商業ギルドにてネゴシエーションその2
話は続きます。
折角なので流通の話をしてみる。
「そう言えば、この王都に向かう際に盗賊に襲われました。
幸い、冒険者さんで撃退出来ましたが、
商業上の流通にとって盗賊は非常に脅威です。
悩ましいです。」
とこの前の盗賊事件を話題に投げてみる。
感心しながらギルド長さんが答える。
「その通りです。
王都への道は、軍事的な理由で意図的に通行が難しくなる様にしてあります。
他国の軍隊が通行が難しくなる様に距離を伸ばし、
道路は舗装されず物資類の運搬には不便。
そしてその悪影響の結論として盗賊団。
完全に流通の邪魔です。
我々商業ギルドから見たら阻害要因としか言いようが無いです。」
「仰る通りです。
本来であれば、経済活動を最優先したい。
商業、経済活動より軍事を優先していると非常に非効率。金もかかる。
おまけに盗賊。
全く無駄ですな。」
ギルド長さんだけでなく、トーマスさんも頷いて答える。
流石にまだ子供のニールさんにはさっぱり理解できていない様子。
「まあ確かに非効率的で困ります。
ただし盗賊は貧困からくるものであれば、雇用と衣食住があれば、
必要な労働力として吸収して徐々に消滅していくものです。
そして暴力に任せた盗賊団は暴力で壊滅させてしまえば良いのです。
また、陛下の目指す富国強兵の課題には膨大な金がかかります。
莫大な税金が必要になります。
民衆の税金を上げていくには限界がありいつかは暴動が起きます。内乱です。
我々商人が強くなれば商人を重用する、つまり重商主義の時代がやってきます。」
「・・・・。」
「我々の経済力で非効率な制度を撤廃させてしまえば良いのです。
効率化して国家の持つ経済力を飛躍的にあげてしまえば誰も文句など出るはずもありません。」
ギルド長さんとトーマスさんはお互いに目線を合わせ、
黙って考え込む。
「果たしてそうなるかね?」
「まず情報と流通を確実に抑えるべきかと。
物価は需要と供給によって決まります。
物と情報の価値は欲しい人が増えれば増える程、高い価値を生みます。」
「つまり、供給と価格を独占せよ、と?」
「流通を押させてしまえば、容易です。
勿論リスクとして国家権力の介入や民衆の暴動は当然あって然るべき。
やりすぎれば潰されます。」
「もし固有の軍事力があれば、何でも出来てしまうという訳か。」
「国内に限ればですが。でも可能な限り国家権力と仲良くすべきです。
何故なら国外に目を向けると話は全く変わります。」
「国家と国家の軍事力によって商業が守られるか破られるかの世界。」
「世界に視点を向ければ、我が国の経済力と商品力が上がれば
他国の市場を独占する事も可能です。勿論逆もしかりです。
当然、関税という手段で防衛に入るでしょう。
そうなると戦争は避けられません。」
「戦争に勝てばいくらでも収益を上げられるという事か。」
「現実にある事実です。富国強兵の考えはそこで守られてしまいます。
つまり陛下の富国強兵と重商主義はWIN-WINの関係になります。」
ギルド長さんとトーマスさんは驚いた顔でこちらを見てくる。
そういう考えが無かったのだろうか。
まあその後に自由主義と国民国家の考えが出てきて革命になったのだが内緒である。
中世から近代ではお約束である。
「つまり国内で力を付け、国外で儲けるという話にもなるのか。」
「ええ、その通りです。勿論魔王国と商売して儲けても問題ありません。
こちらの経済力が優位になれば可能です。」
「魔王国と商売して勝つ・・・だと・・・。そんな事が可能なのか?
そんな考え方があるのか?」
「こちらが先進国になって魔王国を経済的に制圧してしまえば良いのです。」
産業革命という考え方が無ければ全く無意味な架空の話である。
調子に乗ってちょっと喋りすぎたかな?と反省しながら顔を伺うと、
トーマスさんが急に笑いだした。
「わはははは、面白い考えだな。坊主。」
「トーマス殿?」
「いや失礼。
前提となる条件がハッキリとしないが大変面白い話だ。
全く子供とは思えない考え方。
末恐ろしい子供だが気に入ったぞ。坊主。」
「私も驚きました。」
ギルド長さんとトーマスさんが答える。
歴史の教科書の受け売りですけどね。史実だから。
「今日の話は大変面白い話だったぞ、坊主。
また聞かせてくれ。
何か困ったことがあったらこのトーマスに相談してくれ。
何かしら力になろう。」
「商業ギルドとしても家族同然です。
ここを我が家だと思って遊びにきて下さい。」
えらい厚遇だなぁ。
もし産業革命の話をしたらもっと驚くだろうが秘密である。
そのうちバレるかもしれないがそれまでは。
「我々商業ギルドで世界を相手に商売したいですね。」
「その考えには賛同だ。」
そしてまたしてもトーマスさんは大笑いする。
こちらの意図の3分の1くらいは伝わったであろうか?
そしてニールさんには何の事だか分からずにポカンとしている。
まあ、ゴメンね。
こうして非公式的に2人の強い味方を得たのであった。
今回は話の筋を変えて、経済論に。
商業ギルド長さんとトーマスさんと。
近代にはよくあった歴史の話です。
まず経済や食料問題の話がよくあるネタですが、
その影響と背景に政治的問題が複雑に絡み合って難しい時代です。
面白いんですけどね。




