Coldpain
【現在】
雲がかり雨が降る夜空の下の狭い路地でチンピラで細身の男が自分の体格より遥かに大きい男を馬乗りし何度も何度も顔面を殴りつけている。そのチンピラの男に正気はなく無我夢中になっていた。息を荒くし、飛び交う血を浴びている。
「うぐぁっ!うっ!!ぁああっ!!」
全ての音に打点が付けたかのような声、黒いライダースーツにまで血が染み付き茶色く濁っている。殴られ続ける大柄な男の意思は特区に遠のいていてピクリとも身体に反応がなかった。その事にやっと気がついた男は、急に我に返り少し慌てた様子でさっきまで殴っていた男の頬を叩き意識を確認する。
「おぃ、冗談だろ....。」
男は咄嗟にある事を悟った。幾ら細く狭い路地だからと言い人が通らないとは限らない。どうすれば良いのか分からず一先ず自分より何倍も大きい男を背負い渾身の力を込めて背負った。しかし、全体重が掛かり前に歩行するのもままならず苦痛であった。
「くそがっ、くそがっ!ふざけてんじゃねぇよ」
狭い路地を抜けてすぐ側に車を止めていたことが不幸中の幸いであり救いであった。チンピラの男はすぐに荷室の扉を開き殴り殺した大柄な男を隠した。そして、一息置き震えた手で煙草を取り出しライターで火をつけると一服し何かを思い出したのかスマホを取り出しある人物に電話をしようとした。だが、呼出音が鳴ることはなく【お掛けになった電話番号は、、、】と解約アナウンスに繋がれ、その男は苛立ちを車にぶつけると、大きく深呼吸をし少し心を落ち着かせながらとある場所へ車を走らせた。
都会から少し外れた田舎の少し浮いたお洒落なアパレル店で小柄な美青年と少しはだけた女性が閉店後の店内の崩れた服を整頓し、店の売上などを計算していた。
「うげっ!もうこんな時間、店閉店して片付けしてたら勤務時間過ぎてるよ!ルイくん今日はもうあがりな!」
「いや、流石にユリさんを置いて一人では帰れないですよ。」
「でも、ルイくんは新入社員だし」
「僕はバイトじゃないんですから、残業ぐらいさせてもらいますよ〜。」
「そう?ならお言葉に甘えよっかな」
女性が夜一人になる事も少なくはないこの店で夜が怖い気弱な女性なんていないが、小柄でか細い男でも【男】という存在だけで店内の治安は良くなる。田舎の商店街で警備が甘いと言うイメージを持たれ都会から態々やって来る強盗なんて少なくない。
「それでですね!」
がんっがんっがんっがんっがんっ!
急にシャッターを無作為に強く叩かれた。
「なに?」
「ユリさんはここにいてください」
「いや、危ないよ」
「大丈夫ですよ、こんな目立った行動をする強盗なんていないですから」
ルイは怯えること無く裏口から店の外に出て大回りし商店街の中に入り店のシャッターの前までやってきた。底には如何にも厳つい極道の三下のような男が狂ったようにシャッターを叩いていた。
「何か、、、ようですか?」
「あ?やっぱここで働いてたんだな。犬、名前なんだったけなぁ〜、あぁぁ、ポチか」
にたァァと見下すように顎を上げて笑っている。ライダースーツのポケットに手を突っ込みポーズまで決めていた。
「もしかして、、レオ?」
「あぁ、」
正直動揺を隠せないでいるルイ、彼の姿を見るだけで手足が震え、目が泳いだ。
「何か、、よう?」
「お前に頼みがあるんだよ」
「変な事は嫌だよ、、。」
「ちょっとある事を手伝って欲しいだけさ、お前に拒否権が無いことぐらい覚えてるよな?ご主人様の命令だ。ポチ」
ルイの自由な一時は、この出会いからまた崩れ始めた。【レオ】と言う同級生との再会をしてしまったが為に、、。
【高校時代】
これは、僕が高校一年生の時の話である。入学早々、クラスに馴染めていなかった僕に初めて声をかけてくれたのがこの彼【レオ】であった。見た目はやんちゃで制服は気崩しピアスにネックレス、どう見てもヤンキーって事はすぐに分かった。けど、特に仲間を連れている訳でもなく彼もクラスに馴染めてない事は薄々感じ取り、取り敢えず同じボッチの僕に声をかけたのだと咄嗟に状況を把握した。別に悪い気はしないし寧ろ彼と仲良くなれたらラッキーだなと思った。
「俺、レオ。お前は?」
「ルイ、、。」
「ふ〜ん。昼休みだし屋上行かね?」
「空いてないよ?」
「黙ってついてこいよ」
「え、あ、うん。」
少し怖いなと思ったがろくにペースを合わせて歩こうとしない彼の自己中的な一面に翻弄されいつの間にか恐怖は消えていた。そして、屋上の扉の前にまで辿り着くと彼は少し前かがみになってピッキングであっという間に扉を開けてしまい誰も来る事のない二人だけの空間へ足を踏み入れた。
「ちょっと来いよ」
「なに?」
言われるがままに少しだけ彼の元に寄った。
「もっと寄れよ」
「う、うん。」
二三歩だけ前に寄ろうとすると手を捕まれ強引に引き寄せられた。そして首の後ろに手を回され僕に何かしている。と感じた。
「やるよ」
「え、、。」
首には十字架のネックレス、彼が首につけていたネックレスの内の一つであった。そして、この時に初めて彼に耳元であの言葉を囁かれる。
「今日からお前は俺の犬だ」と、、。
この時は深い意味なんて考えもしなかった。「返事は?」と問いかけられた時、僕はその場の雰囲気に流され「うん」と答えてしまっていた。
「返事は、うんじゃないだろ?」
「....わん?」
レオは不気味に微笑んだあと笑った。
「いい子だ。ポチ」
そして、彼と二年間の長い時間を共に過ごす事となった。時々、理不尽な要求をしてくる事がありこの時から良いように使われてるなと感じていたが、ボッチになるよりかはマシだと割り切り彼の傍から離れる事はなかった。だが、高三の冬の事である。
「なに?ルイ、彼女いたんだ」
「うん、。中学の時からずっと付き合ってる。まぁ、幼馴染なんだけどね」
「そっかぁ〜今度、俺に紹介しろよ。」
「え、、、あ、うん!」
分かっていたけど、彼に紹介したのは間違いだった。彼に僕の彼女を寝取られ、彼女との縁は破綻。あっという間に崩壊した。
もちろん、その事を知ったその日の放課後、僕は屋上で彼に訴えかけた。だが、彼は聞く耳を持たず全ての事を言い終える前に胸ぐらを片手で捕まれ力任せに壁に押し付けられると首を締め付けられ猛獣が唸るような声で恫喝を浴びる。
「ポチが息がるんじゃねぇ、お前は俺のペットだろが主人に口答えすんな。殺すぞ」
僕は目に涙を浮かべながら恐怖を感じ何も言い返せなかった。これを気に彼は僕を奴隷のように扱いだし、少しでも命令に逆らえば暴力を振るわれいつの日か彼との友情を感じる事は無くなった。
そして、消えることの無い傷を僕は卒業の日に負うことになる。あの日から彼と屋上にやって来ることは無かったのだが、卒業の日ぐらい彼と高校生活で唯一できた、、友人?主人?と過ごす最後の一時ぐらい【思い出】を作りたいと僕も思っていた。だけどそれは、、違う形で記憶に残る事になったのだ。
「ルイ、セーター脱いで」
「え?」
「え?じゃねーだろ」
「....うん。」
まだ、何をする気なのか分からなかった。そして、彼は音を立てずに僕の背後に回って、カッターシャツのボタンを上から4番目まで外し僕の左肩を露出させた。
「何、考えてるの?」
何を考えているのか理解が出来ず自然と鼓動が高まった。ドクドクドク、ドクドクドク、ドクドクドク..と。
「お前、綺麗な肩してんのなぁ。白くてゴツゴツしてなくて女みてぇだなぁ。」
そう言い終えると「ふっ」と鼻で笑った。それを聞いた途端【ゾクッ!】全身に寒気が走り野性的な感が働いた。【ヤバぃ!】だけど、身体が硬直してもう動けなかった。そして、左肩に何かに強く噛みつかれそのまま肉が裂けるような痛みが走る。
「ァァァァァアアアアアアア!!!!!!」
声が裏返りそうになった。レオが僕の左肩を焼いて虎の牙のマークを入れた刺青ではないが残らない傷を最後の最後に置き土産として残したのだ。
「お前は俺の犬、、ポチだ。その傷が印....いいな?」
「......ぅぅ」
この時はもう、返事もできないぐらいに僕の心までもが焼かれていた。
【現在】
「ねぇ、頼みって何?先輩に一緒に残業するって言った途端に秒で断ったんだよ!」
あの日から五年も経った今、あの時に強い主従関係があったと言い僕達はもう大人である。少し強くモノを言っても、、そう思い言葉を発し終えた途端横から突然強い衝撃を感じた。ドゴッと言う鈍い音、鉄の味がする。口が切れて、血が、、でた??
