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第1回帝国大学祭⑦ ニューコメン型蒸気機関の展示

鋳造アクセサリーの作成と実演をお願いしておいて

次は井戸に設置してある小屋に作ったニューコメン式の蒸気機関。

ニューコメン式はボイラーの熱を冷却水で一旦冷やす為

エネルギー効率がとても悪いのだが、

試作型として井戸に設置してある。

石炭を投入して燃やせば、温度が上がり圧力が変動して

シリンダーが上下運動する。


「これも久しぶりだわね」

「設備が大型過ぎて石炭を食うから使う人が少ないけど、

 こういう時くらいには動かさないと駄目かもね」

「王都にはあまり石炭のストックが無いから。

 井戸程度なら手で汲んじゃうわね」


エリノールお嬢様がエリオス君に突っ込みを入れる。

設置してある井戸程度には大規模すぎて本来ならそこまで必要がない。

確かに手汲み井戸でも十分である。

燃費も悪いし。


「最近は鉱山から要望があるのでないの?

 排水が結構大変だって」

「どこから聞いたんですか?それ。

 まだ販売するつもりは無いんですけど」

「お父様から。

 各地の鉱山で排水が非常に大変だから

 欲しいという話を聞いたわ」

「簡単な構造だから製造コストは安いんだけど、

 石炭のランニングコストがね・・・

 もうちょっと効率化して小型化したら良いんですけど。

 確かに燃料としての石炭が取れる鉱山なら需要はあるんですが、

 採れた石炭を殆ど燃やして無くなってしまうんです」

「・・・それって価値があるのかしら?」


経済性から考えると本来厳しいのであるが、

それほど排水に困っているという証拠だろうか?

ちなみにニューコメン型は改良されたワット型が出来ても

シンプルな構造で初期投資コストの安さより使い続けられた。


「じゃあ、窯に石炭を入れて温度を上げようか。

 熱でピストンを上下させて、ポンプを動かそう」

「この窯に石炭をスコップで投げるのね。

 結構重労働だね」


と言って皆で交代で窯に石炭を投げ込む。

設計上は大気圧程度しか出ないので圧力が足りてない。

大気圧より高圧型の蒸気機関はワットの特許が切れてからである。

圧力を稼ぐ為に窯のサイズとシリンダ面積が必然的に大きくなってしまった。

それがニューコメン型の弱点である。

しかし、当時は馬で牽くしかなかった動力を

熱の力で再現したのは画期的であった。

蒸気機関の技術はワットによって加速的に進化していく。


「不思議な機械ね」

「馬がいなくても、水車が無くても井戸で水を組み上げるのね」

「水車が作れない場所でも動力が出せる機械」


気がついたら、学生や一般人が見学に来ていた。

構内を見慣れている理工学部の学生はともかく、

そうでない人達には珍しいだろう。

もちろん応用用途は無数にある。



「これは、水車の変わりに回転運動も出来るのかね?」

「クランクを使えば前後運動を回転運動に変換出来ます。

 クランクは古代から存在しているアレですね」

「小型化は可能なのかね」

「現在は動力を稼ぐ為に大型化していますが、

 将来は改良して小型化する予定です」

「都市の近くに水力と同じ様な工房を作る事が可能なんだね」

「もちろん、それを目的にもしています」

「・・・面白いな。また勉強させてもらおう」


何やら職人っぽい人がエリオス君に質問してくる。

構造は隠してあるので教えないが、詳しそうである。

ある程度理解しているのだろう。

まあ、個人的にはパクられて商売されても

史実のニューコメンやワットと違って大きくは困らない。損だが。

何故なら、一人では開発や生産に手が回らないのと

お金を稼ぐ方法は現代知識を使えば無数にあるからだ。


「おお、エリオス。

 汝はここにいたか」

「あら、ロザリーナお嬢様。

 ここは理工学部の園でございますわ。

 エリオス君は今こちらで忙しいのですわ」

「・・・なんじゃ汝は。妾はエリオスに用事がある。

 妾は汝には用事は無いぞ。

 所でエリオス。

 例の軍事の話じゃが・・・」


と、ロザリーナお嬢様が聞きつけてやってきた。

軍事学の方で何か問題があったのであろうか?


「おはようございます。

 ロザリーナお嬢様。何かありましたか?」

「いやな、軍事演習と剣術大会の件でな。

 ・・・なんじゃ。これは古いタイプの蒸気機関じゃの」

「このニューコメン型の蒸気機関をご存知でしたか」

「妾の魔王国では、改良された蒸気機関を実用化しておる。

 もう少しだけ小型で扱いやすいやつがな。

 この国はまだこんな大型のを使っておるのか。

 相変わらず遅れておるの」

「・・・魔王国では既に小型の蒸気機関が実用化されていると?」

「そうじゃ。最近は結構普及してきてあちらこちらにあるぞ。

 別に珍しくもない」

「それはマズイですね。

 そんなに我が国と技術格差があるのですか。

 一度、魔王国を見てみたくなりました」

「別に魔王国と貴国が直接戦争になる訳でもない。

 秘密になっておるが事実上の同盟国じゃ。

 特に気にする話でもない」

「・・・僕には重要な問題です」


と、ロザリーナお嬢様が爆弾発言をする。

そして発言に頭が追いつかないエリノールお嬢様。

大砲の件でもそうであるが、魔王国がこの国よりかなり進んでいると

技術格差が厄介である。

しかし基本知識はこちらにもあるので、

時間とお金があれば追いつくのはそれほど難しい問題ではない。

この会話はエリオス君の記憶に止めておく発言になった。

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