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エリカお嬢様と砂糖工場の立ち上げ② 砂糖のマーケティング・リサーチ

この前試作した砂糖とシロップのサンプルを用意してもらう。

このままだと厳しいがどういう製品が売れるのか調べないと進まない。

マーケティングリサーチである。


「この前作った試作サンプルを持ってきたわよ」

「ありがとうございます。

 まずは調査しにいきましょう」

「どこへ?」

「お菓子屋さんとパン屋さんなど」

「売れるの?」

「・・・まだ無理かもしれません。

 甘いですけど、雑味が多く独特の風味があります。

 純粋な砂糖と比べると商品には難しいです」


商品と需要と価格が合うかはまだ分からない。

安ければ売れるかもしれないが、まだ高級品で

安価なパンには高すぎる。

そして上級階級向けには不純物が多いので

雑味がお菓子の味を消してしまうだろう。

とりあえずカール・マルレッティ、ロイスター王都店に向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


店員さんと店長さんが出迎えてくれる。

エリカお嬢様は常連なのだ。

贅沢モノめ。


「あら、グリーヴィス公爵家のお嬢様。

 いらっしゃいませ」

「今日は、ビスケットを頂くわ。

 いつも美味しくて嬉しいわ」

「ありがとうございます」


・・・お菓子を買いに来たわけではないぞ。

コレ、そこのお嬢様。


「店長さん。ご相談があるのですが

 これはグリーヴィス公爵家で加工した砂糖とシロップですが・・・」


とエリオス君が説明し始める。

店長さんも苦々しい表情して答える。


「・・・この砂糖とシロップはウチの製品には使えないわね。

 独特の苦味が残っているわ。

 これを使うとウチのいつもの味が出ないの。

 同じ味が出ないとお客様に出せません。

 ごめんなさいね」

「いえ、ありがとうございます。

 ちなみに今お使いになられている砂糖を見せて頂く事は可能でしょうか?」

「・・・。

 お得意様だから特別に。

 本当は秘伝の秘密なんだけど」


やや色が付いてはいるが自分で精製したものより

白い砂糖である。

多分純度が高いのであろう。

結晶化と混ざりものの除去が必要である。

不純物の苦い独特の味を減らす必要がある。 


「試供品を無料でお渡しします。

 調味料としてパンに付けて食べる形だと食べやすくなるかと。

 もし調味料として売れる様であればですが

 かなりお安くしておきます。」

「いくら位ですか?」

「・・・こんな感じでは如何でしょうか?

 市価の数分の1です」

「確かに安いですわね。

 でもウチの商品には使えません

 興味がある人がいるかもしれないので置いてみます」

「ありがとうございます」


結局使ってもらう事は出来なかったが、

サンプル品を試供してもらい

なにかに浸けて貰えればな、という意味で渡しておく。



「・・・確かに今の商品には使えないけど、

 それだけ安ければ今後の新商品なら、味は工夫すれば調整出来るわね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カール・マルレッティでは想定通り断られる。

まだ改良が必要なのだ。

純粋な砂糖の風味に近づける事で使える用途が増えるだろう。

その後は値段で勝負して亜熱帯のサトウキビから置き換えを狙うしかない。

次に近所の行きつけのパン屋さんに向かう。



「こんにちは、おばさん」

「アラ、エリオスちゃん。

 また今日もニーナちゃんの差し入れを買いに来たの?

 それともティアナちゃんの分も?」

「ゴホンゴホン。

 今日は見回りです。

 あ、ついでにいつものパンも頂きます」

「・・・ジー。

 エリオス君。貴方そうやって

 いつもニーナちゃん達を餌付けしていたのね?」

「ただの差し入れですよ。

 皆さんお腹がすくので。

 お茶会とか、勉強会とかで

 誤解の生む発言はご遠慮願います」


これ以上、プライベートを探られたくないので会話を打ち切る。

ジト目で見てくるエリカお嬢様の視線を躱し知らないふりをする。


「所でおばさん。

 ウチで砂糖を加工してみたんだけど、

 パンにどうですか?甘くて美味しいですよ」

「幾らぐらい?」

「・・・こんな感じです?