殴られた??
「キャンキャンうっせぇな!少しは言葉遣いに気をつけろ犬がっ」
「は、、はぃ。」
何も変わっていない。時は過ぎても僕達の主従関係は今も続いている。僕は彼と口を聞かず黙って地下まで連れられてきた。寒さで痛覚が麻痺り切れた口の傷の痛みはもう引いている。
「どうしたの?」
「これを見ろ」
車の荷室の扉が開くと、そこには男の死体が詰められていた。つい、目を見開くもあまり驚きはしなかった。彼ならやりかねないと心のどこかで思っていたからである。「これどうやって殺したの?」
「殴ってたら勝手に死んだ」
死体があると言うことより僕は彼が殴り殺した事の驚きの方が大きかった。こんなデカい男を殴り殺す。その事に対する驚きの方が、、。
「で、僕に頼みって」
「この死体の処理を考えろ」
「......ここほれわんわん」
「行くぞ、俺が捕まったら全部お前のせいだからな」
「.......ぅん。」
言われるがままに助手席に座らされ、レオは運転を始め地下の駐車場から外へと黒い車を走らせた。
「ねぇ、ひとつ聞いていい?」
「あ?」
「どうして、僕があの服屋で働いてるって知ってたの?」
「あ??そんなのどうでもいーだろ」
「どうでもいいけど、、」
僕はあの日以来、レオの鎖から逃れる為に親には一人暮らしを始めるといい、田舎の安い賃貸を借りて地元から離れた。スマホも機種変をしレオとの連絡網は途絶えさせた筈なのに、、どうして?
「っていうか、お前ちゃんと死体処理出来んだろな?」
「取り敢えず埋めたらいいでしょ?」
「お前、マジでそれしか考えてねーのか?」
「先ず、この人誰なの?」
「うっせぇ、もう言い黙ってろ」
レオは突然機嫌を損ねて豪速球で車を走らせた。高速道路を走り県を何個もまたいで行く。そして、目的地に着いた頃にはとっくに深夜帯でここから死体を埋めるとなると地元に帰る頃にはまた夜となりそうだ。
「仕事、、どうしよ。家族が死んだ事でもしようかな....。」
なんて思い詰めながら山奥で深く深く一人で土を掘った。ろくにレオは手伝おうともしない。口答えをしたら力で黙らされる。なら、何も言わないで黙々と作業を進めた方が結論的に早くやるべき事は終えれると思った。警察に言えば、全てがあっという間に解決できる、、そうだけど、何故か彼が警察に突き出す、、その事を心のどこかで嫌がっている自分がいた。
「まだ終わんねーのかよ、早く掘れよ」
「やってるよ、、でも、僕の体力じゃこれが限界」
「お前しか頼める奴いねーんだよ!さっさと掘りやがれ!」
「これでも精一杯なんだって、、」
話す時も手は止めない。一度手を止めたらきっと目眩に襲われて立てなくなる。その必至さが人任せで自己中的なレオにも伝わったのかシャベルを手に取って僕と共に穴を掘り始めた。
「お前のせいだからな、汚れんのも人が死んだのも」
「......はぃ」
ため息を吐きたかったが、やっとやる気になった彼の気を削ぐのはナンセンスだ。僕はぐっと堪え穴を掘り続けた。人手が増えたことで日が昇るまでには男の死体を埋まるぐらいの穴を掘ることが出来た。やっとここまで来たと思った矢先にレオはせっせと掘るのを辞めて車の中へとこもった。
「後はお前が全部やれ」
「待ってよ、あの男は流石に僕の腕力じゃ運べないって」
「うっせぇぇっな!やれって言ってんだろが!!」
ピリピリしている。人が怒るのは困っていて何かに怯えているから、きっと彼は人を殺してしまった事を後悔し警察にバレることに怯えているんだ。彼は、人を威圧し支配することで臆病な一面を隠している。だけど、今回ばかりは威圧だけではどうしようもない。彼もその事に気づいているから怒ることしか出来ないでいる。僕はそっと、車の扉を開いた。彼は団子のように丸まって身体を震えさせていた。その彼を落ち着かせ動かす為に僕は優しく右肩に触れてこう声をかけた。
「レオ、、お願い。僕がちゃんと最後まで君を守るから、、今は僕を助けて」
と、、。
すると、レオは驚いたような顔で僕の顔を見つめた。「どうして」と言いたげな顔である。ふと、僕の胸を押してレオはゆっくり車から外へ出ようとした、その時、何かが唇に触れた。
「んっっ、」
僕は一瞬、頭の中が真っ白になったがこれがレオの唇だと気づくのにそう時間は掛からなかった。濃厚なキス、僕は必死に抵抗するも段々と力が抜けていく気がした。ふと、僕は気を取り戻すと今世紀最大の力を振り絞り彼の濃厚なキスからの何とか逃れる。
「な、なに?今の?」
「....はぁ、、お前本当に犬だな」
レオはせっせと荷室の扉に向かって歩きだし扉を開くと、大柄な男の死体の腕を取り死体を出した、その時の死体が落ちる勢いに引っ張られレオの身体はぐんと前屈みになる。この死体を殺害した現場から車のある所まで運ぶのにどれだけ時間が掛かったのだろうか?僕は何故かそれが気になった。
「お前も引きずんの手伝えよ」
「あ、うん。」
レオの助けがあれば穴まで男を引きずるのは割と簡単であった。同じ男なのにここまで腕力の違いがある事に少し僕は驚きを感じていた。途中、彼が上着を脱いだ。中の服はタンクトップだ、細い身体付きをしているのにぎっしりと鍛えられた腕、筋がクッキリと分かりゴツゴツとした腕....少し見惚れていた自分がいた事に少し僕は焦った。結局、レオの心を動かせたのも死体を穴に運ぶまでで埋める作業は僕一人でした。これから、どうしようか?この死体が見つかりレオが捕まれば僕が共犯者って事もあっさりとバレてしまうだろう。怯えているのはレオだけじゃない。僕も少し不安を募らせていた。
太陽が顔を出した頃には、僕はレオが殴り殺した大柄な男の死体を埋め終えていて死体を埋めた山からも割と離れたところにいた。レオが途中、僕が砂で汚れた服をずっと着させているのはマズいと感じたのか古着屋で僕の替えの服を買ってきてくれた。服のチョイスも悪くは無い。心に余裕が出来たのか少し機嫌が良くも見えた。そのついでに隣に蕎麦屋があったので底で空いた腹も満腹にした。彼の機嫌がいい時と悪い時は天と地の差があり、メンタルが弱っている時は普段のドSな性格が欠片も無く弱音を平然と吐く、そういう一面を知っているからこそ何故か僕は彼を放って置けないのかもしれないと思った。
日が暮れると、彼は突然弱音を吐き出した。
「どうしよ..、やべぇぇ、殺される」
と何度も呪文を唱えるように繰り返し始め、車の運転を辞めた。息を荒くし頭を抱えている。
「何?殺されないよ?」
「死ぬ、絶対に殺される」
そういや、昨日から一睡もしていない事に気づいた。だが、一日オールしたぐらいで頭がおかしくなるとは思えない。僕は一先ず落ち着かせようとした。
「何、大丈夫だって、僕以外誰もいないよ?」
「藤堂さんに殺される....絶対殺される....。」
「(藤堂さん....?)大丈夫いないから、大丈夫だから」
「うっせぇぇぇよっ!喋んナッ黙ってろ!殺すぞッ」
え、、、、なに、、、と一瞬僕は固まり
「情緒不安定かよ......。」
と、つい思った事を声にしてしまい。彼の逆鱗に触れたのか虎のような目で僕を睨んだ。「あ??」と低い声で威嚇し僕の胸ぐらを掴み顔を寄せてきた。本当に情緒不安定だ、、さっきまで情けなく弱音を吐いていた癖に今は、怒りに支配されている。
「お前、さっきなんて言った?」
僕は、唾を飲みグッと顔を逸らして黙った。蛇に体を縛られ抵抗する体力も無くなったマウスのような状態だ。もう、彼に捕食されるのを僕は待つしかない。そう思っていたが彼がこれ以上僕に何をすることも無く、スーッと僕から離れていき車の運転を再開した。藤堂って人は誰なのか気になったが、今その話を降るのは彼のどちらかのスイッチを入れてしまうと思い聞かない事にした。
「今日は俺ん家泊まってけ、お前ん家まで送んのだるぃ」
「え?」
「あ?なんか文句あんのか?」
「ううん。ないんだけど、」
ふと思い出したが、今日は仕事を無断欠勤してしまっている。一先ず、ユリさんだけには本当の事を話しておこう。僕は、レオの自宅に着くまでの間、ユリさんに「死体を埋めていた」以外の事を全て正直に話した。そして仕事場の人たちには【ノロウイルスに感染した】という事にして頂くように頼み少し休暇を頂くことにした。本当はこの様な理由で仕事を欠勤したくないのだが、、致し方がない。休まないと僕の体力というより精神が持たない。そんな気がした。
レオの家の外見は、木造アパートの一階でお世辞でも綺麗とは言えず、ルイも初見で家の外形を見た時の目は死んでいた。その、ルイの反応に不満を感じたのかレオも冷たく無口なルイに声をかけた。
「なんか文句あんのか?狭くて悪かったな」
「まだ何も言ってないよ。」
「反応見りゃわかる。」
