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トーマス殿下と晩餐会 

戦争の話という事で軍人関係者を何人か誘い

王宮のトーマス殿下の部屋まで向かう。

言い方を変えると、緊急会議との事にして

無理やり犠牲者を募った訳でもある。


「なあエリオス殿。

 なぜ私まで参加せねばならぬのだ?

 王宮であろう?」

「にゃはは、王宮で晩餐会。楽しみ楽しみ」

「エリオス殿。やっと異教徒との戦争が始まるのだな」

「伯爵様、良いのですか?この組み合わせで」

「・・・」

「まあ重要な会議にはなるでしょう。多分ですけど」


連れてこられたのは、王都にいた

アーシャネット中佐と筆頭魔王使いのアイヴィーリさん

王都駐留部隊のコネット中佐、親衛隊長ローラッド大佐

ヴァンパイアロードのミルチャー卿、

そして双子エルフである。

まあ濃いメンバーである事は否定しないが伯爵家の主力でもある。


「アナトハイム卿、坊主。

 沢山連れてきたな。

 まあ良い。王宮の酒はうまいぞ。

 とりあえず飲め。

 本音の話がしたい」

「すでに出来上がっていますね。殿下」

「まあな。酒でも飲まなければやってられん」


ほろ酔い気味のトーマス殿下を見て一同は驚きつつも

こういう性格だとは知っているので、


「にゃはは。頂くでございます」

「アイヴィーリ殿。ここは控えめに」

「アーシャネット中佐には飲ますなよ」

「・・・」


早速飲もうとするアイヴィーリさんと

お預けを食らって我慢するアーシャネット中佐。

酒癖の悪さはみんな知っているので、

さすがに王宮で暴れてもらっても困るのである。


「で、アナトハイム卿。

 卿の所はどのくらい兵を出せる?」

「国境警備隊を除くと近衛と傭兵で3,000が限界ですな。

 後は別働隊で1,500人の新兵がいますが

 まだ訓練不足で戦力になりません」

「3,000か。アナトハイム卿は領地をがら空きにするつもりか。

 まあしかし王家も同じくらいだ。

 王都の守備に温存しろという声が大きくてな」

「なれば、グリーヴィス公爵を支援する貴族はほとんどいないと」

「相手が大軍すぎて、逃げ帰るだろう。

 ここは戦わねばならぬと申しているのに。

 我が国も落ちぶれたものだな」


封建社会ではそれぞれの自治権があるので、中々団結した行動を取りにくい。

日本の幕府と同じである。

史実の第1回ウィーン包囲の際にも、圧倒的な兵力のオスマン帝国を相手に

周辺諸国の援軍が尻込みをしてしまい

ハプスブルク家のみが戦わなくてはならなかった。

国際関係でいかに仲間を沢山作っておくかは非常に重要である。


「異教徒の外交戦術は有効に機能しているという事ですか?」

「かもしれん。

 かと言ってこのまま見捨てる訳にもいかない」

「にゃはは。魔法で一気に焼き尽くしてしまうにゃ」

「相手にも魔法兵団はいる。

 レジストしてくるであろう」

「なれば大砲で魔法の射程外の遠距離からどーんどーんと」

「砲撃戦だけなら利はあるが、必死に接近してくるであろうな」

「砲撃戦を乗り越え、塹壕を破壊し、外壁を破壊して、

 接近戦で戦う。

 戦争に絶対は無いからな」

「数に圧倒的な差がありますからね」

「そうだ坊主とミルチャー卿。

 何か知恵は無いか?」


いつしか居酒屋の飲み会の雰囲気になりつつも、

伯爵領の軍人達が話に混ざり込む。

まあ本音を聞き出すのが目的なんだろうと、思いつつ

話に混ざるメンバー。


「ちゃーの意見では一応、いくさの形に持ち込めた事に敬意を示す。

 我らだけでは戦いにすらならなかった。

 ここで奴らを叩き、長年の借りを返したいものだ」

「だがどうやって。ミルチャー卿」

「本来なら奴らの本部を急襲し大将首を狙うのが筋だが、

 それだけの軍勢を突き破るのは困難である」

「効果的な案はないか」

「補給路を突く戦術しか思いつかないな。

 各個撃破するには兵力差が大きすぎる。

 接近戦では不利だから遠距離戦に徹するしかないのでは」

「百戦錬磨のミルチャー卿でも厳しいか。

 この戦で果たして生き残れるのか」


歴戦の武人達も戦のあり方には答えが出ていない。

そもそも兵力の大小は戦争の基本なのだ。

負けている方が一発逆転を狙って大勝利、というのは

常套手段ではない。


「坊主はどうだ。意見はないか」

「本来なら外交的圧力で大軍が動かせない状態を作るのが理想ですが、

 今回は国力差がありすぎて難しそうです。

 しかし、遅延戦術は有効です。

 補給や盾となる資材を入手出来なくする焦土戦術でしょう。

 持久戦にもつれ込ませるのと、敵の継戦力を落とすのが重要です。

 実際に城壁まで近づいて戦える敵兵は2〜3万に過ぎません。

 後は交代要員です」

「2〜3万か。つまり直接戦闘に参加出来る兵士数はそれほど多くない、か」

「城壁を挟んで最後の接近戦で守りきれるか、が勝負の分かれ目になるかと」

「確証は無いな。

 やはり籠城戦は援軍ありきだ。

 この戦、負けるな・・・」


悩むトーマス殿下。

悩むという事は戦う意思がある事だと周囲は気づかない。

もっとも陛下に戦う意思があれば、王都に主力を残す考えは無いであろう。

歴戦の軍人達はそこに気がついていた。


「いずれにしても、苦しい戦いになりそうだな。

 だが俺は諦めてはいないぞ」

「そうですな。殿下。

 我らも死力を尽くしましょうぞ」


酒の場はまだまだ深夜まで続いたが、この議論に結論が出る事はなかった。

もっとも参加者は気づかなかったがこの部屋の壁が薄く

隣で王家の関係者がしっかりと聞いていた。

そして日和見の態度を見せる事になる。

この事は戦争とその戦後の影響に大きく作用するのであった。

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[一言] アイヴィーリさん、ついに魔王まで使役するに至ったのか…
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