七話 地に堕ちる白翼
〜前回のあらすじ〜
悠翔たちはバーベキューや花火をして夏を満喫していた。
しかし、天使の襲撃により非日常が始まった。
僕はルウちゃんと手を繋いだまま、全速力で縁側に向かって走っていた。縁側には姉ちゃんがユウくんを抱えて待っている。
後方では海戒さんと大男の、拳と拳のぶつかり合う鈍い音が響き合っていた……
「姉ちゃん――」
縁側に辿り着いたその時、背後から凄まじい音が響き渡る。何かが爆発したような、粉々になったような激しい音だった。
――すぐに後ろを振り返ると、木製の大きな門がバラバラに吹き飛ばされている。その奥には二人の人影があった。
「山風、派手に壊し過ぎですよ」
「仕方ねェーだろ共輔、そういう力なんだからなァ」
「やれやれ」
「それより迅先輩、置いて行かねェーでくれ!」
門の方から聞き覚えのある嫌な声が聞こえた。
海戒さんと戦っている最中の大男は、瞬時に距離を取り顎髭をいじりながら口を開く。
「我に指図か? アラシ、二度目は無いぞ。獲物は任せたぞ、アラシとキョウ」
――その瞬間、海戒さんが背面から拳を穿つ。
拳は空を切り、纏っていた水が飛散する。
そこに居たはずの大男は、逆に海戒さんの背後を取り大きな足を目一杯引いている。
大きな足はバネのようにしなり、強烈な蹴りを放つ――背中に直撃した海戒さんは、遅れてきた二人組の間を抜けて、道路まで吹き飛ばされていく。
「とんでもねェー、迅先輩任せてくれ……ください」
「山風は、考えてから話すと良いですよ」
「キョウ、異能力はもうよい」
「……先輩分かりました。解除しますよ」
爽やかな黒髪の男は、目を擦り眼鏡をかけ直す。
この人達は公園の時の二人組。くすんだような金髪の男は左腕をギプスで固定している。
そして爽やかな雰囲気の眼鏡の男、この人はルウちゃんと約束していたはずなのに……
「ハルトォォー!! 早く行け!!」
「でも……」
……海戒さんが幾ら強くても、三対一で勝てるかどうか分からない。僕も異能力を使えていたら。
――その時、金髪の男が僕達の方に気がつき、あの時と同じようにナイフを片手に走り迫ってくる。
「左腕の借りをォ返してやる!」
「行かせないぜ!」
海戒さんが金髪の男に向かった瞬間、刈り上げの大男が壊れた門の柱を持ち上げると、高く跳躍して海戒さんを押さえ込む。
「お主の相手は我だ。ここで観戦仕様じゃないか」
「海戒さん!!」
「くっそ……」
大男は柱の上に股がり、海戒さんの身動きを完全に封じていた。
「さすが迅先輩だな、これで後は餓鬼だけだ!」
「今回は自分も参加しますよ」
「トドメは俺が刺すからなァ!」
「…………」
後ろを振り向くと、姉ちゃんが不安そうな表情でユウくんを抱きしめている。
海戒さんの身動きは封じられた。この二人は僕とルウちゃんで何とかしないと……
――姉ちゃんとユウくんを護らなきゃ!
まだ試せていないイメージで、推測した異能力が使えたら……勝てるかも。その為には接近戦に持ち込まないといけない。
だけど、もし失敗したら確実に刺し殺される。前みたいなラッキーパンチはありえない。
「ルウちゃん! 僕が囮になって男を引きつけるよ。合図したら思いっきり攻撃できる?」
「ハルハル……できるよ、一撃で仕留めるよ〜!」
僕とルウちゃんは拳を握りしめ、二人組の男の方へ立ち向かう。
「あの時の雑魚ニィちゃんか、テメェーは邪魔だ! オラァ」
金髪の男は右腕を振り払い、砂埃を巻き上げる。
これじゃあ近づけない……この男の異能力は、たぶん掌から風を出す異能力だろう。公園では風圧を利用した遠距離攻撃を仕掛けてきた。
接近戦に持ち込むにはどうしたら。
「オラオラオラァ!」
男は右腕を振りまくり、砂を飛ばしまくる。
そういえば、さっきからこの男の行動は短絡的で感情的だ。そう思い口を開く。
「僕はもう弱くないぞ。お前なんかに負けない!」
この男は感情が高ぶると、異能力を忘れてナイフを使った攻撃を仕掛けてくるはず。
――フハッハ!
くすんだ金髪の男が、口角を上げて高笑う。
「お前なんかに負けないッ! ハッハハ!
気合い入ってるな……雑魚が調子乗ってんじゃねェーぞ! オラァ」
男が鬼のような形相で、ナイフ片手に走り迫る。
予想通り接近戦に持ち込めた。チャンスは一瞬、落下した時の記憶を思い返す……
男はナイフを振りかぶる。
「死ねェェエエーー!!」
――ギリギリまで追い込んで、重く……重たく。
僕は勢いをつけて、右掌を地面に叩きつける――瞬間、ゾウに押し潰されているかのような重さを、全身に感じる。
男は地面に腕をつけ、這いつくばっていた。
推測した異能力が上手く使えた! だけど、自分も重たくて動けないのか。
「うッ、動けねェ!?」
「今だー!!」
僕の合図で高く跳躍したルウちゃんは、男の真上で宙返りしながら踵を振り落とす。
「スタードロップ・マジカルアタック!」
男の脳天を直撃すると同時に、異能力を解くと力尽きるように男は倒れた。
「ハルハル〜すごい! 空中ですご〜い重くなって、そのまま振り下ろしたらすごい威力だったよ〜!」
「うん!」
自分の右手を見つめて、グーとパーを交互に繰り返す。これが天使の力……異能力。
推測通り、重力を操る異能力だ。
僕は右手を強く握りしめて、口を開く。
「よし、次は眼鏡の男を倒すよ、ルウちゃん!」
「りょ〜かい!」
〜異能力メモ〜
岩畳 山風(金髪の男)の異能力!
・掌から風を放出する。
・小さな鉄球を吹き飛ばせる。
・強風を放つと肩を痛める。