魔法挑戦
「ウルス、申し開きがあるのなら聞くけど?」
じとっとした目で見ると、慌てたように弁解を始める。
「いやっ!すまない!こんなになるとは思わなかった。別に、大きい炎を見せて自慢してやろうと思って制御をしきれなかったわけではなくてだなっ!!やっ……」
もう一度ため息をつく。こいつは長い時間を生きているくせに、妙に子供っぽい。
「自慢しようとして、見栄張って、失敗したんだ。へぇー。」
そう言うと、ギクッという効果音がつきそうな姿勢で動きが止まった。図星か、やっぱり。
「違う!違うんだ!!我は魔法の制御が苦手で……」
「魔法の制御が苦手で、何?」
口を開くたびに、どんどん墓穴を掘っていく。
「……いう言葉もない。本当にすまなかった。」
しゅんという感じで項垂れるドラゴン。なんだか、悪いことをしているような気分になってきた。ここらへんで止めておくか。
「まぁ、いいよ。別に穴が開いたわけでもないしね。問題があるとすれば、今夜の寝床をどうするかだよ。」
彼は長生きはしているが、独りで生きていたので、あまりダメージを与えると立ち直れなくなりそうだ。
「寝床?ああ、枯れ草か。問題ない。我が採ってこよう。」
―――今がチャンスかもしれない!
「それって一緒につれてってくれたりは?」
そう聞くが、首を振られた。
「それとこれとは別だ。我一人で十分だ。」
先ほどのしょんぼりした様子とは打って変わって、断固として拒否された。
「やっぱり駄目か。」
こんなにきっぱりと断られるとちょっと悲しい。
「……お前がもう少し大きくなって、魔法も使えるようになったら、考えてやらんでもないぞ。」
「大きくなったらってどのくらい?」
「そうだな……あと二つ年をとったらだ。今の状態じゃ、危なっかしく外には出せん。この話は終わりだ。少し行ってくる。ちゃんとおとなしくしておくのだぞ。」
「はぁーい。」
もう少し詳しく聞きたかったが、話は終わりと言われてしまったので渋々見送ることにする。二年後か。そんなに外は危険そうには思えないけどな。
ウルスが飛んでいった上を見上げると、ちょうど太陽が見えた。ここは異世界だが、太陽が二つあったり、紫だったりすることはなく、元いた世界の太陽とそっくりそのままだ。夜は青い月っぽいのが出るので、この世界にも宇宙という存在があるのかもしれない。
さて、ウルスが行ってしまった今、やることがなくなってしまった。
……この洞穴は広いので、その気になれば全力疾走で端から端まで走ることは出来るが、独りでやっても面白くないしな。
悩んでいると、目の前を先ほどの魔法素が過ぎていった。
―――そうだ。魔法にチャレンジしてみよう。
思い立ったら吉日、早速ウルスのように手を出し、魔法素を集めようとする。……集め方が分からない。ただ、魔法以外に時間つぶしの方法が思いつかないので、やるだけやってみるか。
まず、魔力についてだが、実は使ったことがあるかもしれない。運動の時間でウルスが投げたものを追いかけるという遊びをしたことがある。最初はウルスは力が強いので、全力疾走で走っても追いつけなかった。
しかし、あるときから、全力疾走以上の速さで走れることがあった。その時は足がしびれたみたいにピリピリした。
最初に速く走れるようになったとき、「やはりウェアウルフは魔力制御がうまいな。」とウルスが呟いていたので、恐らく、足がピリピリしたときに魔力を込めていたのだと思う。
……確か最初、足がしびれたみたいになったときは、無我夢中で何も意識していなかった。
ただ、ウルスの呟きを聞いてから、いろいろ試してみたところ、足に集中していたときが一番ピリピリした気がする。
足に集中したように、今度は手に集中してみる。
予想通り手がしびれてきて、どういうわけか赤い靄のようなものが、ウルスの手に集まってきたように、私の手にも集まってきた。
良かった。これで魔法素の集め方について考えなくてもよくなったわけだ。