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聖書印刷技術② ウィリエルさんの聖書の翻訳

活字を作り出したら今度は聖書の翻訳した文書が必要である。

つまり翻訳を依頼している神学部のウィリエルさんである。

神学部に行って会いに行く必要がある。

ちなみにウィリエルさんの事を苦手なニーナさんは

ついてきてくれなかった。


「こんにちは、マーガレット教授。

 ウィリエルさんはいらっしゃいますか?」

「あらエリオス君。

 ようこそ神学部へ。

 ウィリエルはいますよ。お呼びましょう」


マーガレット教授にご挨拶してからウィリエルさんを呼んでもらう。

ちょっとこの研究室のウィリエルさんは苦手である。

なんせ独特の癖がある。

ウィリエルさんは黙ってさえいれば、18歳位でいかにも神父な姿で

メガネを掛けてキリッとしたイケメンであるが。

残念で惜しい人だ。


「ああ、エリオス殿。

 ようこそ神の使徒よ。

 この神学部研究所にやっと来て頂けましたね」

「・・・ウィリエルさんも元気そうで何よりです」

「あの大学祭での見事な采配。

 素晴らしい新技術。勇ましい我が国の軍隊。

 お見事でした。やはり貴方は神の使徒」

「大げさですよ。ウィリエルさん。

 本当に恥ずかしいから止めて下さい」

「ご謙遜を」


やはりこの人の誤解を解かねば恥ずかしい。

変な噂を立てられない様に注意せねば。

いったい何を根拠に崇拝してくるのか

エリオス君にはサッパリわからない。


「所でウィリエルさん。

 例の聖書の翻訳の件ですが」

「・・・ああ出来ていますよ。全部ではありませんが。

 そろそろ出版されますか?」

「実はご相談ですが、今印刷出来る環境を整備しつつあるのですが

 本の出版に半年以上かかりそうです。それも最初は少数のみで。

 それでも膨大な資金が必要になりそうなので、

 原稿料と印税は頂いた分量だけを少しづつお支払いする

 形でお願いできないでしょうか?」

「そんなに出版は大変なのですか?

 お金は都度でも大丈夫ですが、出版は出来そうですかね?」

「そちらは実家の会社と伯爵様のご支援がありますので

 何とか形に出来るとは思います」

「了解しました。

 この話も聖書が世に出版されなければ、

 何の意味もありませんからね」

「色々とご迷惑をおかけします」


懸念材料だったウィリエルさんの件も、

200ページ分の翻訳を頂いて代金をお支払いする事で一旦は解決した。

聖書全部のお金をよこせと言われても出版出来ないし、払えない。

まずは翻訳の一部を頂いてその分だけお金を支払う。


「しかしエリオス君。聖書は出版出来るのは半年後ですか?」

「マーガレット教授。まずは50部だけです。

 貴族やお金持ちの方々に販売し、その売上でもって

 次の印刷機を導入します。

 当面は設備投資に使用するので利益は出ない形になります」

「それは残念ね。

 楽しみにしているのに」

「多分、陛下や伯爵様とかが聖書を持っていくでしょう。

 まとめてスポンサーである伯爵様に売却して利益確定するのが

 賢いかもしれません。膨大な元手がかかっているので

 無償で接収されると厳しいです」

「記念になる初版には興味があったのに」

「マーガレット教授の分は残しておきますよ」


マーガレット教授から話を振られる。

まあ確かに初版は記念品である。

多少高くても買ってもらえるだろうか?

なら高くしよう。

手書きと違って、キッチリとしたフォントで印刷出来るだろうし。

そのうち王都でも印刷工場が欲しくなるかもしれない。

蒸気機関で自動操業出来るようになるまで当分我慢である。


「そうなると、聖書を全部出版するには膨大な時間が掛かりますね」

「そうなります。ウィリエルさん。

 しかし聖書は人の数ほど必要になるので

 今度は増販で大変な事になるでしょう。

 それだけで莫大な仕事になります。

 雇用も作れますし、お給料も払えます」

「・・・エリオス殿は人の心だけでなく、人の生活まで作る気ですか。

 その高貴な精神に感服致しました」

「大げさですよ。ウィリエルさん。

 確かに雇用を創設し貧困は無くしたいですが、

 あくまで商売です。

 キッチリと利益が出せる様になれば、

 教科書や教本なども作りたい思いはありますが当分先です」

「何と、その先まで・・・

 この国の教育レベル向上まで考えていたとは。

 流石、神の使徒。素晴らしい」

「・・・この人には逆効果だったか」


エリオス君の知らない間にまた

確かに雇用と教育レベルの向上は目標であるが、

まだエリート層にしか配れないだろう。

その理由としては・・・


「識字率が低いので、文字が読めないわね。

 あと、本が高すぎて1人1人の手元に渡らないわ」

「その通りです、マーガレット教授。

 最初は小さい塾を全国に作り仕事の空いた時間に教育するしかありません。

 そうやって地味に読み、書き、計算を身に着けてもらうしか」

「教育制度も改革が必要なのね。

 これは難しいわね。お金と人材が相当必要」

「文字が読めなければ、聖書も読めませんですからね。

 エリオス殿」

「その通りです」


まず先生が必要なのだ。

その後に賃金。だいたい教育費の多数が先生の賃金なのだ。

これは識字率が低いとまず先生を増やすのも大変なのである。

初等教育が簡単に広まらなかったのも色々と原因があった。

そちらも大きな課題である。

何故かと言うと産業革命時にマニュアルを読めるかどうかは

その後の発展に非常に大きな意味を持つからである。

明治維新の工業化が成功したのも日本の識字率の高さが影響したとも言われている。



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