しかし想像以上に家の中は片付いていて掃除はこまめにしているようで清潔である。1DKで部屋とキッチンの間には区切りがあり一人で暮らすには十分で部屋にはシングルベッドもあり割と快適な家ではあった。そして、ルイはレオの家でシャワーを浴び軽くカップヌードルを食すとそのままレオと共にシングルベッドで背を合わせ眠った。
朝、目覚めるとルイの横にレオの姿はなかった。ルイは、目を擦りながら身体を起こし家の中を探索するもレオの姿はなくテーブルの上に置かれた置手紙に気づきルイはそれを手に取った。
【俺が帰るまで家で待ってろ】
と一文だけ書かれていた。どうもこうもレオの足がなければ電車でしか家に帰る手段は無く、ルイは大人しくレオの帰宅を待とうかと思ったがふと頭に昨日のレオの怯えているビジョンが流れた。
「そういや、藤堂って聞いた事があるような」
あの時は、少々だがパニック状態だった事もあったのか彼は【藤堂】というワードにピンっと来なかったが何処かで聞き覚えがある名前でルイはスマホを手に取りその名前をグックルで検索すると予測ワードに【藤堂組 ヤクザ】と言うのがヒットした。
「まさかなぁ〜ってそのまさか??」
ルイは嫌な予感しかせず、レオの身が危ないと突然勘が働いた。ルイはレオの家の中を駆け回るとタンスを漁り勝手にレオの服を手に取って着替える。自分より十センチも背の高い人の服はブカブカで萌え袖状態になってしまったが仕方が無いとそこは割り切った。ジーパンもサイズがデカかったがレオは身体が引き締まっている為ウエストは狭くベルトをすれば何とか履く事が出来た。しかし、裾を踏み躓いてしまう事が只あり少しレオに軽い仕返しだと、長い部分の裾を切った。
「ふふん、割とおしゃれに切れた切れた。あと、これも付けとかないと〜念の為に」
少し気分が良くなったルイは、冷蔵庫を勝手に開けて除き消費期限が今日までの梅干しおにぎりを手に取って朝食を取った。その時に冷蔵庫に【藤堂組】と書かれその下に数字が十一個並んでいる紙を貼ってあることに彼は気づき咄嗟にそれが藤堂組の電話番号だと気づいた。その電話番号一つでアジトの場所も突き止められてしまうのだからネットの力は凄いものだ。
ヤクザグループの本拠点という事もあり人気がない所にドドんと建っているのかと思えばごく普通に店が多く並ぶ商店街のすぐ横の路地にある小さなビルの中に拠点はあるもので少し想像と違ったのかルイは少し本当にここで合ってるのか?と疑いながら中に入る。見張りは居らず、扉の前まではすんなりと忍び込むことができた。ルイはそのまま中の様子を伺おうと扉に耳をあて澄ました。ドドンっドドンッと中が慌ただしい、そして男の太いクマのような咆哮も聞こえてくる。(誰かと誰かが取っ組み合っている?)勘づいたルイは、咄嗟に無防備にも中へと特攻した。細い通路の先には見張りの男が一人、その男と目と目が合うとルイは勢いよくスライディングで股の間を抜けた。そして、横を振り向き立ち上がるとレオが殴り殺した男と同等ぐらいの大柄な男二人がレオをリンチしている光景がそこにはあった。
「レオ!!!」
レオはまだ立っているが抵抗をする気配はない。特区に立っているのがやっとで周りの音、状況など何も入っていない。彼の目には世界がグルグルと渦をまくように回って見えているのである。大柄な男一人に背後から両腕を拘束されるともう一人の男に只管に顔面を左右に一度ずつ殴られると、今度は細かく連続で腹部を殴られ、最後の一撃だけ強く下から上へ突き上げるように殴る。レオの脚の力は抜け後ろの男に支えられなければもう膝を、いや、膝すら付けずうつ伏せに倒れている筈だ。だが、そんな彼に追い打ちをかけるかのようにレオを背後から掴んでいたその男がジャーマンスープレックスを決めた。レオは首から強い衝撃を受けほぼ意識は途絶えた。
「レ、レオ?」
顔面の鼻から下は赤く血で染っていて、身体がぴくぴくと痙攣しており、時々咳き込む度に釣り上げられた魚のように身体が小さく跳ねた。ルイはかなりの衝撃を受け、どこか寂しさや失望感、そして怒りの感情が芽生えた。
(こんな感情初めて....。)
今まで犬のように奴隷に扱われていたルイにとって【レオ】という人間は絶対的な存在で人を支配する側の人間であった。レオの前では誰もが膝をつき従う。そんな神のような存在だったのだ。なのに、そんな彼が人の手によって傷つけられ狩猟された獣のような状態、神から獣までに墜落しているのだ。
(こんな事、あっていいの?)
大柄な男を殴り倒す程の力を持っているのにたった一人増えただけで相手に傷一つ負わせないで負ける?そんなはずが無い、彼は無抵抗で何もしなかった。きっと、抵抗したくても出来なかったのだ。ルイはその原因にもう気づいていた。レオが傷つくのを部屋の中央の奥で態度デカく椅子に座り傍観し楽しんでいた人間【藤堂】という組長の存在に、、。組長が男二人にレオを暴行するように命令を下したのであろう。
(あの男がレオを支配してる??彼より上の立場の人間なんていてはいけない....消さないと、絶対に殺してやる。レオを傷つけた男も組長も....。)
「ところで君は誰だ?」
「レオの....犬だ」
見張りの男がルイを捕まえようとすると、ルイはスっと崩れるように膝を着いた、そしてズボンの内側から小型のナイフを右手で取り見張りの男の両足首を斬り裂いた。その光景を目にした組長の親爺は「ほほぉ」と目付きを変えてルイを見た。だが、その事にルイは気づいておらずレオにトドメをさせた男の方へと飛びかかる。咄嗟に男は左腕でガードするもルイにフェイントをかけられただけであり背後に回られ首にナイフを当てられた、男は汗を垂らし息を呑む。そして、首を切られるのかと思いきや不意にルイはその男から離れると右耳を切り落とした。
【グァァァァアアアアアアアッッ!!!】
と男の叫び声が部屋中に響き渡ると秒でスっと消えた。気絶したのである。だが、ルイは耳を切り落とした事に抵抗なんてなかった。怒りに呑まれた操り人形の状態である彼に罪悪感なんてモノはない、、。
「おい小僧、あまり調子に乗るな」
ルイは次なるターゲットに刃を向けると、組長の男が暗いトーンで言葉を発し銃口を向けた。すると、ルイはその場でじーっと銃口を見つめる。
「ル、ルイ....」
「レオ!?」
ルイは、我に戻りレオの側に近寄った。藤堂と銃を下ろし狂ったように大笑いする。
「レオも生意気にぶっ飛んだ舎弟を持ったもんだ。いい、良いぞ、、それでいい。ガッハッハッ」
「な、なら!どうして!レオを!」
「黙れ小僧、殺すぞ。」
ルイは言葉の弾丸に胸を打たれる。
【殺すぞ】
レオの機嫌が悪くなった時によく放つ言葉だ。
「此奴は取引相手を殺しやがったんだ?、これぐらいの仕打ちを受けて当然だろ?寧ろ、警察に捕まらないように俺の仕事を増やしやがった挙句に【九堂組】との関係も切ったということを意味する。寧ろ命あるだけ感謝して欲しいぐらいだ。これを聞いて、猫の舎弟、反論意見があれば言いたまえよ」
「......っ」
ルイは何も言い返せない。ここで言い返せばレオの身をもっと危険に晒す事になる。ナイフの歯を握りしめ、痛みで悔しさを押さえ込んだ。目には涙が今でも零れそうになる。
「オヤジさん、どうしやす?この小僧とレオ」
「レオは例の病院へ連れてってやれ、気を失っているしな、、そしてこのガキは、..」
ルイは覚悟をもう決めていた。
「見た目の貧弱さに反したその肝に命じて今回だけは大目に見てやろう。だが、しかし、わしの可愛い息子の耳のお駄賃分は働いてもらおうか」
ルイは唾を飲み込んで一呼吸置いた。
組長の男【藤堂】は緊張気味なルイを見て笑っている。さっきまでの肝っ玉な一面が欠片もなくおかしな奴だと思ったのだろう。
「仕事と言っても簡単な事ばかりだ。今はお前にさせるようなモノは無いが、その時が来れば連絡する。おい、息子」
「はいっ」
「彼にペンと紙をやりなさい」
ルイは、渡された紙にスマートフォンの連絡先を書き残すと出口まで幹部の男に連れ出された。
「貴様、俺を刺そうとしたな?」
「......いえ、そんなことは」
「怒りに動かされた腰抜けめっ」
出口から外へと強く押し出され、バランスを崩し地に手をついた。ルイは忌々しい表情でその男の背を見つめると、ふと何か思い出したのかその男を呼び止めた。
「ア?」
「あの、レオの病院....どこですか?」
その男が答えくれる筈がないと思ったが、そこまで器の小さな奴では無いようで名前だけを言うとスグに去っていった。ルイは、忘れないようにスマホのメモ帳に書き残す迄の間、何度も同じ事を口ずさんだ。
「少しだけ....遠い」
今日は疲れた。
ルイは、この日は勝手にレオの家に夜を過ごした。ベッドにはレオの匂いが染み付いていて少し心が落ち着くと同時に寂しさを感じた。いつの間にか彼はずっとレオの事ばっかり考えている。
「......なんでかなぁ、あんなやつ」
