こんなところにいたんだね」
「これはジェロード皇太子殿下。
おはようございます」
「僕も今年からは大学生だよ。
よろしくね」
「承知しました。
よろしくお願い申し上げます」
新入生を中心に周囲がざわざわする。
まあそりゃ、初めて見る人には驚かれるかもしれない。
学校ではひそかに時々皇太子殿下にお会いする。
実はグリーヴィス公子の嫌われ者同士として懐かれているかも。
あまり表では会わないかもしれないが、
裏ではよくお会いしてトーマス殿下の愚痴を言ったりしている。
お菓子を食べたりコーヒーを飲んだりとか。
「・・・!!!」
「・・・内政官殿はジェロード皇太子殿下とお友達でしたか」
「よく一緒にお菓子を食べたり、同じ製鉄会社で仕事したりとか。
トーマス殿下に色々と暇つぶしに付き合わされたりしています」
「そうですね。エリオス君。
たまには王宮に遊びに来て下さいよ」
「!!!」
「それは丁重にお断り申し上げます。
皇太子殿下。
僕は平民の身分なので誠に恐れ多く」
「もう卿はすっかりトーマスおじさんのマスコットキャラクターだよ」
「ぐぬぬ。
あの放蕩殿下め・・・
裏でいったい何をしているんだか」
皇太子殿下といつもの雑談をすると
隣で驚くアーヴィン様とヴィクター様。
まあそうだろう。本来なら雲の上のお方なのだ。
それを放蕩殿下がこうある事無いことを吹き込んだおかげで・・・
マスコットキャラクターと認定されてしまったではないか?
「・・・貴様は何者じゃ?」
「これは、ヴィクター様。
お初にお目にかかります」
「貴様は何者かと聞いておる。平民ふぜいが」
「ヴィクター君。おやめなさい。
ここは学び舎ですよ。
公衆の門前で恥ずかしいですよ」
「・・・皇太子殿下。
申し訳ありません」
ヴィクター様がこちらを睨みながら、
皇太子殿下に頭を下げる。
ああ、恨まれたかな。新しい敵を作ってしまったか。
名前を言うチャンスを逃したので忘れてくれるとありがたい、
と思ったが今後もヴィクター様に絡まれる事になるエリオス君。
しっかりと顔を覚えられてしまった。