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魔王国からの食糧支援要請と農業戦略② 南の異教徒への買い占め戦略

 王宮から急遽呼びつけられるエリオス君。

何の事かは詳細を聞いていないのであるが、

現地で伯爵様に会って聞いてみるしか無いので、

幼馴染達を一旦キルテル村に残しておいて、

先に早馬で王都に帰る事にする。

口頭で一言、戻ると言っておいたが

文句を無視して置いていったので

勿論後で皆に怒られる事になる。


 最近は伯爵様の指示で宿場町で馬が借りられる事が出来る様になったので、

馬を乗り継いで移動が可能になった。

早く全土に採用して欲しいものである。

まずは伯爵様の館に向かい、それから王宮に向かう。


「伯爵様、エリオスでございます。

 お呼びでしょうか」

「おお、内政官殿。

 実は余も聞いたばかりであるが

 王宮から急に召喚を頂いた。

 卿と共に王宮に向かうように、と。一大事である」

「一大事でございますか。

 最近多いですね」

「愚痴を言うな。

 実は魔王国のヴェローマ外務大臣が急遽やってきてな・・・」


 と伯爵様が概要を説明する。

魔王国の食糧問題である。

この食糧備蓄が重要な時に、同盟国に食糧を供給しないといけないジレンマ。

まさに飢餓輸出になるだろう。

本来なら認めてはいけない事態ではあるが。


「・・・策がいりますね」

「何か考えがあるのか?」

「何か良い案があるか考えます」

「任せる。

 それは良いとして直ぐ王宮に向かうぞ」

「承知しました」


 といい伯爵様と王宮に向かう。

そこには疲れた宰相とトーマス殿下、

陛下とグリーヴィス公爵他多数の貴族がいた。


「遅いぞ、アナトハイム卿」

「申し訳ありません」

「早速議題に入ろう。

 魔王国からの食糧輸出の増加の増加要請。

 しかし我が国は戦争飢饉対策で食糧の備蓄が必要。

 断れば、同盟破棄の問題に繋がる。

 ここまでが概要だ」


 宰相が説明する。

だいたい想定される範囲であるが、

ここからが各王侯貴族の意見の分かれ目である。


「魔王国に要求される食糧を供給した場合、

 我が国は飢えて死人が多数でる。飢餓輸出である。

 グリーヴィス公爵は代替え食糧の生産を提案する。

 しかし実例が少なく、増産体制の雲行きが怪しい」

「食糧を供給しない場合は、武器弾薬の供給を受けられなくなり

 戦争は非常に劣勢になる。

 外交関係としても我が国は孤立するリスクもある。

 そして戦争に負けた場合、王都での防衛は非常に苦しい事態になり

 巨額の賠償金と領土の割譲を要求されるであろう」

「武器の供給を受けても戦争に勝てるとは限らない。

 今の段階で降伏した方がより良い条件で和睦出来るのではないか?」

「・・・敗北主義者が!」

「なんですと?」


 議論が荒れてきた。

確かに、各位の言いたい事は分からないでもない。

しかし、侵略される南とリスクが低い北側の貴族では

若干認識が異なるのも事実であろう。


「食糧の増産を提案しているエリオス卿よ。

 卿の戦略を述べよ。発言を許可する」

「・・・」


 陛下の発言に場がしんとなって、全員がこちらを見てくる。

急に話を振らないで欲しい、と思ったが

その手の議論は既に尽くした上で八方塞がりなのだろう。

陛下は議論の打開を要求しているのである。


 ここは城攻めに得意な秀吉の戦術をそのまま頂戴しよう。

名将の戦術はどの時代でも有効なのである。


「まずは定義を整理しましょう。

 食糧、飢饉の問題

 防衛力の問題

 同盟と外交関係の問題

 南の異教徒との外交関係

 でございましょうか」

「そうだな」

「まず南の異教徒との戦争は、魔王国と手を結んだ段階で避けられませぬ。

 もともと南の異教徒は我が国を侵略する準備をしているのは

 外交や商業ギルドの情報で明らかになっていますので時間の問題。


 ここは古来の城攻めの名将の戦術を頂戴しましょう。

 まず南の異教徒の国を一つの城と見立てます。

 敵の城を開城させる為に食糧攻めにするのです。

 まだ戦争と兵站の準備が整っていない今が絶好のチャンスです」


 会場がざわめく。

エリオス君の言っている事がまだ誰も理解出来ていない。

一体こいつは何を言い出しているのか?


