五話 天使の力と異能力
〜前回のあらすじ〜
堕天使のアジトで水無月 海戒と、紗鏡 結雨(ユウくん)と出会い、夜も遅く泊まることに。
……違和感を感じて目が覚めると、身体が重い。
いや、体に何か乗っかっている。
目を開けると体の上に、可愛い寝顔で涎を垂らしたルウちゃんがいる。
「……ルウちゃん? 何でこの部屋に?」
――昨夜ルウちゃんに、二階の空いてる部屋に案内してもらい、僕と姉ちゃんは布団を二枚敷いて、同じ部屋で寝ていた。
その後ルウちゃんとユウくんは自分達の部屋に行ったはずなのに、どうして今僕の上に……
「ルウちゃん起きてー!」
……声をかけても全く起きる様子が無いので、体を揺すろうと思った時、両手が何かに掴まれている感覚に気がついた。
重たくて柔らかい……右側を向くと姉ちゃんが胸を押し当て、僕の腕に抱きついている。
急に頬が焦げるように熱くなり、身体中が熱い。
深呼吸をして左側を向くと、ユウくんも腕にしがみついている。
「ハルちゃん……」
「ハルハルとアコアコと……一緒に寝る〜」
「寝るの〜ぼくも一緒に……寝るの」
三人の寝言を聞いて、朝から微笑ましい気分。もう少し、このままでいよう。
――ドスーン! と鈍い音と共に、真上から分厚く重たそうな本が僕の顔に向かって落ちてくる。
とっさに避けようと思ったが、体は起き上がれず両腕も塞がれていたんだった。
「ルウちゃん! ユウくん! 姉ちゃァァアア!!」
* * * * * * * * * *
「みんなおはよう! おっ!? ハルト、姉ちゃんと一緒に寝て興奮でもしたか?」
「違います」
鼻にティッシュを詰めた僕を見て、海戒さんはニヤニヤしながら揶揄ってきた。
右腕に抱きついていた姉ちゃんを思い出して、少し鼓動が速くなっている。
「ハルハルごめんね〜、ルーが上に乗っかってて」
「あっ! ルーと一緒に寝て興奮したのか〜」
「違います。分厚い本が落ちてきて、避けそびれたんですよ……」
ニヤニヤしながら揶揄ってくる海戒さんに少しムカついて、素っ気なく答えた。
「わるいわるい、なんか揶揄いたくなってな」
「分かります、分かります! ハルちゃん見てると、たまに揶揄いたくなりますよね〜!」
「えっ、姉ちゃん!?」
「なるなる〜!」
「なるのー」
「えっ! ルウちゃんとユウくんも〜」
みんなの笑い声が広い和室に響いていた。
* * * * * * * * * *
朝ご飯に昨日の残りを食べた後、海戒さんに連れられて、家の一番端の小さな和室に案内された。
海戒さんは持っていた木製のオタマで畳を叩く。
トントン!
