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神託の黒翼 〜異能力は神託から〜  作者: 秋涼詩音
神託の天使篇 ―Oracular angel―
2/9

一話 神に選ばれし者

〜前回のあらすじ〜

廃墟の校舎の屋上から、事故で落下した悠翔ハルト

話は三日前にさかのぼる。


 〜三日前の朝〜


 頬に硬い物がぶつかり目が覚める。目を閉じたまま手で触ると、すぐにスマホだと分かった。


 ぼやける視界で時間を確認した――6時42分、7月8日水曜日。

 普段なら二度寝している時間帯。だけど今日は、重たい体を持ち上げてベッドを降りた。


 階段を降りてリビングへ行くと、父さんが一人で朝ご飯を食べている。

 母さんが居なくなってから、父さんとは口を利かなくなった。なので、二人きりは気まずい。

 僕は台所の菓子パンを手に取ると、一番離れた席に着いた。



『――続いてのニュースは、『東京に潜む闇』です。

 近年東京都で、急激に増え続ける行方不明者。その多くが動機、原因が不明の為、犯罪に巻き込まれている可能性が高い状況です。

 警察は、深夜に一人での外出を避けるように呼びかけています。

 不安と恐怖が高まる中、日本の警察に対する――』


 テレビが消え微かに電子音が聞こえた。

 父さんはリモコンをテーブルに叩くように置くと、荷物を持って足早にリビングを去っていく。


「行ってきます」

「…………」


 階段を軽快に駆け降りる音とともに、明るい声が聞こえてくる。


「あっ、パパ行ってらっしゃい!」

「行ってきます」


 リビングの扉に目を向けると、すらっとした長い足に魅せられる。

 視線を上げるとふっくらした胸元まで、チョコレートカラーの髪がふんわりと伸びている。

 さらに視線を上げると姉ちゃんと目が合い、すぐに目を逸らす。


「ハルちゃんおはよう、早起き偉いね!」


「……おはよう姉ちゃん」


 美人な姉ちゃんに笑顔を向けられて、早起きして良かったと思った。

 姉ちゃんは僕より三つ年上で、今年高校二年生になった。僕と違い運動も勉強もできる姉ちゃんに、憧れと少しの好意を抱いている。


「ハルちゃん夏服どう? 可愛い?」


 そんな好意を知りもしない姉ちゃんは、一回転して僕に夏服を――白いシャツに赤いリボンが付いていて、シャツをスカートの中に入れている――見せびらかしてくる。


「……う、うん」

「ありがとう」




 楽しく会話をしているうちに、姉ちゃんが学校に行く時間になった。


「それじゃあ、行ってくるね。ママの事は警察官のパパが絶対に見つけ出してくれるから、ハルちゃんは早く元気出して学校に行こうね!」


 姉ちゃんに励まされるも、喪失感は無くならない。まだ上手く笑えず、作り笑いで姉ちゃんを見送る。


「姉ちゃん行ってらっしゃい」


 僕は自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転びながらアプリゲームを開く。

 あれ? メンテナンス……終了予定時間は10時か、早く起きたし、それまで寝てよう……




 ――気が付いたら、赤紫色と青紫色でグラデーションされている綺麗な世界。


 一人ポツンと立っている。


 周囲を見渡しても何も無い。音も無く風も無く、匂いも無い。

 そんな不思議な世界に、僕は一人で立っていた。



 ――突然、僕の目の前が真っ黒に染まる。いや、真っ黒い影が現れる。


『我は神だ(・・)、貴様に五九天使の力をやろう』


 聞き覚えの無いノイズの掛かった声が、頭に直接聞こえてきた。

 目の前の真っ黒い影が震えている。その影が話しかけて来たのかな?

