国境線沿いでの戦い 3ポンド砲の砲撃戦
暇なメンバーを引き連れてモンスター退治に出かける。
今回は訓練を兼ねて魔王国から輸入した3ポンド野戦砲を持っていく。軽砲である。
軽砲は馬4匹で引っ張って牽引する事が可能である。
例えばナポレオン戦争時代の3ポンド砲では射程が
球弾で730mと榴弾で410mだったらしい。
例えばグスタフ2世アドルフが30年戦争で3ポンド軽砲を使用した。
本当にモンスターなのか分からないが。
街道から山道へ進むと、破壊された馬車の破片と死体が転がっている。
何かに襲われたあとである。
「うぁ、酷いな。
何かに襲われた痕跡だな」
「この打痕で破壊された様子は、山賊とは言えない。
やはりモンスターなのだろうか?」
「まだ意識のある人がいる!」
一人が息も絶え絶えに瀕死の状態で横たわっている。
「大丈夫ですか?伯爵軍です」
「オークに襲われた・・・気をつけて」
「・・・亡くなられました」
亡くなられた方の弔いをする。
オークはこちらが例え小規模ながらも軍隊としても、
危険な相手であろう。
一同は警戒して意識が張り詰める。
当然モンスターは近くにまだいるのであろう。
「あそこにオークがいます」
エルフのシルヴィ君が発見した。
流石に視力が段違いである。
「良く見つけてくれた。
助かるよ。シルヴィ君」
先方を見るとオークの集団が集まってきた。
300人位であろうか。かなりの数である。
接近される前に遠距離で発見されたのが運のつきであろう。
「オークか。
それも集団」
「あいつらタフなんだよね。人間を見ると襲ってくる。
知性は低いけど、体格が大きくて筋肉隆々だから、
接近戦は危険だ」
「あいつら、こちらに向かってきます。
オークは指輪物語などではエルフを真似て神々が作ったが
失敗した存在とされている。
その為、エルフの敵と言われる所以である。
「オークなど所詮畜生。
妾の敵ではないわ」
「お嬢様なら楽勝です」
「お嬢様なら一撃です」
ロザリーナお嬢様とメイドさん、執事さんが達人なのは分かるが
今回はスタンドプレーはしないようお願いする。
しかし本人は非常に嬉しそうである。
「今回は遠方から砲撃とマスケット銃で仕掛けます。
ヴェヌート少尉、宜しいですね」
「問題ありません。エリオス卿。
砲撃を行います」
「ありがとうございます。
では攻撃しますので宜しくおねがいします」
「承知しました」
魔王国の砲兵士官のヴェヌート少尉に確認する。
攻撃する準備は出来ている。
「ならば全員下馬して、訓練通り布陣せよ。
大砲を前に出して、射程内に入ったら砲撃する。
次に200m付近でファイアーボールで襲撃。
と同時に大砲でぶどう弾に切り替えて攻撃。
近づいてきたらマスケット銃で交互に射撃だ。
練習通りであれば問題ない」
エリオス君はただちに攻撃準備に入る。
あの数のオークに襲われればひとたまりもない。
幸いオークは動きが遅いので、こちらの射撃が有効に使えるかどうか
テストするには悪くない。
「砲撃戦で削るのか?」
「まずはオークが近づいて来る前に先制します。
アイヴィーリさんには魔法使いの指揮をお願いします。
ニーナさんや双子エルフも一緒にお願いします」
「分かったにゃ」
退屈している筆頭魔法使いのアイヴィーリさんも来ている。
ファイアーボールでの迎撃をお願いする。
「マスケット兵と追撃戦にはちゃー殿に指揮をお願いします。
マスケット兵は3列で交互に進みながら銃撃します。
接近戦は銃剣を構えて槍衾にし、
オーク共が崩れたら一気に追撃します」
「任された。エリオス殿」
一番ベテランの英雄殿に兵の指揮をお願いする。
3段構え+追撃戦である。
「で、妾は?」
「・・・オークのボスを仕留めて下さい」
「妾の出番は最後じゃと?」
「最後の活躍は一番重要なのです。
ボスの首は誰が取っても恨みっこなしで」
「仕方がないの」
しぶしぶ同意するロザリーナお嬢様。
観戦武官ならしっかり観戦だけして下さいと言いたいが
また文句ばかり言ってくるので諦める。
達人の護衛が二人もいるから大丈夫であろう。
「では戦闘を開始します。砲撃」
「撃て」
ドゥーン、ドゥーン。
ヴェヌート少尉の指揮で大砲で先制攻撃をする。
実の所、この時代の大砲は命中率がかなり低い。
敵が横隊で無ければ命中させるのは困難である。
しかしその轟音と破壊力は馬や兵士達の気力を奪う効果がある。
一旦放たれた砲弾は質量兵器として、鎧や盾で防ぐ事は不可能である。
砲撃した弾がオークにヒットする。
流石のオークも大砲の直撃を食らうと耐えられない。
ヴェヌート少尉の腕前は見事である。
「命中。見事です。
ヴェヌート少尉」
「これが魔王軍砲兵の実力です」
「・・・ちゃんと当たるんですな。
そちらの方に驚きました」
「妾も野戦の軽砲など飾りかと思うておったわ」
「酷いです。姫様」
オークも流石に緊張が走り、先頭から必死に近づかんと迫ってくる。
もはや陣形もあったものではない。
「ファイアーボールいくにゃ。攻撃」
「「「ファイアーボール」」」
筆頭魔法使いのアイヴィーリさんの掛け声と共に、
ニーナさんや双子エルフ、エリオス君など魔法使いが
一斉にファイアーボールを放つ。
200m程の距離でオークを各個撃破していく。
直撃すれば燃えて一撃。地面に着弾しても衝撃で吹き飛ばされる。
しかし魔法は連発出来るものではないので、
少数の魔法使いでは殲滅させることは出来ない。
「良し、大砲を下げてマスケット兵で横隊。
交互に射撃する。
構え。撃てー」
ちゃー様の指示の元、50m付近でマスケット銃で射撃する。
流石のオークも銃には耐えられない。
近世のヨーロッパから重装歩兵が無くなったのは
マスケット銃の弾が鎧を突き破る様になったからである。
鎧が防御にならなければ、高価な鎧などただのお重りである。
流石に軽装の海賊や盗賊と違いオークは足が遅いので、
一斉射撃にバタバタと倒れるオーク共。
しかし、数的にまだオークは健在であった。