高炉の設備投資 新会社設立④ 役割分担と高炉投資の開始
新会社の概要がおおよそ決まったので業務にかかる。
「まず宰相の方は財務担当を決めて、
資本金の徴収を行ってくれ。
それで資材の雇用や人事を行う。
会社の本社は一応、この王都に置こう」
「承知しました。殿下」
「グリーヴィス公爵は製造担当を決めて、
工事のための雇用を進めてくれ。
レンガを作るための工場も必要だからな。
後は現地で必要な資材の管理も頼む」
「承知しました。ただちに人員を集めます」
「技術部門は教授より設計図の見直しと
現地の施工の指示を頼む。
一度アナトハイム卿と現地を見てきて欲しい」
「承知しました。
研究所で手配を進めます」
「資材の購買は王家で進める。
まずはレンガギルドと折衝してレンガの窯を作らないとな。
後は木炭だが、国中から手配してみよう。
必要になるのはかなり先になるが」
「担当は誰になさいますか?殿下」
「そうだな・・・。
皇太子にでも任せるか?
あの子にも経験を積ませる必要があるだろうから
坊主。折衝は手伝ってくれ」
「・・・まあ。交渉事なら。
伯爵様もご協力お願いします」
「余も内政官殿も乗りかかった船ではあるな」
「アナトハイム卿には現地の担当をまず頼む。
現地の用地買収と人員確保。
物流をスムーズに出来る様に各地方の責任者と交渉を。
事前に交渉してあるだろうが、
焦らずに頼む」
「承知しました。殿下」
事前に協議していた通りにトーマス殿下が
各貴族に指示を出す。
大まかな話はデザインレビューや投資提案の際に話してある。
「そして坊主。
お前は俺の直轄で動いてもらう。
色々と頼むぞ」
「・・・それはどういう事ですか?」
「例の石炭コークス炉とパドル炉の事だ。
それぞれの準備には時間が掛かるだろうから、
並行して試験炉とデータ出しが必要である。
銑鉄より高強度の大砲を作るなら青銅の溶解実験も必要だ。
分かっているな?」
「研究開発と試験炉作りですね」
「そうだ。大学の研究所だけでは人が足りないだろうから、
俺からも人材を出してやろう。
あとは、その、何だったか?
蒸気機関という物の改良も必要だろう。
あの大学の井戸にある大きい奴の。
そちらの方も重要じゃないのか?」
「覚えていらっしゃいましたか。
確かに実用化させねばなりません。」
「用地と資材が集まってきたら現地で施工指示も頼むな。
まだ当分先の話である」
「承知しました」
直近で動く概要を説明する。
こういう全体指示をトーマス殿下から大貴族に出してもらえるのは
本当にありがたい。
やはり、王家が主導するというのはバランスが良いのかも知れない。
自分で一から資金集めして人を集めて・・・用地買収して・・・
何てやっていたら何年掛かるか分からない。
国家権力というのは流石である。
また幕末当時の大名は自分の判断で高炉やパドル炉を進めていたから流石である。
トーマス殿下も製鉄プロジェクトのリーダーとして
よく大学に勉強しにきて色々と実機を自分の目で見ているから意外と詳しい。
・・・それは仕事を放棄して遊びに来ていたとも言えなくもないが。
これは世の中の先を見ていたのではなく、ただのサボりである。
「トーマス殿下もよく大学にサボりに来ていましたからね。
珍しいから面白そうだ、って。
仕事をほっぽりだして」
「・・・それは俺の先を読む見識が正しかった、
と褒める所じゃないのか?坊主。
結局、お前のイメージ通りに進んでいるんだろうが」
「南の異教徒との戦争に勝って、工業化が成立して
魔王国に追いつき我が国も超大国の仲間入りすれば
立派なトーマス殿下の成果ですよ。
歴史に名を残す名君とも」
「・・・我が領地の開発は進んではいないがな。
国家の公僕と共に領主でもあるんだが」
「まあそちらも忘れずに頑張って下さい」
「坊主は他人事だな。いつか覚えていろよ。
よろしい、会議は終わりにする。
各位は業務を進めてくれ」
「「「「「承知しました。殿下」」」」」
こうして社長であるトーマス殿下から指示がおりて
それぞれが高炉建築に進めるのである。
裏ではエリオス君に協力依頼が殺到するのであるが別の話である。
一先ず、国家権力を味方につける事に成功したのである。
このプロジェクトは大きく進むのであった。
会議の後で伯爵様とエリオス君は呟く。
「内政官殿のお陰でやっとプロジェクトが動くな。
余の鉱山も本格的に稼働できるからありがたい。
こちらとして鉱山の開発も並行して進めねばな」
「そうですね、伯爵様。
そして輸出もしっかり進めましょう。
貿易港からの高速道路建築が進めば、物流が短い日数に送れます」
「そちらは軍部に責任者を置いて進めている。
任せておくが良い」
「将来の税収が楽しみですね」
「うむ、どんどん領地を開発して先進国に追いつくぞ」
「承知しました」
伯爵様も嬉しそうである。
既に貿易を主体として物流が加速している。
経済が大きく動き出したのた。
徐々に税収が増えているのであろう。
この場ではその表情に笑みを隠せていない。
「・・・伯爵様。相談が」
「何であるか?内政官殿」
「これから沢山の人員を動かす事になります。
一つだけ解決しておきたい制度があります」
「何だ?」
「農奴の解放です。
居住の自由が無ければ、労働力を集めるのも難しくなります」
「余の独断では判断が付かないな。
農民を使役させるのも領主の特権である。
だが、卿の意見も良く分かる。
大きなプロジェクトを動かすには労働力が必要である。
そしてそれは農民から優先的に確保されるものであるな。
工業化というものは、農民を違う意味で自由に動かせねばならないな」
「いずれですが、開発するにしても
土地に農民を縛り付ける制度では限界があります」
資本主義の世界では農奴を土地に縛り付けておくのは大きな制約となる。
工場に人をかき集めなくては生産できないためだ。
古い農奴制は資本主義の時代によって破壊されるのが
歴史の流れである。
「余の領地は寒くて食料生産にあまり向かぬ。
工業化して農業以外の収入が必要だ。
卿の意見は大変良く分かる。
これからの時代は人を集めて動かす必要がある。
卿が言いたのは労働者の時代であって、農奴の時代ではなくなるのであろう。
心の中で考えておこう」
「ありがとうございます」
いずれ戦争によって、工業化によって
この国も資本主義になるのであろうか?
そうなれば資本家がいずれ力を持って経済を動かすことになる。
神聖ローマ帝国では、マリア・テレジアの時代に農奴制は撤廃された。
その時代では、古い制度は足かせにしかならないのであろうか。