狩り
少し残虐描写が入ります。苦手の方はご注意ください。
――――――夜。
隣に寝ているウルスを起こさないように、こっそり起き上がった。
物音を立てないように慎重に壁際に向かう。……こんな場面を見られたら、二時間は怒られ続けるだろう。
「グウウウウウルルルッ、グウウウウウルルルッ。」
ウルスは完全に寝ている。黙って出て行くと言うと家出っぽいが、別に悪いことをするつもりはない。
―――ウルスは二日前、翼にけがをしているので、狩りをするのも一苦労だ。その体に無理をさせるのいやなので、代わりに狩りをしようと考えたのだ。
……いや、それは建前で、怪我のせいで狩れる獲物の量が減り、二人だと満足に食べられないというのが本音だが。
やっとのことで壁の近くに着く。ウルスが寝ているのを確認した後、壁に手をかける。
以前はウルスの助けがないと、洞穴から出られないと思っていたが、このウェアウルフの身体能力なら登れる気がする。
壁の凹凸に、手と足をのせ、テレビのクライマーを思い出しながら、登っていく。手と足をかける位置と順番にルールがあったかもしれないが、覚えていないので無視する。
予想以上にすいすい登れ、あっというまにてっぺんに到着した。一息ついた後、下の丸まって寝ているウルスに小声で一言告げる。
「いってきます。」
息が落ち着いたところで、周りを見渡す。
ウルスの洞穴は岩山にあったようで、周囲に大きな岩がごろごろと転がっている。人間の足だったら危険だったが、この銀色の足は小石などものともしなかった。
さて、狩りをしようとは考えていたが、こんな岩山では大きい獲物はいないだろう。あまり遠出はしたくなかったが、少し歩いてみないと、生き物を見つけられなさそうだ。とりあえず、この岩山をおりることにしよう。
落ちている石を気にしながらおりると、森が広がっていた。
人間の手が入ってなさそうなうっそうとした森だ。ここなら何かいそうな気がする。
〈がさがさがさがさ〉
―――近くの茂みが揺れた。狼の血が混ざっているからか、闇の中でもはっきりと見える。
獲物の気配を感じ、うずうずしてきた。
本能が狩れといってきている。気配を殺し、茂みに近づく。
同時に茂みから茶色い塊が凄い勢いで飛び出してきた。動こうとする意識する前に、本能で飛びかかる。
「ギャッン!」
茶色い何かを逃がさないように、爪でしっかり押さえ込む。
―――茶色い何かは抵抗して暴れるが、ウェアウルフの力には敵わず、やがて静かになった。
そのまま観察しようと顔の前に持っていきたかったが、手が上がらなかった。
―――気づいたら狼になっており、四本足で立っていたからだ。
仕方がなく、上げるのをあきらめ顔を近づけると今度は勝手に、茶色い何かに牙を立てていた。そのまま、牙を立てた所をかみ切り、流れ出したまだ暖かい血を舐め採る。
「!!」
……つい本能に従ってしまった。
慌てて、口を離すと茶色い何かは動かなくなった。
初めて、生き物を殺した。
今まで、ウルスが狩ってきた魔物の死骸は食べたことがあるが、自分で命を奪うのは初体験だった。
しかし、悲しさや恐ろしさなど感じなかった。この体になった今、これは自然の行為だからだ。
……我ながら適応が早いものだな。
とにかくこれで一匹目だ。ウルスは体がでかいから、こんな小さいのでは足りないだろう。
ちなみに茶色い何かは元の世界のウサギの倍の大きさはある巨大ウサギだった。
獲得した獲物を落とさないようにしっかり咥え、次の獲物を求めて森を進んでいった。