その事に薄々気づき始めていたルイは、心がぎゅっと強く締め付けられていた。
翌日、徒歩でレオの入院している病院に向かうには遠かった為、近くの八百屋で林檎にオレンジを入手するとバスで直接病院前まで向かった。どれくらい時間が掛かったであろうか?ルイはそんな事、気にしていないが凡そ三十分ほどである。割と大きな病院であるが、あの状態のレオをそのままここへ連れてきたのであろうか?少しルイは疑問を感じていた。
レオの病室は610号室、6階まで流石に階段で登るのはしんどいと思ったのか彼は空いている隙を見逃さずエレベーターを使った。病院のエレベーターは、車椅子優先のイメージが強くまだ若いルイは使用する事に抵抗を感じるらしい。その時に一緒に乗っていたナースが「ふふっ」と笑った。彼女曰く、普通に一般の方も使用しているらしい。よく良く考えればそうだ、何十階までもある大病院で態々階段を使う人なんていない。それに気づくとルイは少し顔を赤らめて恥ずかしそうな仕草を取った。
6階に着くまでの間に看護師さんはエレベーターを降りていた。エレベーターを彼は降りると受付の方にお見舞いに来た事とその人との関係、自身の名前を記入するとすんなりとなんの問題もなく通してくれたようだ。
「610号室、個室....?」
態々、お金の掛かる個室を、、これって、レオの自腹かなぁ〜とも考え込んでいると、どこかで見た事があるようなシルエットの女性が女子トイレに入っていった。
ルイは、じーーっと固まっていると変な目で看護師の方に見られた為、咳払いをして喉の調子を整えると610号室の中へと彼は入っていった。
「やほ....っ?」
「ぉう。」
少し緊張気味なルイに対し塩気なレオ、最初にだけ一瞬目を合わせたがそれ以降はずーーっとレオは外の景色を眺めていた。ルイは、少し気まづい空気に耐えれられず何かしていないと落ち着かなかったのか、袋から林檎を取り出して慌ただしそうに果物ナイフで皮をむこうとした。しかし、普段ナイフを使わないルイが器用にこなせる筈もなく「あ、あれ?」と苦笑いをしながら言い訳をあーだのこーだの言っていた。いつか、手を怪我しそうなルイを見ていられなかった、レオが「貸せ」と包帯を軽く巻かれた手を差し出す。ルイは「いいよ」と拒否するも、前のように「主人に逆らうのか?」と声を低くし言われ彼は黙って点々と皮が少し向けた林檎と果物ナイフを差し出した。
「林檎の皮もむけね〜のかよ」
「レオは剥けるの?」
「は?舐めてんのか?殺すぞ」
ルイは、いつもより「殺すぞ」に敏感に反応した。発音が【藤堂】に似ている。やっぱり、あの人に影響されてる....と。
「ほら、剥けたぞ。食えよ」
「いや、これレオの為に買ってきたというか」
「なら、なんで俺が剥いてんだよ」
「....あぁ、まぁ、そうですね。はい、。」
レオが「ふっ」と笑った。笑うと少し腹が痛むようで、左手で痛む部分を押さえていたら。だけど、何かツボったのか「痛てぇ、あぁ痛てぇ」と言いながらもずっと笑っている。すると、ふと、レオがルイにあることを聞いた。
「なんで俺を助けた?」 と、。
ルイは何も答えないで黙り込んだ。
「まぁ、どうでもいいけどな。俺の犬にしちゃお利口だった。」
「....レオ、、。」
褒められると涙が出そうになる。なんでかな、、こんな奴に褒められても何も嬉しくない筈なのに、、やっぱり、、
「す、」(好きだから?)
思わず声に出そうになったがルイはグッと呑み込んだ。
「どした?」
「それじゃ、僕もう帰ろうかな」
「待て、お前、どうせ帰っても何もすることないだろ。なら、」
「....ないけど」
どうして、レオはどうして寂しそうな顔をするのだろうか?
どうして、ルイは俺の為に自ら危険な場へ飛び込めたのだろうか?
気になった。
レオは、本当は臆病で弱い人?
ルイは、力は無くても心は強い奴だ、俺と正反対で笑えるよ。そんな彼奴に最初は腹が立っていた。
ルイは、俺の事を嫌ってるのだろうか?
いや、嫌ってないとおかしいよな。
でも、レオは臆病でもそれを感じさせない気を持っている。それに力があるから怖いけど一緒にいて落ち着ける部分は少なくともあった。僕の中では、絶対的な人、、なんだけど、。
ルイ、本当のお前と一度話してみたい。
レオ、本当の気持ち、話してみたいよ。
「......ッ」
同時に口が開き、「あ、」 と間を開けると、それと同時に病室の扉が開き女の人が入ってきた。
「ユリ....さん?」
「ルイ....くん?」
そこに現れたのはルイの職場の先輩であるユリ、秋の紅葉と絵になりそうな服装であった。
「え?レオと知り合いだったの?」
「同級生で、、」
「もしかして、偶にレオの話から聞く同級生の子って」
ユリはレオと目を合わせた。ユリはあ〜っとなにか言おうとするとレオの鋭い一言に止められユリは黙り込む。
「ユリさんと、レオはどういう関係?恋人、、とか?」
「そう!レオは私の彼氏なのっ偶にルイくんの事も話してたんだよっ、やればできる子なんだよ〜って、今思うとレオから聞くその同級生の子がルイくんだったとしたら、本当にその通りだな〜って感じだわ、うんうん。」
ルイは、口を窄めふんふんと頷きレオの顔色を伺った。結局、口を滑らすユリにどうやら呆れている様子だ。ルイは、レオが自分の事を良いように話していたとすると、余計に何を言っていたのか少し気になって仕方がなかった。
「じゃあ、ユリさんもいるしレオ帰るね?」
「あぁ、」
「別に気を使わなくてもいいのに〜」
「あ、ユリさん。本当に仕事サボってすみません。」
「ううん、急用にレオが関わってたなら何も責めれないよ。レオがごめんね」
「いえいえ、僕はレオの、まぁ、使いなので」
「ん?」
ユリは、ふと首を傾げたがルイは気にすること無く立ち去ると、その日の夜にユリにスマホのSNSでメッセージを送る。
【レオが僕の事、話してたんですよね。ちょっと聞いてもいいですか?】と、。
少しでもルイは、レオが自分に対してどう言う存在なのか気になっていた。どうやら、ルイに対する悪い印象の話は聞かされた事がないようだ。レオがルイの働いている場所を知っていたのは恐らくユリから伝わったのであろう。
陽は繰り返し何度も昇る。
レオが入院して数日が経った。ルイはあの日から一度自分の家へと電車に乗って帰り仕事にも復帰をしていた。職場には迷惑を掛けた為、軽い差し入れなどを持っていきちゃんと常識は保っている。生憎、店長の機嫌も損ねていなかったようで浮いて冷たい視線を浴びることも無かったようだ。
明日は、仕事も休みで時間にはまだ余裕がある。レオもまだ入院が続いておりあれ以来彼からSNSでの連絡も取っていない。
「見舞いにでも行こうかな..。」
そう思っていたのだが、翌日の朝、ルイのスマホに着信履歴が一件ある事に気がついた。【藤堂】からである。ルイは、自身のスマートフォンと睨み合い息を呑むと折り返し電話をかけた。想像の通り、仕事の依頼だ。本来はどうやら【レオ】にさせるつもりの仕事だったがレオはまだ入院中という事もありレオの三下であるルイに託すことにしたそうだ。
「三下って何ですか」
「犬って事だよ、ガッハッハッ」
藤堂はよく笑う男だ。
一先ず、ルイは朝の支度をすると電車で藤堂組の拠点へ向かった。依頼の内容は直接、その場で説明するそうだ。ヤクザの仕事なんてろくなもんじゃ無いはずだ。人だって死ぬ事もある。例にレオが殴り殺したあの大柄な男はヤクザ関係の人間だ。そんな事をあちらこちら考えている内にルイは気が重くなった。電車から降りると重い足を運び目的地へたどり着く。
「待っていたよ」
(待たなくていいです)
なんて、言いたげなルイであったがぐっと堪えた。その場で大雑把に仕事の内容を聞かされた。
「言うに役の運び屋ってことですか」
「その通りだ。」
JKのコスプレをした若い女が地下鉄のコインロッカーにヤクの入った紙袋を入れたらそれを持って指定された位置に運ぶだけ。簡単といえば簡単だがこれは犯罪に触れる事になる。これからの将来の事を考えると受け入れたくなかった、、だが、しかし、ルイは前に藤堂組の幹部の男の耳を記憶はないとはいえ切り落としている。これも傷害罪、犯罪だ。藤堂の圧によりルイの罪もレオの罪も揉み消されているが、それは同時に藤堂に弱みを握られている事を意味していた。
「拒否権はないことぐらい分かってるよね....?」
「....はい。」
「レオの犬しちゃお利口さんな方じゃないか。わんわん」
「......」
ルイは、少し精神的苦痛を味わいながらも取引先の女が現れる推定時間前にスマホを弄るフリをしながら駅の地下で待った。服装はごく普通の好青年的な服を着て少しお洒落をしている。周りの女性の目を引き込むような爽やかな雰囲気だがコレぐらいが警察の目からも怪しまれなくいいようだ。
