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オズワルド教授と近世の攻城戦の歴史

戦争が始まるので軍人を中心に軍事学の

オズワルド教授が特別講義を行うことになった。

これから出陣する軍人や学生への教えであろうか。


「南の異教徒が侵略してくれば、大軍と対抗するために籠城戦になろう。

 今日は特別講義として最近までの攻城戦の歴史を語ろうと思う」


教授が説明を始める。

攻城戦に詳しい軍人もいれば、そうでない学生も沢山いる。


「ご存知150年くらい前までは、城の城壁は高く建築されていて

 敵の侵入を阻む壁として君臨していた。

 突破するには攻城櫓か大魔法による攻撃が必要であるが、

 攻城櫓は燃やされて破壊され、魔法はレジストされたりして

 硬直状態になることが攻城戦の常であった。


 しかし200年前に東の国から大砲が入ってきて攻城戦が大きく変わった。

 まず1門の巨大な射石砲がたった一発の砲撃で城壁に穴を開けて

 都市を降伏させた事件があった」


会場がざわめく。

史実では1405年にイングランド兵が用いたった1門の射撃で

たった1発の砲弾が城壁を破壊し、

ベリック・アポン・トゥィードのスコットランド兵を降伏させてしまった。

城壁を破壊する水平射撃が可能な大砲は山城を除く

城をことごとく破壊して陥落させた。

15世紀のヨーロッパで戦が変わってしまったのだ。


「その後、大砲の鋳造技術はより進化し連発可能になり

 150年前ほどにはどれほど厚い城壁も砲があれば数日で破壊されてしまう

 様になってしまった。

 そして攻城側は大砲の入手を急ぐ事になる。


 しかし、防衛側も築城側が必死になり新しい防衛システムを考え出した。

 稜堡と城塞である。

 最初に城壁を低くし厚くする。そして鋭角の砲塁を作り

 大砲を据え付ける。

 相互に大砲の斜線を確保するとともに死角をなくす。

 さらに幅の広い深い壕をめぐらせると敵の砲が近づけず

 洞窟をつくり城の下に地雷や爆薬をしかけにくくなる。

 古来の攻城櫓は大砲の一撃で簡単に破壊された」


教授が城塞の説明をし始める。

もちろん、詳しい軍人はよく知っているが学生は驚きの声を上げる。

これは史実ではイタリア式築城術とも言われている。

大砲を数そろえたフランス軍の侵略にイタリア諸国が築城技術で対抗したのである。

日本で有名なのは函館の五稜郭であろう。


「ここで攻城側と防御側のバランスが再び取れる事になった。

 本格的な要塞を攻め落とすには兵糧攻めにするか、

 塹壕を掘り進め至近距離からの砲撃と接近戦に持ち込むか

 坑道を堀り爆薬をしかけて破壊するしかなくなった。

 どれもかなりの時間を要し数ヶ月以上かかるのが常識になった」


近世の戦役を読むと多数の攻城戦の記録があり

どれも長期戦になったのだ。

1629年のオランダ独立戦争の包囲戦では3ヶ月で街の外側の堡塁を占拠し

そこから主堡塁を破壊する長期戦になったのである。


「数万人に坑道を掘らせ爆薬を設置するには

 城の外部からの援軍や逆襲に備えなくてはならず

 攻城側も2重の防衛戦を作る必要があった。

 そこには膨大な軍隊の兵士数の増加が必要であることを証明した」


当然、巨大な要塞都市を落とす場合

数万人規模の空前の人員と資材を投入して工事しなくてはならず

救援部隊と対抗するには防御設備や野戦による決戦が必要になった。

また自軍の別の要塞を守るためには膨大な軍人が必要になったのだ。


「そして攻城戦の要として魔法や攻城櫓から

 巨大な大砲や坑道による爆薬が主役になったのである。

 これが皆さんのよく知る攻城戦のあり方であろう。

 戦争の行く末は防御側の戦意を喪失させるため

 包囲網に対する救援部隊をいかに野戦で打ち破るかという戦いにもなった」


概要として教授が説明する。

この攻防戦が城塞都市ローリッジでも行われると推定しているのだろう。

進化した大砲と進化した城塞都市は、

魔法で容易に突破出来るものではなくなってしまっていた。

魔法は長年の教育と才能が必要で連発は出来ない。

大量に入手でき、訓練すれば連発できる大砲には敵わなくなった。

攻城戦については魔法の時代はすでに終わっていたのだ。


「ふむ。教授は流石によく知っているな」

「ロザリーナ中尉殿もわかりますか?」

「当然であるぞ。

 魔王国が大砲の鋳造技術にこだわる事には大きな意義がある。

 もちろん陸戦だけでなく、戦艦の砲撃戦も大砲が影響する。

 ロイスター王国はどうしても技術力が低いからの」

「確かに魔王国の大砲は恐るべき技術で作られています。

 しかし南の異教徒はどうでしょうか?」

「異教徒どもは確かに大砲を導入してはおるが

 果たして攻城戦の技術があるかは疑わしいの。

 最新鋭の城塞都市を突破できるかは難しいな。

 新しい戦に対応できるかは非常に怪しいと見ておる」

「なるほど」


魔王国は大規模な戦争を経験しているので、

攻城戦の技術にも長けているのであろうか。

それはエリオス君にはわからない。


しかしこれからは先の近世の話になるが、

かの有名なフランスの大軍事技術者のヴォーパンが

新しい攻城砲列と対壕戦術を編み出したのである。

また水平射撃のカノン砲の弱点を補うために

17世紀には砲身の短い臼砲が開発された。

弾薬や火薬がある城壁内部の建屋を高角度で直接攻撃出来るようになった。

この大型の臼砲はいかなる防壁も突破し

要塞内部の施設に命中させ破壊する能力を確保した。

接近されることは防衛側にとって危険な状態になったのである。


つまりオランダ80年戦争を超えて、更に大規模な要塞が求められる様になり

17世紀には飛躍的に攻城戦の技術がヨーロッパで進化した。

ちょうど日本では関ヶ原の戦いや大阪城の戦いの時代である。

もちろん日本には水平射撃が困難な難攻不落の山城が多いため、

ヨーロッパほど大量のカノン砲が導入されなかったのもおそらく事実なのかもしれない。 

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