魔王国からの食糧支援要請と農業戦略③ ヴェローマ外務大臣と雑談
会議の後に、魔王国のヴェローマ外務大臣と会い談話する。
もちろん、アノ人の連れである。
「これはエリオス卿。
久しぶりですね」
「ヴェローマ外務大臣もお久しぶりでございます。
遠路はるばるお疲れ様でございます」
「我が国のお嬢様が相変わらずお世話になっているそうで」
「少尉殿ですか。
相変わらずいつも元気です」
「・・・それは、ご苦労さまでございますなぁ」
久しぶりにヴェローマ外務大臣と対話するエリオス君。
二人ともその件に関してだけは思う所があったのか、短い会話の中でも
意思疎通が取れているそぶりを見せる。
まあ、皆も心の中で思う所は同じなのだ。
「こら汝ら。
妾をダシに文句ばかりを言うでない。
不届き者どもめ」
「ああロザリーナ少尉。来てたのですね」
「妾が来たら悪いのか?
汝らはいつも妾に冷たいの。
もう少しレディとして扱ったらどうだ」
「少尉殿は武人ですからね。
武人として丁重にご対応させて頂いておりますよ」
「武人としては良いが、レディとしてもしっかり丁重にするがよい。
汝は妾を脳筋娘と勘違いしていないか?
妾は淑女であるぞ」
「いえいえ、とんでもございません。
十分レディーでございます」
と適当に流すエリオス君。
この娘の扱いにも十分なれてしまった。
魔王国でもこんな感じなのだろうか?
多分そうだろうな。
「しかし魔王国に銀を出せとは、脅迫ですね。
魔王国にも貴国の戦争に関与せよ、と仰るのですか。
エリオス卿」
「魔王国の食糧が足りないと我が国に要請頂いたのは事実でございます。
まさに食糧も買えて、貿易路も拡大できる。
一石二鳥ではないでしょうか?
我らの商業ギルドの流通網を利用すれば、
商業圏を我が国から更に超えて南の異教徒国まで広げるチャンスです」
「物は言いようですが、我が国の銀の流出を増やす事になります。
我が国も実はそれほど銀が豊富ではありません」
「それも物の例えでございます。
本質的には食料品を購入するのに別に銀で支払う必要はございません。
交易品を銀の代わりに買わせるのは需要と価格と品質です。
綿織物や工業品の販路を南の異教徒国へ拡大しては如何でしょうか?」
「・・・ああ言えば、こう言うお方ですな。
なら貴国が先に買って下さい」
「ああそれなら、外務大臣殿。
我がキルテル村の繊維と靴下と紙は非常に高品質でお安いです。
魔王国にも如何でしょうか?」
「・・・」
いつの間にか売り言葉と買い言葉になってしまう
ヴェローマ外務大臣とエリオス君。
しかし商売の世界とはそういうものなのだ。
製造業の我々にとって売れるか売れないかは、
戦争の勝ち負けと同義である。
むしろ近世から近代は商業圏を拡大するために戦争していたと言えなくもない。
「ヴェローマ公爵。
エリオスに口で勝とうとしても無駄じゃ。
この男は非常に聡明なので、妾もとても苦労しておる。
頭が切れすぎるのじゃ」
「頭の切れる敵は実に恐ろしいですね。
そう言えば、エリオス卿。
そのうち魔王国に留学なされるとお聞きしました。
せっかくだからそのまま我が国に移住しませんか?
大歓迎致しますよ」
「今度は懐柔ですか。
僕に祖国を捨てろと・・・」
「うむ。手強い敵は戦うより取り込むのが先じゃ」
「それは意見が合いますな。お嬢様。
こんな恐ろしい敵は我が国に向かい入れましょう」
「そうじゃな」
「・・・コラコラ」
とたんに懐柔に走るヴェローマ外務大臣。
態度が変わり過ぎだろう。
これも老獪な手法だろうか?流石、外務大臣。
有望な人材はどこでも欲しいのだろう。
「今ならこのお転婆お嬢様もお付けしますよ。
エリオス卿」
「・・・バッ、馬鹿を申すでない。
わ、妾が何故この様なチビの年下のちんちくりんを」
「ほほう。このお転婆お嬢様もその様なお顔を。
お顔が赤くなっておりますぞ。
珍しいものを見せて頂いた。
お年ごろですな。
中々良い組み合わせで無いでしょうか?」
「フン。
ヴェローマ公爵はいつも妾を上から目線で。
そういう態度が不届きじゃと申しておるのじゃ」
「まあ、外務大臣殿から見たら
どちらかというと娘みたいな感覚でしょうな」
「エリオス。汝には娘はいないであろう」
まあエリオス君からしたら前世40歳+10歳で既に中身は50歳である。
実は微笑ましい娘にしか見えないのもひょっとしたら事実かもしれない。
外観と精神年齢が一致しないのも結構難しいのである。
どうしても大人の目線で見てしまう。
「アタシのエリオス君をたらしこもうとしないで。
このスケベ共」
「おお、ニーナもやってきたか」
「ニーナ殿もエリオス卿と一緒に魔王国へ留学は如何でしょうか?
ロイスター王国きっての天才少女との噂。
是非、このお転婆お嬢様をヘコませて、常識を教えてあげて頂きたく」
「ニーナでは妾の相手にもならぬぞ」
「本当に失礼なお嬢様ね。
魔王国では子供の教育はどうなっているのかしら」
「・・・それにつきましては、弁明の余地もなく。
ゴホゴホゴホ」
「妾はちゃんとしたレディーであろう」
「「「誰が???」」」
ついうっかり本音を発言してしまう3名。
まあ魔王国での窮屈な生活を発散しているのかもしれない。
向こうでの事情は殆ど聞いていないのだ。
「ニーナは付属学校でまだ大学生でもなかろう」
「ふふん。
アタシが飛び級で合格したらお嬢様に追いつくわ。
直ぐにお嬢様を追い越してみせるわ。
時間の問題よ」
「妾に追いついて追い越すとは・・・
魔王国でもそんな不届きな事を言う輩はいないのじゃが。
まあ良い。
ここはこの天才が大人の態度で胸を貸してやろうぞよ」
「ぐぬぬ。・・・いつか覚えていなさい」
「ははは・・・」
仲が良いんだか、悪いんだか傍目から見たら良く分からない態度である。
しかしこの二人の天才が将来を大きく動かすのは間違いない。
今は魔王国の天才とロイスター王国の天才が和やかに雑談するのみである。