魔王国からの食糧支援要請と農業戦略①
エリオス君がキルテル村の実家に戻っている頃、
王都では魔王国のヴェローマ外務大臣が緊急にやってきた。
王宮で王侯貴族が急遽応対する事になった。
陛下がヴェローマ外務大臣に問いただす。
「して外務大臣殿。
今回はどの様な用件であろうか?」
「ロイスター国王陛下。
実は魔王国で農産物不作が発生して飢饉のリスクがあります。
この様な時期で誠に恐縮でございますが、
貴国からの食糧供給量を増やしていただけないでありましょうか?」
「・・・」
魔王国のヴェローマ外務大臣の要求に頭を抱える宰相と
何の事か理解できないその他の王侯貴族。
この事態に直ぐ判断できていない。
「我が国も魔王国から兵器他を輸入する立場。
宰相、どうなんだ?良いではないのか?」
「陛下。
我が国は南の異教徒との戦争を推定して、
戦時体制の構築を急いでおります。
南の穀倉地帯の農民を疎開すると同時に、田畑が侵略される事で
農業生産高の大幅な減少を予測しております。
最後の食糧備蓄を開放してしまえば我が国が飢えます」
「・・・それは一大事だな。宰相」
事の背景を理解した陛下が宰相に相談する。
食糧飢饉は戦争時につきものである。
「貴国が苦しい事は重々承知しております。
それでは貴国は我が魔王国に支援して頂けないという事になるのですか?
貿易の大陸封鎖が解かれるまでは、
我が国は同盟国である貴国からしか食糧を購入出来ないのです。
多少高くても食糧を供給お願いしたい。
でなければ、同盟関係も解消させて頂くしかない」
「魔王国も切実な背景があるのですね。
ちなみに過去の不作時はどうしたのですか?」
「闇貿易で調達するか、足りない分は当然飢えて死にます」
「・・・ふむ」
「良いではないか。宰相よ。
我がグリーヴィス公国が食糧を供給しよう。
魔王国には国を守る高度な武器を輸出して頂いた。
同盟国としてこの義を返すべきである」
「しかしグリーヴィス公爵。
例え戦に勝てたとしても、年は越せぬぞ。
次の秋の農業生産は期待できぬ。
国民の多数が飢えて死ぬ。
それでは国家が持たぬ」
「国防は眼の前の危機だ。重要である」
「国民の命よりまず眼の前の国防に投資しろと言いたのであるか?」
「リリアンヌ教授と娘が、芋という作物を研究し栽培している。
その報告書によれば、
寒冷地にも強く年に複数回の栽培が可能で、
地中に作られることから鳥害にも影響されないと聞く。
寒い地域の北方や山岳地帯でも十分収穫は可能だ。
足りない分は栽培して食わせておけば良かろう。
これは国家の危機だ」
「・・・何故それを知っている。公爵。
聞いた所によると「悪魔の根」と呼ばれているそうではないか。
しかも、まだ形の無い物を期待するのは危険だ」
宰相とグリーヴィス公爵が口論する。
国家を支えるどちらの立場も理解出来るのであるが、
立場と持ち得る情報量の違いがある。
どちらの意見も理があると考えられる。
「国王陛下の裁可はいかに」
「まずは必要な食糧の供給量と来年の予測を宰相。
それから必要な軍備と防衛体制をグリーヴィス公爵。
魔王国が要求する食糧供給量の算定を魔王国のヴェローマ外務大臣にお願いしたい。
朕は魔王国への食糧供給に協力する考えを示す」
「ありがとうございます。陛下」
「しかし、その芋という物の期待出来る食料生産量を
概算しなければならぬ。
まずそこからだ。
伯爵とリリアンヌ教授、エリオス卿を大至急呼べ。
ここから先は戦略の話である。
各自調査を行い、次週に供給出来る食糧を算出しよう」
「「承知しました」」
こうして第1回食糧問題会議を終わらせた訳であったが、
知らないうちに重要な宿題をエリオス君に課せられた訳である。
この時点ではとりあえず伯爵家のメンバーは誰も知らない。
そして、王宮への召喚を受けたエリオス君は急いで村から早馬で向かうのであった。