待つこと十分、紫髪の唇の下に少し大きな黒子を持つ独特なオーラを放つ綺麗な女性がコインロッカーを開き、茶色い袋を入れその場から去った。堂々としていて何の不自然でもない。そして、その女がルイのヨコを通る。
「あら、可愛い。好みだわ、貴方が藤堂のバイト?堂々としていればダイジョウブよ、それじゃあね。もう出会う事はないでしょうけど、ンフッ」
ルイは、何故か身体が膠着した。大人の色気、つい目を奪われるものが心を鷲掴みされるような感覚を味わった。これが、裏の社会の人間....、あまりにも衝撃がルイには強かった。それに加えて【藤堂】に対する恐怖も増した。
「さっさと、、おわらせよ..」
ルイは、コインロッカーに何も違和感のない動きで例のブツを手にすると、すーっと、中を確認し速やかにその場を去った。堂々とした動き、初めてとは思えない慣れた手つきであった。
「ふ〜ん、メンタルの強い子」
女はそう言う。
それから目的の場所へは数分で辿り着いた。少し洒落た喫茶店でそこには藤堂が待っていた。
「藤堂......えっと、さん?」
「組員じゃないんだから呼び捨てで構わんよ」
「でも、、」
「何緊張してるだい?例のブツは手に入ったんだろ、さてさて、君とは直接二人きりで話したいなと思ってね〜。」
「何をですか、、。」
ルイは、緊張気味ながらも藤堂に舐められないと会話のリレーを続けた。藤堂も前と様子が明らかに違うと気づいていたが普段と何も変わらない形で会話を進める。
「レオの事を知りたくないかい?」
「え??」
「どうなんだね」
「し、知りたいですけど」
そう彼は答えると藤堂は引き笑いをし「だと思ってね」とニヤニヤしながら彼の様々な一面を話してきた。どれもこれも知っていたような事ばかりで新鮮味はないが、この藤堂と言う人と関わっている時もある程度はあの素のままだと知ると、ルイの中ではレオはやはり絶対的な人だと改めて感じる。レオは裏の社会の人間に臆すること無く関係を築いている、ルイは到底自分には無理な事だと思っていた。
「もっと、彼の事を話そうかい?」
「いえ、大丈夫です。全部知ってる事なので、」
「じゃあ、どうして彼がこちら側の世界に足を踏み入れたのかも知っているのかね?」
「え、、、。」
ルイは沈黙した。藤堂は不気味な笑みを見せながら残っていたコーヒーを一気に飲み干すと紙袋と現金一万円をテーブルに残し席を立った。
「奢りだ。釣りはいらん。紙袋の中身は君への報酬だ。気が向いたら中を見てみるといい」
「あの、、その、レオの理由は」
「君が知りたい事はこの中に全て詰まってるよ」
「......はぃ」
ルイはその紙袋を手にし中を見るとDVDと一枚の便箋、手に取ろうとしたがレオの何が記されているのか怖くて手を出せなかった。
日は流れレオの退院の日
その日はルイはユリの家でレオの退院祝いのパーティを開いた。レオはあまり喜びを顔には出していなかったが、何だかんだ楽しんでいる印象、ルイも珍しくお酒に酔い無邪気にはしゃいでいる。ユリもホロりとお酒が身体に巡回していた。
「お前ら弱すぎな..」
レオも顔を赤らめているが二人ほど酔ってはいない。だが、レオは左右にいる二人を肩に寄せて優しく髪に触れると、立ち上がりユリとルイを寄せ合うと一人でパーティの後片付けをレオは済ませた。そして、レオはユリをベットまで淡々と運ぶと、掛け布団を掛け今度はルイを抱き抱え、ユリの家を後にする。レオは、ルイを抱えたまま愛車に向かい助手席に眠ったルイを座らせると車を走らせた。
小雨が降っており、青藍の夜空は濁った雲に覆われいる。小さな水しぶきをあげながら車を走らせ続けると橙色の蛍光灯に照らされたトンネルを潜り抜けた。それから二十分ほど経った頃、レオは自宅の前の駐車場で車を止めた。レオはルイの様子を伺うと少し眠りが浅くなっていた。そっと、揺さぶると薄らとルイは目を開いた。
「起きたか、」
「...レ、オ?、あれ、?」
ルイは左手を頭にあて記憶を探っているとふとレオから名前を呼ばれ顔を横にやった。すると、シートベルトを外したレオがルイの両肩を掴み力強く握りしめると、右手をルイの後頭部へとやって突然、彼の唇を奪った。
「、、、んっ、待っ」
ルイは手をじたばたさせ抵抗をするもレオの乱暴な接吻は止まることを知らない。レオはルイの服の下に左手を忍ばせ胸筋の中央に指を触れさせると下へなぞる。次第に彼の口付けは激しくなり舌を絡めだす。
「どうしたの....んっ、、はぅ、..ねぇ」
ルイの声は弱々しく表情も苦悶だ。だか、その表情がレオを刺激し彼はルイの首を右手で少々力を込めて絞める。
「うっ、、あっ、あっ」
必死にレオを押し返そうとルイは左手を彼の胸に当て出せる限りの力で押すがビクともせず段々と首を絞める力が強くなりルイは押す力が抜けていった。意識も遠のきはじめると、レオはふと首を絞めるのを辞めた。
「はぁ......はぁ....はぁ」
「緩いなぁ、。」
レオは、ルイの腹部を揉むとさらに骨盤の方へと手を忍ばせていく、するとルイが突然、敏感に何かに反応し喘ぎ声を上げた。呼吸が荒くなり、声も高くし激しく喘いでいる。
「だめ、、はぁっ、あぁっ、あッ..んっ」
レオは、ルイの全身の力が抜けるのを肌で感じるとスっとルイを抱いたまま左の方向へと回った。
「な、、に?」
「俺のを真似ればいい」
「....うん」
ルイは、レオの後頭部に手を回し左手をカレの服の中へ忍ばせた。
「かたい..」
「ほんと、俺の犬だな。肩に火傷の跡残して置いて正解だったぜ」
二人は、このまま長く車の中で夜を過ごした後、レオの家へと戻りシャワーを浴びた。レオは疲れたのかシャワーを浴びたあとベットの中に入るとスグに眠りについた。ルイは、バスローブを巻いていたがレオは下着以外何も着ていなかった。
翌朝、ルイは目を覚まし身体起こしベッドの上に置いてあったスマートフォンを手に取るとユリから一件メッセージが届いている事に気がついた。ルイは「ん?」とメッセージを開き読む。
【昨日、私寝ちゃってた!?二人ともいないから怒ってるのかな?って思ってます。パーティの片付けありがとう。ルイくん家にカバン忘れてあるから今日、仕事私お休みだけどルイくんはあるよね?お礼に届けに行きます。】
ルイは、「あぁ〜そっか」と頷くが片付けなんてした記憶はなく少し悩ませていると、まさか全部レオが片付けたの?と「まさかまさか」と二度自分に言い聞かせると、ふとレオがルイの手を掴み引いた。
「ルイ....寒ぃ。」
それもそのはず、時刻はまだ朝の6時、外は冷えている。
「服、、着る?」
「んん、いい。お前でいい」
「え?」
「俺の犬だろ、早く」
ルイはレオに腕を強く引っ張られ顔がレオの鉄板のような胸に吸い込まれた。レオはルイを力強く抱きしめる。レオの身体の温もりに一度目を覚ましたルイにもまた眠気に襲われ、次、目を覚ました時は仕事の入っている一時間前であった。ルイは急いでレオを叩き起こし身だしなみを整えると、ぶかぶかのレオの服で何とか仕事場に合った服装をして出勤した。
「レ、、レオのせいだから....」
「あ?お前が勝手に二度寝したんだろが、犬が俺のせいにすんな。捨てるぞ」
「す、捨て!?」
「あぁぁ?」
「何も無いよ..。」
ルイは、不満を抱えながらも何とか職場の出勤時間に間に合わせた。遅刻しそうになった理由がレオといいレオが車で送ってくれなければ遅刻していた。複雑な心情である。
「いたいた!ルイくん、はいこれかバン」
「あ、ユリさんありがとうございます。」
「さっき、レオの車が会ったけど?」
「あ、え〜〜っと、なんか昨日僕も寝ちゃってたみたいで、、いや、なんかすみません。別に僕、片付けしてないのに、えっとこれ」
「いいのいいの!気にしないで!ルイくんには仕事助けてもらってるから、まだレオいるかな?」
「今行けばまだ居るかもしれないですよ?」
「ホントに?ありがと!」
いつもよりユリの服装がお洒落で桃色にコーティングされていた。ルイは「レオとデートなのかな?」、そう思うと少し胸が苦しくなった。昨日、レオとあの時間を過ごして気持ちが強く芽生えたことを自覚している。
レオは昨日、
どういう意図で僕を抱いたのだろう。
「あ、レオ〜よかった〜!」
ユリがレオに駆け寄り、ギューッと抱きついて身体をブラブラと揺さぶった。
「待ってた」
「待ってたどうして?今日私仕事って言ってなかったのに、」
不思議と思い抱きついたままレオを見上げて首を傾げる。
「ルイにメッセージ送ってたろ?」
「どうして、それ知ってるの!?」
「まぁ、見たんだよ。ルイが見る前にロック画面でお前からのメッセージな」
今日の朝、ルイよりも先にレオが一度目を覚ましていた。その時に時間を確認しようとベットの上にあるスマホを手に取ったがそれがレオ自身のものではなくルイのスマホでその時にユリの今日の行動を知ったのだ。
