石炭コークス製造⑤ 石炭とコークスの物性測定方法
次は石炭の性質を評価する技術が必要になる。
石炭は産地によって様々な性質を持つので、
分析してデータを調べる必要がある。
しかし、分析機器がない。
やはり運用で課題が出てくる。
「どうやって石炭の性質を調べようか」
「何にお困りですか?エリオスさん」
「いや、ラスティン先輩。
石炭の材質をどうやって調べようか、と」
「そんなの石炭を割って見ればよいじゃないですか」
「・・・うん、ある意味真理だけどね」
ラスティン先輩の発言に、返事に困ってしまうエリオス君。
目視で測るのはちょっと難しい。
黒い塊にしか見えないかもしれない。
石炭の物性として一般的に、
かさ密度、曲げ強さ、硬さ、純度、水分、揮発率、通気率などがあげられる。
緻密な石炭だとかさ密度や硬さが大小する。
もちろん、純度も同じである。
後は形状的な問題になるが、ちゃんと石炭に隙間があり
空気が流れていくかは通気率次第である。
実測するにはかさ密度、硬さ、純度の代わりに灰分、
通気率などが可能であろうと推定される。
しかし硬さはちょっと考えないといけない。
本来なら一般的なハードグローブ指数を測定するための治具、
鋼鉄の玉と容器を用意しないといけない。
実体顕微鏡と電子顕微鏡があれば組織構造まで見れるのだがそれは無理である。
本来ならJIS規格で測定したい所であるが、専門の機材が必要なので無理。
未来への課題として取っておく。
「どうやって石炭を調べましょうね。
まず石炭をバラバラにならない様に注意して角棒か丸棒に削りましょう。
脆いんで旋盤を使いましょうか。
ノギスで寸法、重量計で重さを測って計算します。
硬さは難しいです。
本来ならハードグローブかビッカース硬さですが、
機材が手元にないのでモース硬度で代替えしましょう」
「・・・エリオスさん。
何を言っているのか僕にはさっぱり分かりません。
ちょっと優しく教えてくださいよ」
「駄目です。
少しは自分で考えてください」
「・・・えー」
かさ密度は寸法と重量を測るだけだが、
硬さは色々な測定方法がある。
ひっかき硬さ、粉砕硬さ、圧痕硬さ、跳ね返り硬さなどなど沢山ある。
今回はモース硬さを使う。
ある硬さが決まっている鉱物、金属を用意して
引っかくのである。
柔らかい方に傷が付く。
分析装置のない時代においては、
鉱物を同定するために役立つ簡便で安価な方法である。
「じゃあここにあるリストの鉱物を教授と相談して
探してきてください。ラスティン先輩も手伝ってね。
入手が難しいのもあるので」
「石膏、石英、トパーズ、ダイヤモンド・・・
結構高価なものが多いですね」
「もし研究室になければ、
必要なので研究費を使って買いましょう。
長く使えます」
「何に使うのですか?」
「石炭を引っ掻いて傷が付くかで硬さを判断します」
「なるほど。
硬い物で柔らかい物を引っ掻けば傷が付く理屈ですね。
それなら分かりやすいです」
本当なら粉砕硬さとしてのハードグローブ指数を知りたいのであるが、
今すぐに入手は難しいので我慢する。
おおよその数値がわかれば良いという定義にする。
硬さは結晶の度合いに比例しており、
ダイヤモンドは例外にしても
結晶化が進むと柔らかくなり、結晶化が進んでないと硬い。
これは石炭に内在する炭素の性質である。
ちなみに天然の完全結晶であるダイヤモンドは
立方晶共有結合をしているため結合力が強いが、
普通の炭素は結合力が弱いので柔らかいのである。
ここらへんに興味のある人がいたら大学の教科書を読んでほしい。
「純度はどうやって調べるのですか?エリオスさん」
「硫黄分を検出するのはまだむずかしいので、灰分を使います。
石炭の炭素分は酸化してなくなるので、
高温で焼いて残った成分の重量を測定します」
「ああ、それなら分かりやすいですね」
「天秤で測定できれば良いのですが。
少なくとも%台の精度は欲しいのでたくさん処理します」
「結構時間がかかりますね」
「高温炉が必要なので断熱レンガで簡易の窯を作る必要があります。
まあ基本的には焼くだけですが」
不純物を測定するのに、本来は元素分析したい所であるが
流石に無理である。一番原始的でかつ効果的な手法を使う。
窯に入れて酸素を供給しながら800℃前後で燃え尽きるまで焼くだけである。
「曲げ強さはどうやって測定するのですか?」
「先程言いました石炭を削った丸棒か角棒を使って、
重しを徐々に掛けて折れる所の荷重を測定します。
やり方は色々ありますが、簡単にできる方策を試してみましょう」
「天秤みたいなものですかね?
一部分を固定して、作用点に重りを付けて折れるまで観察する」
「そんな感じです。
天秤と重りを集めてくる必要があります」
「確か研究室にあったはずです。
僕の方で探しておきます。エリオスさん」
「宜しくお願い致します」
最初は練習しながら、色々と治工具を集めよう。
検査技術をしっかり構築出来れば後々楽になる。
通気率は測定治具が必要なので別途方策を考えよう。
こんな感じで、石炭の性質を測定するための方策と
治具を協力して入手するのであった。
もちろん、石炭の鉱物だけじゃなく
蒸し焼きした石炭コークスも同じ様に測定して管理するのである。