第1回帝国大学祭⑥ 砂型による鋳型成形
まず製造業に近いテーマの理工学部に応援に入る。
立ち上げが一番大変だろう。
「教授、応援にきました」
「ありがとう。エリオス君。
試験炉は前から動いているから鋳鉄は溶け出している。
後は、鋳型成形の指示をアシスタントさんにお願いして欲しい」
「承知しました。
試しに色々作ってみます」
鋳型成形は高温耐久性のある砂型を中空にして
形を作りそこに溶かした鉄を流し込むだけであるが、
複雑な形状を作る場合、高温で溶ける材料で本来の形状を作り
それを外部から砂型で固めてしまい、
鉄を流し込み熱で整形するのが良くある手段。
この型で鉄の形状が決まるのだが、
当然完璧な形にはならないので、隙間にバリや溝が出来るので
最後に手加工で修正するのが良くあるパターン。
本来なら砂型を固めた後にNC加工機でプログラミング
切削加工して寸法精度を出すのが現在の手法であるが、
とても無理である。
「・・・で、型を作るのと手加工で修正するのが
結局人海戦術になってしまうんだな、と」
「それでも1個づつ鉄の塊から削り出すのはとても大変なはずですわ。
エリオスさん」
「マーシリエお嬢様も手伝って頂けるんですか?」
「ハイ。社長」
気がついたらマーシリエお嬢様が隣で一緒に作業をしていた。
暇だったんだろうか?
それとも普通の学生であり研究者ではないので
居場所が無いのであろうか?
であれば手伝ってもらおう。
「試しに何か作ってみましょうか?
そうだ、簡単な腕輪にしてみましょう」
「ありがとう。
どう作るの?」
「そうですね。
まずリングの形状した型を作ります。
今回は真円は無理なので横に寝かせて半円にしておきます。
ケイ素の多い砂と粘土を少し混ぜます。
粘土の粘度が上がってきたら型に砂を塗り固めて型を外します。
まだ水分が砂と粘度に残っているので乾燥させます。
でおおよその砂型が出来たら、
鉄の溶液を流し込みます」
「ケイ素って何?
あと意外と繊細な作業が多いのね」
実際には結構時間がかかる。
適当に砂型を作っても良いが、表面が転写されるので
注意が必要である。
砂型に水分が残っているので水蒸気圧で割れたりする事もある。
本来は砂型は外段取りでまとめて作っておいて、
鉄を冷やして外して再利用というパターンである。
なお形状次第であるが取り出す時に割ってしまうと寿命である。
「で数十分か冷やしたらおおよそ数百℃まで下がるはずなので
牛皮の耐熱手袋をはめて治具で掴んでハンマーで叩いて外します。
まだ熱いので素手厳禁です。トングを使います。
手袋の上でも熱いので触ったら駄目です。
でそのまま空冷で冷却。
錆びるので水冷はしません」
「・・・数百℃とか良く分からない言葉が沢山あるわ。
解説はシンプルだけど結構時間掛かっているわね」
「量産の際には沢山の砂型を用意して
連続で流動させます」
「鉄を流し込む作業と砂型から外す作業だけを見ると
そこまで時間がかからないという事?」
「そうなりますかも。
いずれにしても
当然、表面には砂が付着したり
バリが残ったりしていますので手で削ります。
山で採れた天然砥石で地道に削ります。
上手な人は鏡面に近く仕上げるので
非常に美しく磨ける職人さんもいます。
ここは手作業です」
「分業で沢山作る訳ね」
「じゃあ、研究所の皆様。試しに作ってみて下さい。
火傷注意でお願いします」
実際に鏡面に磨くのは#8000以上のアルミナパウダーが必要なので
当時の人はどうやって磨いたのか興味はあった。
天然砥石か砥石車でゴリゴリ削ったのであろうか?
1個作るのに結構時間がかかるので
実際に完成するのはもうちょっと掛かるのである。
他の皆さんにも試しに自分で作ってもらう。
実演はその場で行うが、実際にお渡しするものは
前もって作っておいた物を屋台に並べて売るのである。
・・・後日であれば提供出来るんですけどね。
ご希望があれば。
「ふーん。
この型から外した鉄を上手に磨いてやると
綺麗な腕輪になるのね。
楽しみだわね」
「ええと、僕も磨きますが
皆で一緒に磨きましょうね。練習を兼ねて」
「じゃあ、エリオス君が磨いた1個は
私へのプレゼントね。
そうね、決めたわ。大切にするわ」
「自分で磨かれても良いですよ?」
「・・・デリカシーの無い子ね。
そこは察して私にプレゼントしなさいよ」
皆で磨く必要があるのに、
何故か手製のプレゼントにこだわるエリノールお嬢様。
深い意味は無いだろうと勝手に想像していると
「あー、そこの二人。
ナニ楽しそうにくっついてるのよ!
それにエリノールお嬢様。そこはアタシのポジションよ」
「なあに。ニーナちゃん。
お姉さんに向かって。
過去問をお父様の研究所で入手出来たのは誰のお陰かしら?」
「ぐぬぬ。
教授の娘の特権とはズルいけど、
その件はありがとうございました。
しかし何があってもその位置は譲りませんわ。
エリオス君もデレデレしていないでアタシにもプレゼント!」
「・・・指輪は誤解されるので却下で」
「どうしてよ。
エリノールお嬢様だけズルいわ」
また面倒なニーナさんがやってきた。
そしてチェリーちゃん他、いつものメンバーに後で
手製のプレゼントをたかられるのであるが後日談である。




