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壊れた村で

「…勇敢なる者達よ」




どうして関係のないわたしを殺そうとするの?と少女が尋ねると

関係ないくせに勝手に首を突っ込んできたお前達が悪い。と男は剣を一閃させた。


 

 



***

 

 



 夕暮れ、静寂、自分の足音。人の間を縫うように進めば、うまいぐあいに街道に出た。

日のあるうちに、進めるだけすすもうと痛む足を進める。


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 薄闇、静寂、明かりのない家。黒い髪に、黒い肌。瓦礫に埋もれてうずくまる子供。

焼け焦げた死体かと思ったソレが生まれつきだと分かったのは、服を捲って見た背中も黒かったからだ。


「…なにすんだよ、変態か!?」

「やだ生きてたのね。ごめんなさい」


 戦場には、鎧を着こんだ大人ばかりだった。ようやくサイズの合う服を剥ぎ取れる相手を見つけたと思ったのに、まだ生きてるなら諦めるしかない。


「お前も食料盗みに来たのか?ここはハズレだ、もう持っていかれてるぜ」

「お前は何をしていたの?」

「俺は寝床代わりにしてただけさ。俺の家はもう跡形もないからな」

「どうしてまだここに居るの?」


 戦場の、すぐ近く。戦いに巻き込まれたのか通り道だったのか、壊れた村。


「別に…他に行くところがないだけだ。まぁほとんどの人は逃げてったけどな」

「お前1人?」

「お前って言うなよ、俺はダリス。お前は?」

「ダリスもお前って言うじゃない」

「お前が言うと何か偉そうなんだよ。見たことないヤツだ、戦争に着いて来たのか?」

「まぁそんなとこね」


 戦争を止めて欲しいと訴えたのは、もしかしてこの村の人だっただろうか。

形のある建物はあまりなく、壁や屋根がない状態が多い。人は何人かいるが死体ばかりだ。

もしかしたら、まだ息はあるのかもしれないけれど…。


「…で」

「なに」

「名前だよ」

「あぁそういうこと」


 相手から名前を告げられても、以後お見知りおきをと締められるのがいつもの流れだった。

なるほど、普通はお返しに自分の名前も伝えないといけないらしい。

私を名前で呼ぶ人は姉弟の人達だけだったから、少し新鮮だ。


「私はツェーリアよ」

「そうか。…お前も1人なのか?」


 せっかく名前を教えたのに、結局お前と呼ばれているのは何故だろう。少し納得いかない。


「1人よ。お姉様もお兄様も亡くなったの」

「そっか、俺も1人なんだ。…だから…ほら、なんだ、飯ぐらい食わせてやるよ。食堂の地下倉庫は無事だし、畑もまだ残ってるんだ」

「ありがとう」


 二人で屋根のある場所に移動して、火を起こす。ランプを一つ、テーブルの上に。


「パンがある。もう一週間たつけどまだ食えるだろ、すげぇ硬いけどな」

「硬いの?パンが?はじめてだわ」

「チーズも乗せてやるな!継ぎ足しのスープもまだ暖かいから飲め」


 既にダリスは食事を済ませているようで、テーブルにはツェーリアの分だけ用意されていく。


「ありがとう、いただきます」


 硬いといわれたパンは、本当に硬かった。苦戦して噛みついていると、スープに浸して食べるのだと教えてくれた。

普通の人が食べるパンと、私が今まで食べていたパンは全然違うようだ。


「お前の分の毛布も探してきてやるから、俺の横で寝ればいい。あそこは風がなくて一番マシなんだ」

「お世話になります」


 スープには、大きさがばらばらの野菜がたくさん入っている。口の中でガリっと音を立てたのは、卵の殻だろう。

私が飲んでいたスープにはほとんど具がなかったけれど、逆に色んな味がよく出ていた。

馴れない食べ物を食べて、知らない生活への不安を覚える。

私、うまくやっていけるかしら…?


「なぁ、料理できる?」

「やったことがないから、出来るか出来ないか判断しかねるわ」

「いやそれ、出来ないってことだろ!何かお前、変わったやつだなぁ」

「そうね、ちょっと変わっちゃったわ」

「はぁ?…あはははは、変なやつ!」


 同意すると、なんだそれと笑われた。


「働かざる者食うべからず、だからな。ここに居てもいいけど、畑仕事とか何か手伝えよ」

「一宿一飯の恩義、というやつね。分かったわ、何が出来るか分からないけど頑張るわね。でも申し訳ないけれど先を急ぐから…午後にはここを発ってもいいかしら?その分早起きするわ」

「そ、そうか…そうか」


 不満でもあるのか、ダリスは窺うような眼を向けてくる。


「ここから近い村か町かはあるかしら?教えてくれたら、もてなしの礼も兼ねてこれをあげるわ」


 言って、自分の左右の耳に揺れるピアスを外す。9歳の誕生日に貰ったばかりのものだ。

涙型で、上の方は白く結晶化しているが下は透明な水晶のピアス。


「はー、綺麗だな。いいよ、大事にしな、そんな高そうなもん貰えないし」

「価値があるから、お礼になるのよ。売ればいいんじゃないかしら」

「いいって。今食ってる物俺のじゃねーし、気にすんなって」


 なるほど、この場合お礼をすべき相手は彼ではないということか。


「そうだな、北に行けば町があるよ。俺は行ったことないけど、朝市に野菜を卸して夕方には帰ってきてたから半日あればつくだろ」

「よかったわ、徒歩で大丈夫そうで」

「…家に帰るの?」


 何故か、その声は寂しそうに聞こえた。

 

「家にはもう帰りたくないから、どこかへ行ってみようと思っているの」

「どこに?」

「知らない。私、ここがどこだかも知らないし家がどこだかも分かってないの。どこでもいいのよ。ただ、どこか別の場所で生活してみようと思っただけなの」


 お金も、知識も、なんにもない私がこんなことを言うのは、無謀だと思われるだろうか。

しかしこちらを見る目に馬鹿にしたような色はなく、逆に感心されているようだった。


「どこでもいいなら、ここは?」

「ここはちょっと…ダリスしかいないし、お店もないしちょっと生きづらいわね。ダリスはいつまでいるつもりなの?」

「他に行く当てねぇもん。親も親戚も皆この村だ」

「私も当てはないわよ。丸一日ご飯も食べれてなかったし見ての通り服もないわ。それでも行くの。いざとなればその辺の葉っぱを食べて川の水で生きるわよ」

 

 私が堂々と情けないことを断言すると、彼はまた私に向かって変な奴だと呟いた。

 


「…またあの時の声が聞こえたわ」

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