国境線沿いでの戦い 斬り込むロザリーナお嬢様
数は少ないながらも1列目の戦列歩兵が銃撃を行うと、
入れ替わりで2列目が銃撃を開始する。
この状況になると逃げ出すオークも出てきている。
戦列歩兵は逃げた方が総崩れして負けなので、
逃亡者が出ない様に、高い士気を保つのが難しい。
「2列目。撃てー」
ちゃー様が再び攻撃指示を出す。
距離が近づけば当然命中率が上がり半数以上にヒットする。
オークがバタバタと倒れる。
交代ながらも繰り返し射撃が出来るというのは、
オーク側にも相当の勇気がいる。
「よし、3列目交代して撃て。
その後は着剣して槍衾を作れ」
十分に訓練しなければ弾込めに1分くらい掛かるので
50mの距離だと1発が限度である。
100mの距離から打つと最初の2発位は可能であろうが、
命中率は20%以下に下がる。
そして交互に射撃するか、一度に纏めて射撃するか。
グスタフ2世アドルフは火力を上げる為と接近を防ぐ為、
銃兵を3列横隊に並べて一斉射撃することで面の火力を向上させた。
これは更に多数の銃火器が必要となる。
マスケット銃に銃剣をつけると2mの短い槍と同等になる。
密集させれば接近してくる騎兵にすら対抗可能となった。
銃剣はマスケット兵に接近戦で対抗出来る手段となる。
「ワラキアの英雄殿はマスケット銃の特徴を掴んでいるな。
直ぐに近接戦に切り替えてオーク共を食い止めた。
流石は英雄殿である」
「オーク共の力で押し返される前に包囲しましょう」
「よし、妾に続け」
「「はいお嬢様」」
「・・・ちょっと。一応だけど観戦武官さん?」
正面で一旦オーク共を抑えている間に
側面からエリートの剣士が一気に切り込む。
遠距離戦で半数以下まで削られたオーク共が斬り倒される。
驚愕するオーク達。
「あははは、オーク共。
お前らでは妾の相手にもならぬ」
「「お嬢様は素晴らしいです」」
「あっ。ロザリーナお嬢様ズルい。
シルヴィ行くわよ」
「ええ、ティアナ。僕らも負けてはいられません」
「我々も続け!」
ロザリーナお嬢様とメイドさん、執事さんの技量は凄まじく
一刀のもとにオークを斬り捨てる。
遠距離戦を含めて数的形勢はあっという間に逆転してしまった。
漁村リトハイム村の防衛戦では海賊に苦戦したが、
今回は武闘派の力量が段違いに高い。
近接戦闘でも遅れを取らない。
一気に押し返す。
オーク共が更に逃亡しはじめる。
「くそ。撤退だ!」
オークのリーダーが叫ぶと戦線が崩壊する。
追撃のタイミングである。
「よし、騎乗しろ。
サーベルチャージで斬りこめ。
オーク共を逃がすな」
ちゃー様が号令すると貴族を中心に騎乗してきた部隊が
追撃を開始する。
「貴様がオーク共のリーダーだな。
妾が刀のサビにしてくれるわ」
「貴様ら如きに負けるか」
ロザリーナお嬢様はそう言い放つと
斧を振りかざすオークのリーダーの斬り込みを
一瞬で見切り、躱すと共に
電光石火の如くに斬り込んでねじ伏せる。
あまりのスピードにオークのボスは驚愕して倒れ込む。
ほんの一瞬の出来事であった。
「やはりロザリーナお嬢様の剣技は桁違いだな。
いつもの軍事訓練では手加減されていたか」
「他愛もない。
所詮オークじゃの。
全然妾の相手にもならぬ。
こやつはまだ止めを刺していないから拘束して吐かせるがよい」
「お嬢様の素晴らしい剣技です」
「お嬢様の勝利です」
形勢は掃討戦にはいる。
騎兵から逃げ遅れたオーク共がどんどん斬り捨てられる。
大勝利であった。
「見事な勝利であった。
しかしエリオスは少しは活躍せい」
「皆様のご活躍のお陰です。
出番は皆さんに持っていかれてしまいました。
しかしまだまだ沢山課題はあります。
戦争までに、訓練を続けて改善していきたいです」
「うむ。それは妾も思った。
歩兵相手には何とか対抗出来るが
スピードと衝撃力のある騎兵には対抗できん。
敵を多く倒すための2連射を考えるとマスケット兵ももう少し遠めから、
例えば100m位から射撃を開始した方が良いの」
「100mまで離れると命中率が殆ど無くなってしまいます」
「面の射撃数を増やして、騎兵を近づかせない様にしないと
一気に襲撃されてしまうわ。
軍隊相手では通用せぬぞ」
「槍兵相手に特化したカウンターマーチの弱点ですね。
グスタフ2世アドルフはポーランド騎兵との戦いで
それに気付いたのでしょうか」
「またお主は分からぬ事を。
それに伏兵で奇襲を受けたら戦列歩兵自体が成立せぬな。
マスケット兵で伏兵を銃撃出来ない。
後、大砲は今回の様な少数ではあまり役にたたん。
野戦で発揮するには数を沢山揃える必要がある。
しかし旧来の歩兵相手であれば、
銃火器で完全武装した軍隊には歯が立たぬな。
今回妾もそれを理解したぞ」
「一先ずありがとうございました。
本当に助かりました」
「うむ。妾のお陰じゃ。十分感謝するが良いぞ」
ロザリーナお嬢様とエリオス君が感想を言い合う。
まだまだ改良の余地があるので、戦争までに準備は整えたい。
「エリオス様〜。
戦闘は終了しました。
我が軍の損害は僅かです」
「ありがとう。シルヴィ君。
最初に敵を発見したから無事に対抗できた。
感謝するよ」
「ハイ!」
これが戦闘終了の合図代わりになり、ホッとするエリオス君であった。