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神託の黒翼 〜異能力は神託から〜  作者: 秋涼詩音
神託の天使篇 ―Oracular angel―
3/9

二話 堕天使少女は天使な美少女

〜前回のあらすじ〜

奇妙な夢を見た悠翔ハルトは、夢の中で神に『天使の力』を与えられていた。

天使の力のお陰か、奇跡的に助かった悠翔の前に現れたのは、堕天使・・・と名乗る美少女だった。

 

「……堕天使だよ?」


 自分の耳を疑い、そのまま聞き返す。


「堕天使だよ〜! 堕天使」

「……堕天使って?」

「カッコいい天使だよ〜! お兄さんも力、持ってるんだよね〜?」


 お兄さんも(・・・・・)って……堕天使って言ってたけど、少女は天使の力について何か知っているみたい。信用は出来ないけど、力について少しでも情報は欲しい……


「力持ってるよ、どんな力だと思う?」


 僕は無理につくった笑顔で尋ねた。

 少し前の少女の発言から、天使の力が一種類の限られた力ではなく、色々な種類の力があると思う。

 だったら僕がどんな力を持っているか、推考すいこうしてもらおう。


「不死身!」

「えっ! そんな力あるの?」

「分かんな〜い、天使の力はみんな違うからね!」


 少女は首を傾けて、ニコッと微笑んだ。


「正解はどんな力なの〜?」

「えーっと……」


 気がついたら少女のペースになっていた。それに、純粋無垢な少女かもしれないと思い始めている。

 本当のことを話したら、詳しく教えてくれるかもしれない。

 ――だけど、堕天使・・・が妙に引っかかる。

 そもそも天使は僕の敵になり得る存在。堕天使なんて、それよりも危険な存在に……



「困った顔ばっかりしてるけど、だいじょうぶ〜? ルーでよければ助けてあげるよ〜!」


 少女が屈託くったくのない笑顔を向けてくる。

 たぶらかされているのか、純粋に心配してくれているのか、どっちか分からない。

 考えれば考えるほど迷宮に入っていく……


『堕天使』――様々な理由から主なる神に反逆して、天界を追放された天使。

 堕落した天使は悪魔と呼ばれる場合もある。

 以上のことから、天使よりも悪い印象を持っている人が多いはず。僕もそうだ。


 ――だけど、神が悪で、天使も悪なら……


 堕天使はなのか? なのか?



「ルーでよければ助けるよ〜?」


 少女は心配そうな顔でもう一度尋ねてきた。

 善か悪かはどっちでもいい、少女を危険な事に巻き込んでしまうのはダメだ。


「ごめん! 助けてくれて、ありがとう」


 僕はそう言い捨てて、一目散に走った。

 姉ちゃんが心配だ! 今日この時間は、ファミレスでバイトをしていたはず……


 ――僕が姉ちゃんを護るんだ。




 * * * * * * * * * *




 家から自転車で5分ほどの距離にある『天馬公園』の隣に、姉ちゃんが働いてるファミレスがある。


 僕は物静かな公園内を走り抜けて、ファミレスの前の信号で止まっていた。


「はぁぁ……はぁ、疲れた」


 赤信号で止まったが車は一台も通らない。後ろから歩いてきた男性が、信号を無視して横断歩道を渡っていく。

 ファミレスから出てきた三人の女子高生も、平然と道路を横断する。

 普段は何とも思わない光景に、なぜか気に障る。



 横断歩道を渡り終わると、接客している姉ちゃんの姿が見えて気が休まる。

 ドアを引くと冷房の効いた空気で、汗をかいた体が冷やされて涼しい。同時にチャイム音が鳴り響いて、いち早く姉ちゃんが反応する。


「いらっしゃいま――ハルちゃん、いらっしゃい! お店に来てくれるの、久しぶりだね。もしかしてパパも一緒?」


 姉ちゃんは恋人でも探すみたいに、周囲を見渡す。


「……一緒じゃないよ」

「じゃあハルちゃん一人で来てくれたんだね」


 がっかりするかと思ったけど、姉ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた。店内は家族連れが多く、賑やかで懐かしい雰囲気を深く感じる。


「一人で来るの初めてだよね。席ここでいい?」

「うん」


 僕は姉ちゃんに案内してもらい席に着いた。四人用のテーブル席に一人は寂しく、気恥ずかしい。


「ご注文決まりましたら、お呼びくださいね」

「――姉ちゃん!」


 姉ちゃんは不思議そうに顔を向ける。

 僕の声で姉ちゃん以外の視線も集まってしまった。


「……バイト終わったら、一緒に帰ろうよ」


 視線が集まり恥ずかしく、姉ちゃんにだけ聞こえる吐息のような声しか出なかった。


「22時までで、遅いから――」

「大丈夫、待っとくよ」


「先に帰っていても、いいからね」


 少し心配そうな表情で、姉ちゃんはテーブルを去っていった。






 会計を済ませた僕は、ファミレスの駐車場で姉ちゃんを待っていた。

 冷房で冷えた体に、生温い夜風が心地いい。自然と体を大きく伸ばしたり捻ったりしていた。


 少しして建物の奥から、ラフな格好の姉ちゃんが自転車を押しながら歩いてくる。


「ハルちゃんお待たせ! ホントにこんな時間まで、待っててくれるなんてね」

「家に帰ってもする事何も無いし……姉ちゃんバイトお疲れ様」

「ふふっ、ありがとう」


 姉ちゃんが照れ笑いすると、僕もつられて口角が上がった。


 横断歩道を渡り、僕達は公園に入った。

 公園は物静かで所々にある街灯が、微かな光りで道を照らしている。遊具が設置されているスペースには街灯がなく、公園の中心にある噴水は、月明かりに照らされて静かに輝いている。