 市価の数分の1です」

「・・・高級品ね。ウチの店では高すぎて無理だわ。

 庶民の店に出せる値段では無いわ」

「パンにつけて食べると非常に美味しいんですけどね」

「もうちょっとお客さんが裕福で奮発してくれないと難しいわ。

 本当は新しいパンを作りたいけど」

「じゃあ試供品を無料でお渡しします。

 調味料としてパンに付けて食べる形だと食べやすくなるかと。

 もし調味料として売れる様であればですが」

「タダなら頂いておくわ。

 でも定期的には買えないわね」

「もし何か使える用途があればお願いします」


と言ってサンプル品を渡してその場を離れる。

お客様が裕福で無い店は高すぎて単価が上がるので使えないのだ。

お店もお客様もサイフ事情で、売値が決まるので安く作らないと売れない。

世間に中間層が少ないのが残念であるが。

結局はお客様の求める味とコストが両立しないと普及しない。



「・・・砂糖は高いので今の値段のパンには使えないけど、

 新しいパンを作れば女性にも人気が出るかもしれないわね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次はカフェのクイーンズ・ランドに向かう。

紅茶やコーヒーの砂糖として使えないか?

近世の18世紀イギリスでは紅茶ブームで砂糖の用途は主に紅茶であった。

まだパンやお菓子には普及していなかった。

砂糖需要はカフェにあったのである。

でも、基本的には不純物の多い砂糖は味が変わってしまうので

紅茶やコーヒーには合わない。


クイーンズ・ランドに到着する。

早速店内に入る一同。


「いらっしゃいませ。エリオス坊か。

 そちらのお嬢様は?」

「グリーヴィス公爵家のエリカお嬢様とウイリアムさん、

 リリアンヌ教授です」

「では奥の部屋へどうぞ」

「紅茶とコーヒーをお願いします」

「承りました」


と言って中に入る。

クイーンズ・ランドは商業ギルドのカフェでもあり、

裏の会合したりする時にも使われる。

金持ちの集まる場所である。


「エリオス君。

 こんな店にまで来ているの?」

「ここはトーマス殿下や商業ギルドの溜まり場です。

 高いのでめったに来れませんが。

 紅茶とコーヒーで砂糖を試してみましょう。

 多分、不純物の味がキツイので合わないはずだと思いますが」

「実際に自分で飲んで見るという訳ね。

 そう言えばコーヒーや紅茶は前世の日本以来ね。」


自分達で試飲して比較して味を確かめてみる。

本来、砂糖として使われるのはグラニュー糖や角砂糖である。

やはり不純物が多いと味が変わってしまう。

好きな人はいるだろうが、商品としては厳しい。


「かなり味が変わってしまうわね。

 元の風味も無くなってしまう」

「難しいです。

 でも不純物を除けばいけると思います」

「・・・商品化って難しいわね。

 簡単には売れないのね」


エリカお嬢様とリリアンヌ教授がしみじみと言う。

値段と品質とお客様の財布需要が全部一致しないと商売にならないのだ。


「エリオス坊。

 今日はどんな用事だ?」

「グリーヴィス公爵家で自作した砂糖を試しています。

 国産なので安価です」

「白い砂糖じゃないと味が変わってしまうな。

 紅茶に合う砂糖であれば取り扱っても良いが、今のままでは無理だ。

 改良してみてくれ」

「ありがとうございます」


顔なじみの店長さんがやってくる。

商業ギルドの方である。身内に近い。

お客の新顔を偵察しにきたな。

この店だとエリオス君は対話しやすい。

色々と情報交換も気やすに出来る。


「結局、売れそうにないわね」

「エリカお嬢様。最初は課題があるのです。

 売れる品質を売れる値段で買ってくれる財布のあるお客様を見つけないと

 直ぐには商売にはなりません。

 まずは精製技術の改良が先ですね」

「商売って難しいわね。

 モノが作れればちゃんと売れると思っていたわ。

 そして工場で沢山作ればって」

「改良して、品質とコストを改善しお客様の要望にあった製品を作り

 ちゃんと採用されるまでは我慢です。

 品質だけ、コストだけ、が良くても売れません。

 このバランスを満たすのが結構難しいんです。これが」

「そうね。理解したわ。

 これが商品ってやつね」


一同はしみじみと商売の難しさを実感する。

お客様の要望に一つでも少しでも外れると買ってもらえないのだ。

しかし、既存の製品より安ければお互いに工夫するのである。

それも資本主義の一つの形である。

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