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神託の黒翼 〜異能力は神託から〜  作者: 秋涼詩音
神託の天使篇 ―Oracular angel―
7/9

六話 非日常の中の日常と

〜前回のあらすじ〜

海戒カイカイ瑠雨ルウ(ルウちゃん)から、天使の力と異能力について教えてもらった。

それから数日後……

 

「ハルハルやっと来た! 遅いよ〜!」


 家の門の前でルウちゃんが、元気いっぱいに手を振っている。今日はルウちゃん達からバーベキューに誘われて、堕天使のアジトに遊びにきた。

 最近はちょくちょく通っていて、海戒カイカイさんと一緒に筋トレや異能力のイメ(イメージ)トレをしている。


「ルウちゃんおはよう」

「おはよ〜! 早く入って入って〜」


 門をくぐると風情溢れる庭で、ユウくんが学校で育てたアサガオにジョウロでお水をあげていた。僕のことに気がつくと、笑顔で駆け寄ってくる。


「ハル兄おはようなの」

「おはようユウくん」


 最近、ユウくんからハル兄と呼ばれている。可愛い弟が出来たみたいで、呼ばれるたびにほっこりする。


「ハルハル、アコアコは〜?」


「学校に用事があるから少し遅れて来るって」


「それじゃあ〜アコアコが来るまでに、準備終わらせちゃお〜!」

「ちゃお〜!」


 ルウちゃんとユウくんが元気に拳を上げた。

 改めて二人の格好を見ると、オーバーオールに同じ白いTシャツを着ている。お揃いで可愛らしい。


「おっ! ハルト遅いぜ」


 後ろから海戒さんの声が聞こえて振り向くと、白いTシャツにオーバーオール姿で立っていた。

 普段持っている木製おたまの代わりに、今日はトングを持っている。


「……海戒さんおはようございます」


「相変わらずだな。ハルトもこれに着替えな!」


 海戒さんは縁側から服を持って着て、僕に押し付けるように渡してきた。

 受け取った服を見ると、背中にふっくらしたブタのイラストがプリントされているTシャツと、オーバーオールだった。


「えっ!? ええーー!!」




 * * * * * * * * * *




「貴様の……大切な者を……」



 何処かで聞き覚えのあるような、中性的で威圧感のある声が聞こえてくる……



「護ってみろ…………力を――」



 ――一瞬、強い頭痛が走った。

 体を起こして頭を抑えると、するりと濡れたタオルがおでこから落ちる。


「ハルちゃん大丈夫?」


 姉ちゃんが心配そうな顔で覗き込んできた。

 僕は状況が分からず、周囲を見渡す――縁側えんがわの隣の和室で座布団を敷いて寝ていたようだ。


「あれ? そういえばバーベキューは?」


「覚えてない? ハルちゃん、バーベキューの途中で倒れちゃったんだよ。水無月ミナヅキさんは熱中症じゃないか、って心配してたよ」



 ……記憶を正確に思い出して見ると、美味しいお肉を食べたし、スイカ割りもして食べていた。

 それでテンションが上がって、久しぶりにはしゃいじゃって、目眩がして倒れたんだ。


「思い出した!」

「良かったー、ちょっとお水取ってくるね!」

「うん」


 再び座布団に寝転がると、ズボンのポケットに硬い物が入っている感じがする。ポケットに手を入れて、それを取り出す。


 手に取ったのはスマホだった……何気なくカメラロールを見てみると、そこにはみんな同じ服装で撮った写真がたくさんある――中にはルウちゃんや海戒さんの変顔もあって、笑みが溢れた。


 変顔……もうやらなくなったなぁ。


 カメラロールを見ていくと、中一の時に友達とふざけて撮った変顔の写真がたくさん出てくる。


 また学校に行こう、と思った。



「ユウ待て〜〜!」

「わぁー! ルー姉ちゃん」


「ユーとルー、待て〜!」


「きゃーー! カイカイだ〜!」

「カイ兄だ〜!」


 縁側を挟んだ庭の方から、楽しそうな声が聞こえてくる。体を起こして庭を覗くと、ルウちゃんとユウくんと海戒さんが追いかけっこをしていた。


「あっ! ハルハル起きてる〜!」

「ハル兄捕まえるの〜!」

「おっハルト、もう大丈夫そうだな」


 三人全員が駆け寄ってくる。それと同時に姉ちゃんが水を持って来てくれた。


「はいっ、ハルちゃん」


「ありがとう」



 水を飲んでいると、海戒さんが微笑ましそうに見つめてくる。


「ハルトは良い姉ちゃんを持ったな! 倒れている間ずっと隣で看病してたんだぜ」


「お互い様だよね、ハルちゃん」


 姉ちゃんの満面の笑みに、胸が熱くなった。


「……ぅん」



「さーて! 片付けして、花火をするぜ!」

「いぇ〜い!」

「やるの〜!」




 * * * * * * * * * *




 小さく弱々しく燃える光の玉から、力強い火花が散っていく……

 最後の瞬間まで、火花を散らす光が地面に散った。


「あっ」


 残った導線を持ったまま、ゆっくり顔を上げる。

 他の四つの線香花火は、まだ落ちていなかった……



「あっ」

「あっ」

「あっ」


「あっー!」


 テンポ良く続けて火球が落ちた。


「ルーが一番長く続い――」


 ――突然、海戒さんが鋭い目つきで、ルウちゃんの体を突き飛ばす。


「伏せろーーーっ!!」



 バランスを崩しているルウちゃんの手を取り、出来るだけ低く、小さくしゃがむ。

 ――衝撃音とともに砂が舞い上がり、とっさに目を瞑る。


 直ぐに目を開いて後ろを振り向くと、海戒さんの両手に水が纏っており、拳を構えていた。


「天使だ!! 全員アジトへ避難しろ!」


「ルウも戦うよ〜!」


 ルウちゃんが立ち上がって一歩踏み出す。瞬間――顎髭を生やし両サイドを刈り上げた大男が、ルウちゃん狙って拳を振るう。



 ゴン!!


 鈍い音が響く。



「子供に手出すな」


 大男の拳と、水を纏った拳が衝突して、水しぶきが飛んでくる。


 ――一瞬のまばたきのうちに激しい音が轟いた。

 目を開くと海戒さんは、木々の中に吹き飛ばされていた。海戒さん! と叫ぼうとしたが、その場の空気に恐怖し声が出せなかった。



 僕も……戦わなきゃ……護るんだ。



 体格のいい男の背を目の前に、拳を握りしめて足を動かそうとした……


 ジリジリと、砂と靴が擦れ合う。


 その瞬間、男の瞳が映り込んだ。僕を見てるようで見ていないような、暗く漆黒の瞳をしている。


 ――刹那せつな、僕の瞳には大男の大きな拳が映る。

 あまりにも速く恐ろしい拳に、立ち竦む。


「ハルトォォー!!」


 体が軽く吹き飛ばされて、海戒さんの叫び声で竦みが解ける。大きな拳を僕に代わり、必死に受け止めていた。


「ハルトみんなを頼んだぜ!」


 そう言うと、軽々と大男を蹴り飛ばした。



「はい! ルウちゃ……」


 僕はビクビクと震えているルウちゃんの右手を、優しく握りしめる。

 公園の時はあんなに強かったルウちゃんが、ここまで怯えているなんて……あの大男、格が違う。


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