「人のスマホ覗いたんだ。」
「無意識でな」
「まぁ、いいや、今日デートとかどう?」
「ああ、そうしようと思って待ってたんだよ」
「ホントに!?うれしい!」
レオは黙ってそのまま車の扉を開き運転席に座りユリも続いて助手席に座ると、レオは「どこ行きたい?」とユリに質問を問う。ユリは一瞬、戸惑うも「紅葉の綺麗な場所」と答えた。それを聞くと、レオは車の運転し始める。
「もうすぐ冬なのに紅葉かよ、」
「でも、見たいの〜いいでしょ?」
「じゃあ、ド田舎の山な?」
「ド田舎って、、でもそこでいいよ。」
ユリは、久々のレオとのデート....ドライブを純粋に楽しんでいる。だが、距離を感じていた。いつもデートの時は自分の行きたい場所ばかりで自己中、なのに今日は「どこへ行きたい?」と問いかけてきた。
あぁ、もうすぐ枯れるんだ。
そう、私は一瞬で悟った。
いつもデートする時はレオも無邪気に笑いはしないけど機嫌がいい時は、レオは直ぐに顔に出るから分かった。けど、今日はいつもになく無で口角が上がっていない。他に好きな人が出来たのかな、、レオと私が出会ったのは【クラブ】クラブなんかにいる男や女は殆どヤリモクでやれば直ぐにポイッと捨てる。でも、私達はそうじゃなかったし長く続いていた。だから、私達は違うんだと、思っていたけど、レオもそうだったんだね。
けど、私は簡単には諦められない。
最後の抵抗をさせて、、私と初めてデート覚えてる??
一緒に紅葉、、見に行ったよね。
あの紅色の綺麗な紅葉を、、、。
「やっぱり、終わっちゃったか、紅葉」
「当たり前だろ、」
「でも見て、、あの木、少しだけ葉が残ってるよ。」
「あぁ、そうだな。」
レオは笑うこともなく表情で暗く死んでいる。
「ね、ねぇ、レオ覚えてる?」
ユリは声を震わせながらも少し声のトーンを上げた。
「ん?」
「初デート!」
「紅葉だったけ、」
「そう、」
レオは、顔を俯かせた。ユリはスキャニングが弱った目でじっと見つめ続けた。
「なぁ、ユリ」
「そ、それであの時の、、あっそうレオさ」
ユリは聞きたくなかった。もう、気づいているから、、離れたくないレオの言おうとしてることを阻止するのそ一心で言葉を放ち続ける。だけど、次第にそんな自分が見苦しくなったのか、、....すと口を閉じた。
「ユリ、、」
「聞きたくない。言わなくても、、分かってるから、他に好きな人出来た?」
「....言わせろ、俺の気が済まないから」
「自己中....すぎるよ。」
「....あぁ、そうだよ。」
レオはユリの左肩に触れた。
【俺と別れてくれ....。】
ユリの視界は真っ暗となった。
やっぱり、別れたくないな。
雲は夕焼けに照らされている。その天界の下で人々は今日も社畜の社会から解放されていた。
「お疲れ様でした〜」
「あら、ルイくん。上がり?お疲れ様」
ルイもその一人、彼は店から出ると辺りを見渡す。もしかしたら、レオが迎えに来ているかもと少し期待したのだ。だが、レオの姿はない。
「まぁ、そうだよね」
と、徒歩で自身の自宅へ向かった。職場から自宅は割と近く、いつもなら自転車で出勤してるのだが今日はレオに送られ出勤したので徒歩である。
ずっと真夜中でいいのに、、、という
とあるシンガーの【脳裏上のクラッカー】を小さな声で呟くように歌いながら道を歩いた。この曲の歌詞がルイは心に染みり共感出来た。
「このまま、」
「ルイ!」
サビに入る前、車がルイの横に止まりフロントガラスが開き窓からレオが顔をだした。
「家まで送ってやろうか?」
「..うんっ」
こうやって愛を感じ合うのだろうか?ルイは、ここまで人を好きになったことなんてなかった。病院でユリがレオの彼女と知った時、どれだけ嫉妬し奪いたいと思っただろう....。だけど、今はここにいる。
「ユリさんは?」
「彼奴とは別れてきた。」
「ほん....と?」
【正直喜んでる。僕は最悪最低?】
心の中で誰かにルイは問いかけた。
ルイはレオに自宅まで送ってもらうと、レオの腕を掴んだ。
「今日は泊まっていって」
「え?」
「だめ?」
「....いや、これから藤堂さんから仕事があんだよ」
「じゃあ、これ鍵....終わったら」
ルイは自分でも驚いている。こんなにも人と離れたくないって思ったのも初めてだ。全てが初めて生まれる感情ばかりで自分でもどう行動をとるのが正解なのか分からなかった。だけど、これだけは本当に分かる。【レオを自分のモノにしたい】
ルイが帰宅して三時間が経った。まだレオは戻ってこない。嫌われた?仕事で何かあった?と不安が募る。レオの帰宅を待って食事の支度も済ませていた。りんごの皮は剥けないが料理はできる。
「ピーラーって便利、、。」
と言っても、肉じゃがが完成し待つ間にする事がなくなった。すると、ふと何かを思い出しルイは自室に足を運ぶと帰宅してから雑にほって合ったカバンを漁り【藤堂】から受け取った仕事の報酬を手に取った。
「怖くて、まだ見れてなかったっけ、、。」
報酬の中身はDVDディスクと一枚の便箋、便箋の表にはDVDの中を見てから読むようにと書かれていた。ルイはその両方が入った紙袋を手に取ってリビングに置いてあるPCにまで向かう。ゴクッと唾液を呑み込むとPCにディスクを入れ中のデータをみた。
それは衝撃的な映像だ。
「やめろやめろ、くるな、やめろ、やめ、辞めてください....くるなくるな、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、うっ、あぁぁぃぁぁぁぁぁあ、嫌だァァっ、アァァッ、アァァ!!」
思わず一度、PCを閉じる。
「え?」
何かが頭から抜けた。
そして、再度PCを開いた。
「なに、、、これ、、それにこの男、」
中には一度死んだ姿で見た事のある男、そう、レオが殴り殺した男の姿とまだ高校生のレオの姿があった。密室のような場所でレオが殴り殺した男に身体を捕まれレイプされていた。涙をボロボロと流しながら右手を精一杯に伸ばし逃れようとしている。だが、決して逃れられる事はなく、穴に雄のみが持つモノを差し込まれその男は全身を震わせていた。レオはただ「アッ.アッ.アッ」と声を漏らすことしか出来ないでいる。
「辞めてよ、レオに、、いや、いやぁぁ」
ルイはその男に殺意が生まれたがその男は既に死んでいる。だが、その殺意を爆発させるかのようにもう一人、少し歳老いた肩に龍の刺青を入れている男が現れレオの髪を引きちぎる勢いで掴みもう下手っているレオの顔を眺めると興奮したのかその爺は男のアレを揉み始め、息を荒くしていた。
ルイは次第に見ていられなくなった。何度も映像を止めようとしたがその男がその先にレオに何をしようとしているのか気になった。
「ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ」
ルイは狂ったように画面を直視し何度も何度も呪文を唱える。
「やめ....辞めてくだ、さい、お願いします..」
映像の中のレオは見たこともないぐらいに顔をクシャクシャにしてその男の足をつかみ頼み込んでいた。
ルイはこの映像が何を意味しているのかと便箋を手に取った。
『レオはは、高校一年の間もない頃に【九堂組】のトップに目をつけられ拉致された昔から九堂組と私は縁が深かったものだから拉致後、この行為を隠蔽する為に私は利用されレオを飼う事となった。それも九堂組から私が救い出したという形で、気を失っていて何が起きたのか把握出来ていなかったレオは今も私に恩があると思っているが事実そうではない。しかし、レオがヤクザの組員の一人にいるのは私に恩があると思っているからだ』
ルイは遠回しに藤堂が何を言いたいのかは悟っていた。直接自分の手を汚さず九堂組に痛手を与えようとしている。レオが九堂組の組員を殺害した事により藤堂組と九堂組の関係は雲行きが怪しく火花が散っている。このままいつ九堂組が藤堂組に手を出してくるか分からない今、先手を取りたいのである。流石にルイもここまで推測出来ているか定かではないか藤堂の狙いはルイを利用し九堂組に負担をかける事だ。
「何を見てる?」
「!!?」
ルイはふと顔を左横に向けると、そこには眉間にシワを寄せたレオが立っていた。ルイは咄嗟にPCを閉じ便箋を握りしめそちらはズボンのポケットの中に隠した。
「何だ?その様子は?」
「何でもない、、うん。も、もう戻ったんだね」
「ポケットに何を隠した?」
確実にバレている。便箋はまだしも、PCに触れられては不味い....。ルイは咄嗟に気をこちらに引こうとしたがレオは左手でPCに触れ開いた。
「!?」
「......。」
ルイは目を背け、ちらっとレオの顔色を伺った。今までとは違う目の色をしている。殺気というモノをバチバチに感じさせた。思わずルイはゆっくりと後退りをしレオと距離を取る。
バァンッ!
