事件
〈バサッバサッバサッバサッ〉
頭上に影が差した―――羽ばたき音からして、ウルスが帰ってきたのだろう。
おとなしくしておくと約束したのに、一人で魔法を行おうとしているのを知られたら、確実に説教行きだな。魔法を具現化するのにはあきらめて、力を抜く。
「場所を空けてくれ!!」
上から焦ったような声が聞こえてくきた。
とっさに後ろに飛び退くと、立っていた場所に巨体が落ちてくる。その衝撃で、わずかに残っていた枯れ草も吹き飛んでしまった。急いで、ウルスの元に駆け寄り、安否を確認する。
「ウルス!!大丈夫!?」
ウルスは翼にけがをしていた。大砲に穿たれたような焦げた穴が所々開いている。穴からは血が流れており、見るからに痛々しい。誰だ、こんなことをしたのは。
「心配ない。少し油断しただけだ。まさかあの距離から撃たれるとは思わなかった。」
弱々しい声で心配ないと言われても信用できない。
「心配するよ!一体どうしたの!?」
撃たれたといっていたが、枯れ草を取りに行くのに人間の街?の近くには行かないのではないか。
「魔槍兵にやられた。もう、こんなところにまで来ているとはな。」
まそうへい?魔法の防具でもしているのだろうか。まそうへいが何なのか気になるが、ウルスのけがの手当の方が先だ。
「ウルス、けがは翼だけ?」
……翼なら、致命傷にはならないはずだ。
「ああ。ここに戻ろうと、飛んでる途中に、魔槍兵に気づかれてな。さすがに胴体を狙っても上空じゃ鱗に弾かれると思い、地上に落とそうと考えたのか、翼に攻撃してきたのだ。そのせいで、うまく着地ができなかった。」
上空ってことは敵は遠距離から攻撃したのか。てことはウルスは魔法にやられた?穴が焦げているから、火系統の魔法だろうか。とにかく、けがの治療をしないと。
「ウルス、どうすればいい?」
こんなに大きな者の手当はしたことがないので、仕方がなくウルスに指示を仰ぐ。
「お前は何もしなくてよい。我はドラゴンだ。こんなもの、我の再生能力ですぐに治る。」
すぐ治ると言われても。ここは異世界なので、いかせんやせ我慢なのか本当にそうなのかが判断できない。
「本当に?」
「本当にだ。」
……まぁやせ我慢だとしても、命に危険はないなら大丈夫だろう。
「しばらくは飛べなくなるな。そもそも、魔槍兵が近くにいるのなら、うかつに外を飛べないかもしれんな。」
確かに穴が開いた翼じゃ飛ぶのはきついだろう。こんな大きいドラゴンに怪我をさせる……確かに外は危険なのかもな。