「姉ちゃん、土日って暇?」

「どっちも空いてるよ! 久しぶりに、一緒にどこかにお出掛けする?」


 姉ちゃんは嬉しそうに笑顔で尋ねてくる。だけど、外出は避けたい。


「出掛けるより、家で一緒にゲームでもしたいかな」

「出掛けようよー。ハルちゃんの新しい服買ったり、駅前の美味しいクレープ屋さんに行ったり……」


 姉ちゃんがワクワク話す中、一定のリズムを刻んで自転車のチェーンが音を鳴らしている。


「ゲームセンターに行って、UFOキャッチャーで何か取って貰いたいな。ハルちゃんゲーム得意だもんね。で、その後に……」


 僕は相槌あいづちを打ちながら、姉ちゃんを説得して、明日家で過ごす方法を考えていた。



 少ししてチェーンの音が聞こえない事に気付く。


「姉ちゃん?」


 横を向くと姉ちゃんが居らず、正面を確認するも、噴水と滑り台などの遊具があるだけだった。まさか、天使が姉ちゃんを――

 ……僕は息を呑み、後ろを振り向く。


 自転車の前輪を浮かそうとしている、姉ちゃんの姿があった。安心してホッと息が抜ける。


 しかし、背後から二人組の男が歩いてくるのが見えて、再び緊張感が全身に走る。僕は嫌な予感がして、すぐ姉ちゃんの元へ駆け寄る。


「姉ちゃん大丈夫?」


「ちょっと段差に引っかかっちゃった」


 僕は自転車を持ち上げながら、横目で二人組みの男を目視する。

 片方の男は柄の悪そうな面構えをしている。もう片方の男は、爽やかな髪型で眼鏡を掛けていて、対照的な二人だと思った。


 ――そのとき、柄の悪そうな男と目が合ってしまい、鋭い瞳に僕は凍りつくような感覚に襲われる。


 男は不敵な笑みを浮かべていた。


「ラッキー、黒翼発見! 共輔キョウスケ手ェ出すなよ」


山風アラシに任せますよ」


 先ほどの嫌な予感が的中した。

 目が合った男は、ポケットから何かを取り出しながら、殺気立った顔で走り迫ってくる。

 姉ちゃんは異様な気配を感じたのか、素早く背後を振り返った。




 ――考えるよりも先に体が動いていた。


 姉ちゃんの悲鳴が、物静かな公園に響き渡る中で、僕は片目を閉じ拳を振るった。


 視線を拳に向けると、男の手から小さな刃物が吹き飛んでいる。運良く拳が手首にヒットしたようだ。

 僕でも姉ちゃんを守れる。『天使の力』があるお陰か、謎の自信が生まれてい――


 気が緩んだそのとき、胸がむかむかする不快感を覚え、強烈な痛みが腹部を襲う。


「テメェーいきなり何すんだ? オラァ」


 痛みと恐怖の影響かな? 体がすくんで動けない。

 それでも容赦無く、強打を浴びせられる。


「ハルちゃん!」

「姉ちゃん! 逃げてッ!」


 必死に声を荒げるも、姉ちゃんは僕の側を離れようとしない。

 使った記憶も無いのに『天使の力』があるから、何とかなると、どこかで思っていた自分が馬鹿だった。

 だんだん意識が遠のく……



「ニィちゃんシスコンか? ネェちゃんを護れなくて残念だな、後でお前も同じ所に送ってやるよォ!」


 曖昧な意識の中、姉ちゃんの悲鳴がハッキリと脳に届き、気力で男の足に飛びつく。

 しかし、軽々と蹴り転がされて低い壁に衝突する。不快感を覚え、直後に口から赤い液が飛び散った。


「あぁうぜー、テメェーから先に死ねェ!」


 ぼやける視界で、石を握る男の姿を認識できた。

 石を投げつけてくるのか……頭に直撃したら死ぬのかな?


 ――目の一寸先に石がある。



 死を直感的に悟った瞬間、屋上から落ちた時と同じような、時間がゆっくりになっていく感覚だ。


 男は『天使の力』を使って、石を一瞬で飛ばしたのかな? 僕にも力が使えたらなぁ。


 姉ちゃんを護りたい。

 姉ちゃんを護れる力を。


 僕にも天使の力を――



 ――僕の目先で真っ白い布がひらめく。


 瞬きをして目に集中すると、足を蹴り上げた少女の姿が瞳に映った――夕方に出会った、透き通るような肌の美少女だった。


「お兄さん、お礼のお返しに来たよ!」


 少女が優しく微笑んだ。

 その姿はやはり天使のようだった。


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