「収穫後である為に、今は食糧は比較的安価です。

 つまり貿易ルートから購入しやすいとも言えます。

 我が国は外交ルートと貿易網、商業ギルド、裏貿易、密輸など

 ありとあらゆる手段を用いて

 南の異教徒の持つ穀物や保存の効く食糧を買い占めます。

 多少高くても、2倍や3倍の値段を出してでも

 とにかく買い漁ります。

 これで直近の食糧問題を解決し、魔王国にも大量に供給が可能です」


 会場が更にざわめく。驚きと怒りの声を上げる貴族もいる。

これは秀吉の鳥取城攻めを流用した考えである。

史実を知らなければ、理解できなくても無理はない。


「しかしそれでは南の異教徒は資金を得て大量の武装と傭兵を雇う。

 国防は更に困難になるのではないか?」

「どんどん武器を買わせればよいのです。

 いくら兵士を増やしても、その大軍を維持する食糧が不足するでしょう。

 この戦争は兵士数ではなく、兵站が最も重要なのです。

 それに南の異教徒が気がついた頃には

 我が方の食糧買い占めが進み、食糧の調達に非常に時間が掛かるでしょう。

 継戦能力は大幅に減少し、我が方の籠城戦で非常に有利に働きます」

「・・・」

「加えて、南の異教徒も戦時食糧を集める為に、

 無理をしなくてはならないでしょう。

 現地での強制調達、広範囲の輸送路の確保、

 しかしグリーヴィス公爵領では焦土戦術。現地調達も不可能、兵站は長く困難に。

 気づいた後には開戦が数ヶ月遅れる事は間違いなしです。

 その時間の遅れは秋や冬までの戦争期間を短くし

 兵站を困難にし、大いに厭戦意識を高め

 兵士の逃亡や暴動も増加します。

 我が国に全て有利に働きましょう」


 エリオス君が説明すると驚きを示す王侯貴族。

国力差を考えると普通はありえないであろう。

しかし魔王国の超大国としての国力を利用すれば、不可能ではない。

史実の鳥取城でも、最初は大喜びして兵糧を売り武装を購入したらしい

しかし、いざ開戦になると倉庫に食糧が足りなくなっていた。


「しかし、それほどの大量の銀は我が国には存在しないぞ」

「銀は、備蓄してある異教徒戦争税を使うしかありません。 

 ここが使いどころです。

 勿論、帝国議会で戦争税の徴収に協力してもらいましょう。

 グリーヴィス公爵家のみが血を流して、後で降伏するなど許されません。

 過去の戦争でも、異教徒戦争税は徴収しました。

 それはお願いしたい所でございます」

「・・・帝国議会か。戦争税は止むを得ないな。

 問題はどうやって貴族と大司教を説得するか、だが」

「加えて、魔王国にも多数の銀の抽出に協力して頂きましょう。

 もともと、かの国からの食糧要請です。

 最終的に購入した食糧は魔王国に送るのです」

「なるほど」

「魔王国の銀や工業品も売却して、

 南の異教徒から大量に食糧を買い叩きます。

 この際ですから徹底した仲介貿易を狙うのも良いでしょう。

 その後、教皇を利用して各国に徹底的に介入させましょう。

 我が国が食糧を異教徒から安価で買い占めた後に、

 食糧が戦争で高騰するから投資すれば儲かる、と各国に宣伝して。

 そしてその銀は間接的に異教徒の食料を奪い我が国の戦争に大いに役に立つのです」

「・・・面白い考えだな。

 それは魔王国や各国に南の異教徒との戦争に参戦しろと同義であるな。

 各国から見たら血を流さない戦争である。

 多数の投資をしてしまえば、簡単には逃げられなくなる。

 まあそれ以前に魔王国は食糧調達の為には何でもするであろうが」


 宰相とグリーヴィス公爵が感心して唸る。

陛下も顎ヒゲを触りながら考えこむ。


「さらに裏では内乱や東方の国々と外交関係を煽りましょう。

 今年度は南の異教徒国で戦争によって食糧飢饉が発生するから大きく弱体する。と。

 徹底して異教徒国から食料を買い漁れ、とも。

 周囲の国々の国境が怪しくなれば、大規模な兵力の動員が難しくなります」

「まさか国際戦争にしてしまうか。

 外交関係を通じて」

「南の異教徒も隣国と手を結んで、我が国の背後を狙っています。

 敵の考えを逆用しましょう。

 第3国の動きを利用して南の異教徒を封じ込めるのです」

「・・・外務大臣。聞いているな」

「ハッ。陛下」

「ただちに動け。朕が許可する」

「承知しました」


 陛下が直ちに外務大臣に指示する。

考えは纏まったようだ。


「戦争は避けられぬ。

 朕は、この案を採用する。

 宰相とトーマス王弟よ、ただちに動け。ギルドを動かせ。

 外務大臣よ、魔王国の外務大臣を呼び寄せて交渉しろ。

 魔王国にも銀の抽出と仲介貿易の話をねじ込ませろ」

「承知しました。直ちに」


 宰相とトーマス殿下と外務大臣が

陛下の命令に各位が動く事になる。


「しかし我が国内の食糧問題が解決出来るとは限らない。

 加えてじゃがいもの増産も必要ではないのか?」

「そうですね。グリーヴィス公爵閣下。

 食糧の増産は全土に進めて頂きたい。

 最終的にはじゃがいもが庶民の戦争飢饉を抑えるのでございます。

 ちょうどここに作成したマニュアルと貴重な育成データがあります。

 マニュアル通りに作ればそれなりに収穫できるでしょう」

「これは娘の情報より更に新しいな。

 これも陛下にお願い申し上げまする」

「うむ。

 朕が許可する。

 全国に布令を出せ。

 宰相よ、後は任せる」

「承知しました」


 と言い、チェリーちゃんが作ったデータを渡す。

まだつい最近の事だから情報は伝わっていないだろう。


「・・・まさか、娘が公国の救世主になるとはな。

 エリオス卿といい、本当に神の使いとは分からぬものだ」

「・・・」


 グリーヴィス公爵が密かにつぶやく。

その一言にエリオス君は目を見開きながらも、

陛下や宰相や公爵の対応の変わり具合に驚く。

もはや庶民であっても、発言が許されるほどに重用されているのだと。

それは確かにこの国を大きく変えるのであった。

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