八話 地に堕ちた黒翼
〜前回のあらすじ〜
天使の襲撃にあった悠翔達。海戒は刈り上げの大男に、身動きを封じられる。
最悪の状況の中、悠翔は推測した異能力を試し、山風(金髪の男)を倒すことに成功した。
掌から風を放つ異能力を使う、金髪の男は倒せた。あとは眼鏡の男を倒して、海戒さんを上手く助け出せれば……
「ハルハル気をつけてね、眼鏡の人の異能力はまだ分からないから〜!」
「うん」
息を吐き、男の動作一つ一つに集中する……両手には何も持っていない。ゆっくり、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
……男は立ち止まり、懐からナイフを取り出す。
またナイフ……金髪の男が持っていたナイフよりも大きく長い。さっきよりも早いタイミングで異能力を使わないと斬られる。
それに相手にも異能力があるはず……
――ガラン!
音に体がピクンと反応する。
ナイフが地面に落ちた。
「自分の負けですよ。自分の異能力、戦闘に不向きなものでね、触れた人の視界を見たり共有することしか出来ないんですよ」
突然の白旗発言に疑心を抱き、驚きつつも少しホッとした。そんな僕とは反対に、ルウちゃんが強く疑いの声をあげる。
「ほんとなの?」
「本当ですよ。前に立つ貴方なら、自分の異能力を信じますよね?」
触れた人の視界を見たり共有する異能力。
そういえば、この男に公園で肩を叩かれた。あの時に異能力にかかっていて、アジトの場所がバレてしまったとすれば、辻褄が合う。
僕のせいでルウちゃんやユウくん海戒さんを、危険な目に合わせてしまったんだ……
「ピンときたみたいですね。アジトまで案内して頂きありがとうございます」
男は眼鏡を整え、不敵な笑みを浮かべる。
「さて、一人で突っ込んだ馬鹿を……殺しちゃって下さい」
――頭が真っ白になった。
「もしあれでしたら、自分がやりましょうか?」
何を言っているのか理解できずに――
あの二人は仲間や友達じゃなかったのか、どうしてそんな簡単に人を裏切り、切り離し、殺めることができるのか。理解できなかった。
彼らは、僕と同じ人間ではないのかな……
――刹那、銀色の閃光が目先を通る。
心を揺さぶられた一瞬の隙を突かれて、隠し持っていたナイフが空を切った。
僕もルウちゃんも一瞬頭が真っ白になり、思考の処理が遅れていた。
「友の為に、神の為に! 黒翼よ! 神の供物になるのです!!」
興奮状態の男の高い声と、悲鳴が耳に騒めく。
今までにない、黒く煮えたぎるような感情と、みんなを護りたいと強く想う、白く透き通る感情が、心の中、いや頭の中で爆発して……
何がなんだか分からないほどに、混ざり合った。
ふと我に返ると、一羽の烏が死んでいた。
何かに押し潰されたように……
* * * * * * * * * *
閑静な住宅街に地響きが聞こえる。
住宅街の中にある大きな古民家から、砂埃が舞い上がっていた。
……その古民家から遠く離れた電柱。
電柱の上の人影が、灰色のローブに身を包み座っていた。
月が隠れ、人影の顔が曇る。
「……五五天使の封印が解けた? 神をも封印できる異能力を、一時的にでも解き破るなんて……すごいじゃないか!」
トン、トン、と人影が足を前後に揺すり、踵が電柱をノックする。小さく鼻歌を歌いながら手に持つ本のページを捲る。
月が再び、顔を出す。
――突如、強風が吹き抜け、手に持つ本のページを荒々しく捲り去る。
手に持つ本を閉じて、ローブの中にしまった。
「さて、神託の意味を解き明かせるかい?
五九天使の力を授かった、黒曜 悠翔くん」
人影は電柱から飛び降りると、ローブのフードが脱げ、銀色に輝く髪が月明かりに照らされた。
〜異能力メモ〜
有上 共輔(眼鏡の男)の異能力!
・触れた人の視界を覗ける。
・触れた人と視界を共有できる。
・どちらも最長1時間程度。