とテーブルをグーで叩き唸るような声で「見たな?」と問いかけた。ルイは何も答えないでただ黙った。何か言おうとはしているのだが恐怖のあまり何も声に出来なかったのである。今世紀でルイは最大の恐怖を感じていた。
「なんでお前がこれを持ってんだよ?お前?まさか、九堂組の人間か??だから、ヤクザ相手、藤堂さん相手でも強気に出れたってわけか?あ?どうなんだよ?俺を守るなんて容易かったってか??どうせ今も怖くもなんともねーんだろ?答えろよ?あ?どうなんだよ、おいっ」
ルイは首をただ大きく横に振った。
「じゃぁ、誰からこれを受け取った?」
「ふ、......藤堂」
「あ、、?お前あんま調子乗ってたらガチで殺すぞ、」
ルイの胸ぐらを掴みガラス窓に押し付けた。二人の顔面の距離は僅か三センチほどしかない。ルイはもう目を逸らせる場所は限られていた。
「本当は誰からもらった?九堂組だろ?そうなんだろ?」
「違う、、本当に....っっ!?んっ!」
レオはルイを腕の力で強引に引き寄せるとガラス窓を割る勢いで叩きつけ今までになく強く激しく怒りを込めた声で「殺すぞ」と言い放った。ルイの目は灰色に濁り見開いている。自我がないようであった。
「ほんとだよ、、レオは黙されてたんだ」
「黙れっ!藤堂さんは俺を助けてくれたんだ。恩人なんだよ」
「違うよ?この便箋読んでよ。これも藤堂から受け取った。」
「はぁ?」
自我の無いルイは全くの別人だ。
恐れを知らない狂人である。
レオはそんなルイから..便箋を奪い取り中身を読むと駄々をこねる子供のように少し目に涙を浮かべ小刻みに首を振った。
「嘘だ、嘘だ」
と何度も繰り返す。
「ほんと、」
「黙れ!ガチで殺すっ......殺してやる」
「殺したいなら殺せばいい。僕を殺しても何も変わらない。」
「黙れ、本当に殺すぞっ」
「いいよ。」
「あぁ、分かった。なら殺してやる。あぁ、殺してやるよっ」
レオがルイの首を強く両手で締め上げた。ルイは「んっ、あっ、」と声を漏らし必死に呼吸を行うとしているのが見て分かる。脚をばたつかせ、レオの手の間に指を入れようとした。死の直前にルイは自我を取り戻したのである。
「んっっ、、、。」
「ルイ..?クソっ..、クソっ!!」
レオは、ルイが息絶えかけた寸前に手を離した。ルイは経つ力もなくクラっと床に這いつくばる。ルイの記憶には走馬灯により自我を失っていた時のビジョンが流れ込み、ふとレオの顔色を伺った。
「レオ、、?」
「俺にはお前は殺せねぇ..。」
レオはもう正気ではない。弱音を吐き涙を零している。そんな弱々しい彼を見てルイは思った。レオを弱くしてるのは九堂組じゃない、藤堂組だと、、。
「レオ....。」
ルイは、ゆっくりと身体を起こして立ちレオの首に両手を回した。
「僕に守らせてよ」
ルイは、子犬を撫でるようにレオの襟足に触れる。そして、彼が動揺している隙に背伸びをしてつつくようにして接吻をした。思わず思考を停止させた。
「お前、俺に殺されそうになったって分かってるのか?」
「僕はレオの犬だよ。レオが僕を邪魔と思った時には殺すなり好きにしたらいい、」
「なら今すぐに殺してやるよ」
「え、、?」
レオは、激しく荒くルイの唇を食した。舌を交尾する蝶のように絡み舞わせ相手に息をする暇を与えない。ルイを殺すには首を絞めるよりも効率的だったが、途中ルイが咳き込み捕食は中断された。
翌日、ルイはセミダブルベッドの上で目を覚ます。レオを抱いて眠っていた筈だがベッドの横は広く空いていて彼の姿はなかった。寝ぼけながらもルイは目を擦りリビングに向かう。すると、テーブルの上に一枚の便箋が置かれていた。ルイはそれを手にし読むと目を大きく見開き急いで家から飛び出し、走りながらスマートフォンでユリに電話をかけた。
「....分かった。」
ユリはルイから電話を受け取るとピンク色でコーティングされた大型のバイクに乗り僅か三分で合流を果たした。
「乗ってきな?」
「ユリさん、、キャラ変わった?」
「気にすんなって」
髪色も赤紫色に染められている。何が彼女を激変させたのか分からないがルイはユリのバイクの後ろに乗り、急いでとある場所へ向かった。
その中、レオはと言うとルイの家で一枚の便箋を残した後、藤堂組の本拠地に一人で向かい。ある覚悟を決めて親分の前に姿を見せていた。
「藤堂さん、、貴方はずっと俺を騙してたんですか」
「何の事かね?」
「俺に恩なんか売ってなかったんですよね。」
「君を九堂組から助け出した話か、」
「気を失っていたから俺は何も知りませんが。ただ、藤堂さんは九堂組に利用されてただけなんでしょ」
「君の犬に渡したものを見たのか、、だったら何なのかね?」
藤堂は何一つ動揺せずピクリとも表情を変えず二本のタバコを同時に吸っていた。それに対しレオは手を握りしめることで自分の感情をコントロールしている。
「で、何を言いたい?」
「今日限りで足を洗わせてもらえませんか?」
「その話しなら最初から言えばいいじゃないか、別に君一人居なくなろうが構わんよ。」
「え、、、?」
レオは思わぬ返事に眉をピクリとあげ表情を凍らせた。そして、もう一度同じ事を繰り返し問うと藤堂は何の迷いも無く、
「だから構わんよ」 と答えた。
「だけど、今、俺のせいで大変なんじゃ」
「そう思うなら、君が九堂組に乗り込んで一発暴れてくるかね?」
「......いや、それは、、」
レオは顔を俯かせ黙り込むと、藤堂がニヤニヤと不気味な笑みを見せて椅子から立ち上がった。レオを囲む周りの幹部の組員たちを立ち去らせると、ルイの左首筋辺りに触れる。そして、甘くこう囁いた。
【最後に私にその身体を売れば、全然構わんよ。】 ......と。
レオは、思わず「..、は?」 と一言いい右手で藤堂の胸を弱く押して目を見つめる。
「さてどうする?」
藤堂はレオに問いかけた。レオは激しく動揺し目を左右に動かし視点が定まっていない。
「レオくん君は、私のあの便箋を見て君の犬が私に牙を向ける、、もしくは、九堂組に乗り込む。そう思ったんじゃないのかね?だから、君自身がヤグザから足を洗えばキッパリとこの世界から縁を切った事になり犬を止めれる。そう考えたんだろう?なら、可愛い愛犬の為にも私に一度ぐらい身体を売ってくれてもいいじゃないか?」
「......そう、、、ですね。」
レオは藤堂に連れられ二人の暗く渋い空間へ入って行った。藤堂は、レオの裸体を見て感情が高ぶり興奮させ息を荒くした。
「これが、、自分よりも図体のでかい男を腕力でねじ伏せた身体、、逞しい。スレンダーなのにも関わらずストイックに引き締まっている。あぁぁ、、欲しい。溶け込みたい、、。あの時、私の幹部にリーチされている時、本気を出せば蹴散らせただろうにその逞しい肉体で黙って受け耐えてたと言うのかね、、そう考えると、ゾクゾク、、ゾクゾクして仕方がない。ハァハァハァ..」
藤堂の本性が全てさらけ出ている。ただの細く逞しく引き締まった男の身体が好きな変態だ。舌を犬ように出し自分の唇をペロリと舐めている。レオはその姿を直視し嗚咽を感じるがグッと堪えた。
