石炭コークス製造③ 石炭ソースへの課題
耐火レンガの製作には時間がかかるので、
木炭職人さんに石炭を焼いてもらう試験をする。
実は石炭コークスは黒ければ何でも良い、という訳ではない。
色々と使い勝手が難しいのである。
ラスティン先輩と一緒に調査が必要ではあるが・・・
「高炉で使いやすい石炭コークスを検証する必要があります」
「ど、どういう事ですか?
エリオスさん?」
「つまり・・・」
高炉には石炭コークスと石灰と鉄鉱石を混ぜて投入するのだが、
良質な高純度の銑鉄が必ず出来るとは限らないのである。
加熱した際に高炉内部でどういう反応が起こっているか?
は、現在でもシミュレーションに頼りその場観察は出来ていないらしい。
「まずは石炭は大自然が作った燃料なので、
見た目は黒くても全く同じではありません」
「私にはサッパリ分かりません。
同じ黒い塊に見えます。エリオスさん」
「まあ、目視ではそうですね。
しかし高炉で使う上では色々と制約があります
それは・・・」
ラスティン君へ説明を続ける。
高炉で重要なのは勿論、燃料として温度を上げることもだが、
酸化反応で不純物を除去する所と
機械的強度が必要である。
石炭コークスの形状がある程度大きくないと駄目である。
何故なら、微粉ばかりだとガスが抜けていかないのと
酸素が内部に流れていかないから酸化反応しない。
勿論、燃料として燃やすにも酸素は必要である。
そして機械的強度が無いと潰れてしまいガスの通過経路が塞がれる。
ある程度大きい粒や塊でないと強度とガスの通過経路を保てない。
内部で見えない圧力釜状態になる、と爆発する。
高炉は内部が見えないので、爆発事故は現在でも絶えない危険な炉でもある。
さらに、高炉は上部から下部まででかなり大型の炉であり
当然下部にはかなりの重量がのしかかる。
荷重に耐えられるコークスが必要である。
他にもコークスの針状、結晶度なども影響してくるが
今回は割愛する。また別の機会で会話したい。
「という事で色々と細かい要求がありましてね」
「エリオスさん。全然分かりません。
難しすぎますよ」
「・・・そうですね。
他にも課題がありまして
石炭の様な天然ものはバラツキが激しいんです」
「どういう事ですか?」
「産地によって古世代、中世代、新世代に分かれていて
それぞれ質が違うんですよ。
だから同じ様に使えないし、産地限定しないと駄目なんですよ」
「???
エリオスさんの言っている意味が全く分かりません」
「ちょっとマニアック過ぎましたね。
スミマセン。
要は使える石炭と使えない石炭があるんです」
「どうするんですか?」
「使える石炭の産地を選んで、後は混ぜて使います。
色々な産地を組み合わせします」
「・・・難しいんですね」
ちょっとマニアックな話題が続いたが
難しい所は端折って説明する。
何が言いたいのかというと、複数の鉱山から取れた石炭を
調査して、使いやすい性質の物を混ぜて調整して
使う必要があるのが石炭の難しい所。
バーベキューなどで火が付けば良いや、なんて
使い方なら微粉を混ぜてしまえば良いんですが
工業として、安全を考慮するとどうしても
使える使えないが出てきてしまうのが難しい所。
複数の調達ソースを増やすと、当然バラツキが激増する。
使いこなす方も特殊な技が必要になる。
そういうノウハウがあり、誰でも出来る所が生き残る。
属人化してしまうと一番怖い部分でもある。
「エリオスさん」
「何でしょうか?ラスティン先輩」
「わからないことが多すぎます」
「そうですね。僕も正直分かりません。
テストして、改善して、良いものを作る
ノウハウを蓄積する必要があります。
最初は誰にも分かりません。
頑張りましょう」
「・・・何か、茨の道しか見えないんですね」
「理工学の道はそんなものです。
地味に着実に試験炉でデータを重ねて、
量産では故障少なく、安全確保し、ロス改善。
それが最終的にモノづくりの強さになるんです。
それしかありません」
「華々しい世界じゃないんですね」
「商売ですから」
ちょっと残念そうにするラスティン先輩を
なだめつつも説得するエリオス君。
ここで脱落する様では製造業は務まらないので
興味を持ってもらって頑張るしかない。
最終的に利益が出てくれば、商売として成功するのである。
しかし、課題はどこにでも競合の存在がある。
これが製造業の難しさでもある。