すると、畳が勢い良くクルッと縦に回り、地下へと続く階段が現れた。
「隠し階段だぜ!」
「すごい!」
「足元気をつけてな」
「はい」
海戒さんの後に続いて、薄暗く段差が高い階段を、慎重に一歩一歩降りる。
……少しして軋む音と同時に、畳が自然と閉まっていく。ほとんど何も見えない暗さの中、壁に手を当て慎重に降りて行く。
段々前が薄明るくなってきて、海戒さんがささっと降りると大きな空間が広がっていた。
「ジャーーン! ここが真の堕天使アジトだよ〜!」
「ルウちゃん、いつの間に」
「カイカイに呼ばれたんだ〜!」
ルウちゃんはソファーの上で足を伸ばして、寝転ぶように寛いでいた。
――それにしても綺麗なアジト。壁も床も高い天井も、色彩豊かなパステルカラー色。
壁や天井に埋め込まれた電球からは、暖かい電球色の光がアジトを包み込んでいる。
ソファーやテーブルなどの家具と、筋トレ用の器具がまとめて置かれている奥は、広いスペースになっていた。
起き上がり姿勢を正したルウちゃんに、手招きされて僕は隣に座った。
「さて……ルーとハルト、昨日何があった?」
壁にもたれ掛かる海戒さんが、声色を変えて尋ねてきた。
ルウちゃんは昨日起こった出来事を話し、僕は三日前の出来事から丁寧に説明した。
「なるほど、ハルトは三日前に天使になったばかりで、昨日ルーと出会った。
ルーはハルトが気になって跡をつけていた……が、ファミレスでご飯を食べているうちに、見失ってしまい。駆けつけた時には、ハルトは傷だらけだったのか」
「うん……ハルハルごめんね、ルーのせいで――」
「そんな事無いよ。ルウちゃんが助けに来てくれなかったら、姉ちゃんが危なかったし、助かったよ。ありがとう」
「ハルハルぅ〜!」
ルウちゃんが涙声で、膝に飛び込んで来た。
それにしても、ずっと跡をつけてくれてたなんて、全然気がつかなかった。そういえば、ファミレスで感じた視線もルウちゃんだったのかな。
「良かった良かったぜ! だがルー、戦う場所が公園じゃなかった時の事も考えていたか? 自分の異能力の制限を、忘れないようにな」
「は〜い!」
「ルウちゃんの力って、それに天使の力はどうやったら使えるんですか?」
海戒さんはそっと壁から背を離し、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
目の前にあるテーブルを挟んだ、反対側にあるソファーに座わり、人差し指を立て口を開く。
「その前に一つ約束だぜ。天使の力は自分や仲間を護る為だけに使うと、オレと誓ってくれ……誰かを殺める力では無いぜ」
澄んだ青い瞳は、僕ではない誰かを見ているようで、戒めるよに話す。
「どんな理由であれ、人を殺すな……」
「僕は今は弱いけど……強くなって、姉ちゃんやルウちゃんやユウくんを、みんなを護りたい。自分や仲間を護る為に力を使います!」
僕の返事を聞いて、海戒さんは顔を緩めた。
「よし! 天使の力はどうやったら使えるか、か。
まず、天使の力の能力を、異能力とオレ達は呼んでいる。一人一人与えられた力によって、全く違う異能力を持っているだ!
その為発動条件がバラバラであり、使えるようになるまでの個人差が大きいぜ」
「ルーは天使の力を使うのに、一ヶ月かかったよ。
ルーの力わね〜水に映った物を見たとき、好きな方向に反射させる異能力だよ〜!」
水に映った物を反射させる異能力……なるほど、だからあの時、噴水の水面を見ていたんだ。
それで鉄の球が反射されて、逆再生のように飛んでいたのか。
――発動条件は難しいどころか、かなり限られている。水が無い所では使えないし、水面が見えなくても使えない。
「扱いづらい異能力だね」
「ルーの異能力は発動条件が厳しいが、かなり強い異能力だぜ。
さて、問題のハルトの異能力だが、話から推測すると硬化や軟化、もしくは超速回復だろうな」
「なるほど……」
――硬化や軟化、この二つの可能性は高い。体を硬化や軟化させたら、無傷な理由も頷ける。
超速回復だったら僕は一回瀕死だったのかな?
「それで、異能力を使えるようになるには、どうすればいいんですか?」
「いきなり使えるかはセンス次第だぜ。とりあえず、屋上から落下した時のことと、推測した三つの異能力をイメージしてくれ」
「分かりました」
両目を瞑り、落下の瞬間を思い出す。そして、体が硬く鉄になるイメージ!
……グミのように柔らかく!
……妖精に癒されるような感じ?
「……全然ダメです。海戒さんとルウちゃんもイメージで使えるようになったんですか?」
「オレは戦いの中で使えるようになったが、その時は調整が全然出来なかったぜ。その後イメージを繰り返して、まともに使えるようになったな!」
「ルーわね〜池に映る飛行機で!」
「えっ!? それって……」
「危うく墜落させかけたらしいぜ……ともかく、ハルトはどんな異能力かある程度推測できるから、推測とイメージだな!」
「はい!」
〜異能力メモ〜
紗鏡 瑠雨(ルウちゃん)の異能力!
・水に映った物(生き物不可)を反射させる。
・好きな方向に反射出来る。
・反射する速度も変えられるらしい。