「さぁ、、その身体で私を食らってくれたまえ」
藤堂は、屈辱的な表情をするレオにまた更なる興奮を覚えていた。
藤堂組の前に派手な色をした大型のバイクが止まった、そうユリとルイだ。彼女等はヘルメットを外して首を大きく横に振った。
「ユリさん、ありがと」
「一人で本当に行くの?私も、」
「大丈夫、ユリさんは危ないから早くここから離れて、、」
「....そう、、気をつけてね」
「本当にありがとう!ユリさん」
レオの中で私よりも愛した人は恐らくルイ、今なら彼を殺せる......。背後からこの拳銃を一発撃つだけ、、、。
「彼がいなくなればレオは私の元に帰ってくる。」
ユリは、引き金に触れたが結局撃つことができなかった。
「......私って、愚かなのかな。」
本当は付き合い始めちょっとした頃からレオの中には別の人がいる事に気がついていた。それがルイだったとしたら全て辻褄が合う。レオが昔の同級生の人つまりルイの事について話してる時はとてもイキイキしていたし、本当に犬のようで【可愛い】とまで言っていた。私には一度も可愛いとか綺麗なんて言ってくれなかったのに、最初から私に近づいたのは全て、、、もう私には知る術はない。
「ほら、どうした?早く私を食えよ」
「......ゴクッ」
ルイは自身の唾液を飲み込み、藤堂のアレを舐めるのに抵抗を感じていた。
「早く、舐めるんだレオ」
「......ンッ」
口を開くも嗚咽を感じ、スグに口を閉じて手で覆ってしまう。藤堂は少しヤレヤレと呆れていた。
「足を洗いたいなら、私の気が落ちる前にサッサと終わらせてはどうだ?」
「クソッガァァッ!」
レオは、藤堂の身体についに触れアレを手で掴もうとする。藤堂の感情は一気に高ぶった。その刹那の事、二人の怪しい空間に光が差し込んだ。
「レオ!!」
「....ルイ?」
ルイが藤堂組の拠点に乗り込んできたのだ。
「貴様っ、何をしているっ!」
「辞めてっ、離せっ」
扉を開けた途端にルイは大柄な男二人に両腕を拘束され引き出させる。
「おい、ルイに何する気だ、」
「いいのかね?足を洗えなくても」
藤堂がレオを呼び止める。だが、レオは言った。
「俺の中で今、一番大事なのはルイの身だ」
と、、。
「レオ、、レオ、辞めてっ、ングッ」
脚をばたつかせ必死に抵抗しレオの居る部屋を見つめるルイ、だが大柄な男二人の力には到底適わず腕を動かすことも出来ないでいた。だがしかし、足をバタつかされては騒がしいと一人の二人の大柄な男に比べやや細身の新しい藤堂の幹部がルイの腹部を鉄の棒で強打した。
「....アッ、....アァア」
ルイの緩い身体を落とすには一度で十分過ぎた。ルイの抵抗する力は一気に弱まり脚ももうピクリとも動いていない。だが、ふと、ルイの腹を強打した男が凍りつき
「おい、待ってくれ」
と大柄な男二人を呼び止めた。
「俺の後ろに何かいねーか?」
声は震えている。レオの殺気を全身の肌で感じているのだ。
「ルイに何してんだよ」
「貴様、俺に手を出したらどうなる、、ンガッ」
レオは躊躇なく前の男の髪を鷲掴みにするとガラス窓に顔面から突っ込ませた。ガラス窓は当然の如く砕け男の顔面には割れた破片が何本か突き刺さっていた。
「レオ、貴様ァ!何をしている!」
「命はないと思えっ!」
大柄な男二人がルイの腕を解放すると拳を鳴らしてレオに近寄り一人の男がレオにタックルを入れ左足を奪った。だが、咄嗟にレオは捕らわれてない右足を使いビクトル投げで返し万事して逃れた。だが、体格差のある相手、そしてまだ相手が一人残ってるという事もあり技を掛けるのを辞めると目の前からもう一人の大振りで殴りを入れようとしてきたところをレオは俊敏に躱しフォームの決まった後ろ回し蹴りを相手の顎横に命中させ気絶させた。
「後はお前だけだな」
「....おぃ、何する気だ」
「お前もルイに手を加えたろ?ルイに手を出したらこうなるって言う躾だ。躾、。」
【ァァァァああああああああぁぁぁ!】
男の声の裏返った痛々しい悲鳴が響き渡った。その声を聞き藤堂はププっと笑いながら部屋の中から出てき拳銃を片手に持っている。
「え、、、」
「ルイ!」
銃口はルイに向けられていた。
「レオ、そこまでだ。ホントに猫と犬があまり調子に乗るんじゃないよ。私の部下に牙を向ける。即ちそれは私に喧嘩を売ってると同じ事だよ?分かってるのかねそこの所を」
藤堂がレオと目を合わせそう言った。レオは、息を詰まらせながらも鋭い目付きを変えることは無い。
「藤堂さん。ルイにそれを向けるのを辞めてください。撃つなら俺を撃てばいいですよね」
「辞めて、レオに手を出さないで、、僕を殺してレオを解放してあげて、、お願い..します。」
「ルイ、黙ってろ!」
「僕は、レオの犬だよ。」
レオとルイは目を見合わせた。二人とも、優しい目をして愛おしく見ている。藤堂はこの光景に「はぁぁ」と大きなため息をつき何か気分が削がれたのか銃を降ろした。
「二人ともいい根性してるじゃないか、この世界は男ばかりで百合なんてそこら中にあるがお前らの愛はホンモノだな。こんな貴重な人種、殺す方が勿体ない。もう行きなさい、レオ、お前はもう自由だよ。ルイくん、、キミは本当は心も体も弱いんだから、身を大事にするんだよ。じゃないと、ワシらみたいなヤクザの餌になるだけだ。まぁ、キミには獅子が着いてるから大丈夫だろうけどね。」
レオとルイは、突然の藤堂の言動にやや戸惑う。何か裏があるのではと考えたがその様子はなかった。だが、どこか藤堂の寂しそうで弱々しい肩に同情を買いかける二人、大きな態度を取っている藤堂だが、本当は愛に飢え孤独を感じているのだとルイは思った。
「レオ、、これから僕達の関係ってどうなるのかな」
「ルイ?」
「ん?..えっ?」
レオは突然、ルイを抱くと耳元でこう言った。
【俺の側にずっと居てくれ】
と、鼻を啜って、、身体は震えていて今にも泣きだしそうだった。
「俺、お前が居なきゃ潰れそうだ。お前がいねぇと俺、何も出来ねぇ弱い男なんだよ。お前が思ってるほど俺、強くない。今まで散々な扱いをして悪かった。だからっ」
「....僕も、、ずっと側に居てほしい。そして、レオを支えたい。それにレオが本当は弱い人だって分かってる。でも、それは本当は優しいからだよね。分かってる。分かってるから大丈夫だよ。」
二人は今にも涙が零れそうになった。
辛いから
悲しいから
そうじゃない。
やっと、
相手の想いに気付けて
相手に想いを伝えられたから。
嬉しくて、泣きだしそうなんだ。
空を黒い雲が覆い、豪雨が降り始めた。
まだ、午前だと言うのに街は夜闇の中に包まれたようである。
でも、この暗闇の中の豪雨は二人の愛を歓迎しているようであった。
冷たく痛い豪雨に打たれながらも
二人は、雨に体力を奪われ気力を無くすまで激しく熱いキスを交わした。
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