 まだ状況を理解出来ていない中、再び声が響く。


『貴様がこの世界に不要だと思う人間を、59時間(・・・)以内に一人殺せ……我が与えた天使の力を使っても構わん。

 殺せ無かった場合、貴様の一番大切な人間が天使の導きによって……この世界から消えるだろう』


 話が終わると、真っ黒い影が僕を包み込んだ――



「うわっ!!」


 迫り来る黒い影に驚き、跳び起きた。


「……夢か」






 その後、特に夢のことを気にせず考えず、過ごしているうちに二日・・が過ぎた朝。


 昨晩遅くまでゲームをしていた僕は、寝付けずに日の出を迎えていた。

 朝になったが起き上がらずにだらけていると、急に強い痛みが頭を締めつける。

 ――とっさに顳顬こめかみを手で抑えた。


 眠らずにゲームをやっていたせいだと思っていたが、すぐに痛みの原因が判明する。脳に鈍いノイズ音が響き渡る。


『貴様がこの世界に不要だと思う人間を、12時間(・・・)以内に一人殺せ……天使の力を使っても構わん。

 殺せ無かった場合、貴様の一番大切な人間が天使の導きによって……この世界から永遠に……永遠に消えるだろう――』


 二日前に見た夢の声と同じ声が聞こえてきた。しかし、今は現実。それに、夢の中とは少し内容が違っていた。確か59時間以内だったはず……


 ――強い胸騒ぎがして、夢の出来事を思い出しながら頭の中を整理するも、すぐにパンクしてしまった。



 しばらくして僕はペンを持ち、机の上の紙にメモを取った。メモを取ることで考えがまとまった。


 だけど分かった事は、信じ難い絶望だった。


 ・僕は天使に選ばれた?

 ・他の天使も、選ばれた人間なのかな

 ・天使の力? 謎

 ・天使の導きとは……殺し?

 ・増え続ける行方不明者

 ・僕の一番大切な人は姉ちゃん


 ・姉ちゃんの命を救うには、僕がこの世界で不要だと思う人間を、殺さないといけない!



 神は僕の心を読めるのかな?

 神には僕の考えが分かるのかな?


 神は残酷だ。

 僕がこの世界に、不要だと思う人間。

 それは……



 ――僕自身だ。


 勉強も運動も普通以下、何の取り柄もない。母さんが居なくなると、学校にすら行けなくなる。

 なんの取り柄もない僕は、この世界に必要とされていないんだ……


「姉ちゃんは……絶対に巻き込まない!」


 スマホを片手に、勢い良く部屋を出た。



 ――ひらりとメモ用紙が舞い、ゆっくり地面に落ちる。天使の文字が、濡れてにじんでいる。




 * * * * * * * * * *




 〜そして現在〜


 意識が朦朧もうろうとする中で、まるで天使のような心地よい声が聞こえてくる。


「ねぇねぇ」


 重たいまぶたをゆっくりと開くと、可愛らしい美少女が僕の顔を覗き込んでいる。


「ねぇねぇ、お兄さんだいじょうぶ〜?」


 ミルクティー色のツインテール少女は、微笑みながら手を差し伸べる。

 透き通るような肌、純白のワンピースを着ていて、少女はまるで天使のようだ。


 ――僕は死んだのかな。じゃあ、天使が迎えに来てくれたんだ。

 少女の手を握り起き上がると、少女は不思議そうに僕の体をじっくり見つめ周る。


「もしかして、お兄さんって〜力持ってる人?」

「力? あれ?」


 ふと背後を振り返ると、僕が倒れていたコンクリートの地面が粉々に砕けている。

 僕は恐る恐る背中を触ると、血の一滴も流れていない事と、死んでいない事に気がつく。


「この高さから落ちて無傷って、すごい力だね〜!」


 学校の屋上から落ちて無傷で生きている……常識では考えられない出来事に、驚愕きょうがくしつつも安堵した。

 どうやら神の力……いや、天使の力のお陰で助かったらしいが、力を使った覚えは全くない。


 ふと冷静になると、机のメモを思い出した――僕以外にいる天使の存在を。

 僕が生きているという事は、天使が姉ちゃんを……それに少女は一体何者なんだ!?


「もし……かして、天使?」


 僕は恐る恐る尋ねた。


 少女のサラサラ髪を夜風が揺する。



「天使? 天使・・じゃないよ〜!」


 僕は安堵の表情を浮かべて、ホッとした。

 こんな可愛い女の子が、姉ちゃんの命を狙うはずがない、僕の早とちりだった。


「そうだよね。余りにも可愛かったから、天使かと思っちゃって」


 美少女は優しく微笑むと、耳を疑う言葉を発する。



堕天使・・・だよ」


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