製鉄会社の幹部報告会①
トーマス殿下に呼ばれて教授とエリオス君は王都に向かう。
製鉄会社の幹部会議である。
「教授。この会合も久しぶりですね」
「トーマス殿下をはじめとして国家の重鎮が
集まるので緊張するな」
「しっかりやらないと首になりますよ。教授」
「うむ。任せろ」
「大丈夫かな・・・」
心配になりつつも教授と一緒に出頭するエリオス君。
実験の失敗があるからあまり大きな事は言えないのだが、
ちゃんと進んでいるものと信じたい。
「おお教授と坊主か。
よく来た。
早速、報告の準備してもらおうか」
「殿下もお疲れ様です」
「うむ。今日は各方面の進捗を報告してもらう。
もちろん、後で俺から陛下に報告せねばならぬ。
国家事業だからな」
「承知しました」
と雑談していると、幹部の方々がやってくる。
今回からは任命された代理人である。
「宰相閣下から任命されましたチェスター男爵です。
経営企画財務を担当致します」
「製造担当としてグリーヴィス公爵様から任命頂きました
家臣筆頭のランドルフ・フォン・ウォートンでございます」
「技術開発担当の理工学教授、レイモンド・ウィリアム・アマースト男爵です」
「営業購買担当のジェロード皇太子です」
「安全品質担当のアナトハイム伯爵、ヘンリー・ド・ハワードである」
「トーマス殿下直轄の技術担当のエリオスです」
それぞれの担当が自己紹介する。
他にも宰相閣下とグリーヴィス公爵も来ている。
グリーヴィス公爵家からあのランドルフ公国宰相が来たか。
都度、参加してアドバイスするのであろうか。
トーマス殿下が頷いて、話を進める。
「自己紹介は以上だな。
では各部門の進捗を報告してくれ」
「ハッ。
では財務部門から。
資本金に対し株式を発行して共有済でございます。
高炉建設計画に対し、まず3年分の予算編成を組みまして
雇用や資材の購入にあてるつもりです」
「うむ、詳細は各部門より報告してもらおう」
経営企画財務のチェスター男爵が説明する。
チェスター男爵は30歳過ぎのオールバックのイケメンである。
鋭い目つきが出来る人材のオーラが出ている。
伊達に宰相閣下から任命されるだけではない雰囲気である。
「それでは製造部門。
現在建設人員を中心に雇用を進めております。
ちょうど我がグリーヴィス公爵領より領民が移動しておりますので
アナトハイム伯爵領にて雇用する形で進めております。
作業者教育を行えば、順番に作業に入れるかと」
「よろしい」
「して殿下?
作業者の教育に教授のお知恵とご指導を頂きたいのでありますが・・・」
「会社の幹部候補生を中心に製造要員の選別を行え。
その後に教授の研究所にて試験協力を兼ねて学習させろ。
今後はその幹部候補生を指導役として会社の作業員を指導させる。
建築要員はアナトハイム伯爵の元で建設の計画を組ませろ」
「ははっ。
承知いたしました」
ランドルフ公国宰相がトーマス殿下に頭を下げて返礼する。
そしてチラリとエリオス君を見て、何か言いたそうな顔をした。
また後で捕まって愚痴を言われるか?
以前を思い出してしまったエリオス君。
「技術開発は建築する高炉の図面を設計中です。
完成次第、情報共有させて頂き建設計画に入ります。
使用する耐火レンガの窯の製造に職人1名を頂き
技術開発中でございます。
順調にいけば、高炉の建築に使用できる耐火レンガの窯を
現地に製造し量産体制を作る予定です」
「耐火レンガは設備に最も重要な炉壁だ。
教授にはよろしく頼む」
「ハッ。殿下」
教授が進捗を説明する。
図面は進んでいるのね。
耐火レンガも実際に職人さんが焼いている窯を
そのまま展開して試作し設備立ち上げするだけであるので
初手としては実績のある内容である。
今後は少しづつ難しい内容になっていくのであるが。
「営業購買、と申しましても今は購買業務のみでございます。
アナトハイム伯爵と協力し、資材の調達を進めています。
国産の鉄鉱石、国産の石炭を集めてエリオス卿に
実用評価を依頼する形で進めております」
「ジェロード皇太子は坊主とアナトハイム伯爵と協力して
まずは仕事を覚えてほしい。
何かあれば協力するから俺に相談しにこい」
「殿下のお気遣いありがとうございます」
この中で一番実務経験の浅いのがジェロード皇太子である。
まだ何をして良いかわからないであろう。
裏からトーマス殿下がご指示しているそうなので
少しづつ仕事を覚えてもらうしか無い。
「安全品質担当としてはまだ具体的な活動に出ておりません。
現地での土地と人員確保はおおよそ完了しました。
あとは各部門と連携して行います」
「聞いている。
アナトハイム伯爵。
土地の買収と現地の実務は任せる。
当面の出番は少ないが担当業務は坊主に協力させろ。
後は坊主を支援出来る、後継となれる人材の育成を進めろ。
優秀な人材を集めろ」
「承知しました」
アナトハイム伯爵様が説明する。
やはり実務はエリオス君に振られる事になる。
まあ事前から予想の範囲内であるが
人材がほしいのも事実である。
人を動かす仕事は伯爵様に助けてもらおう。
「では坊主」
「ははっ。
実用可能な耐火レンガの試作は教授からご報告があったとおり。
次の研究開発として石炭を燃料として使うために
石炭コークス試作試験を行っております。
先程の事故の対策次第、試験再開し石炭燃料の実用化を進めます」
「事故の対策はしっかり行い再発防止するように。
後は、量産機で事故を絶対しないように
気づいた知見は全て残しておく事」
「承知しました」
「鋼鉄を作るための設備の基礎研究も進めておくように」
「仰せの通りに」
事故の報告は伝わっているが、再度口頭にて報告しておく。
研究開発には失敗は避けられないが、
再発防止は頑張って行わなければ。
「全体として進んではいるようだな。
次は建設する前にジャッジメントが必要だな。
次回までに設備建設計画を各方面より報告頼む。
それぞれが協力して業務を進めるように」
「承知しました。殿下」
今回はまだスタート段階であるから大きな問題は出ていない。
しかし設備の投資計画の決済が必要になる。
その時には具現化していなければならない。
それもまた大変な事であるが、宿題となった。