魔法学習
外に出られないなら、何をして過ごすかというと、歩いたり、しゃべれるようになるまではそれの訓練。
歩けるようになった今は外の世界のことをウルスに教えてもらっており、この世界のことを全く知らない私には興味深い時間だった。
実は、ウルスは結構長い時間を生きていて、案外物知りだったりする。
ちなみに、一日の予定を書くとすると、
1、起きたら朝ご飯(ウルスが採ってきた植物や魔物の肉)を食べる。
この世界では意志のあるモンスターを魔族、意志のないモンスターを魔物といい、魔物は食料とする。もちろん、今の私は魔族で、最初は駄目だった生肉も平気で食べられるようになった。
2、勉強をする
3、体を動かす遊びをする。
人間でないこの体、ウルス曰く、オオカミの魔族と人間の血を併せ持つ狼人とオオカミの魔族の子であるウェアウルフという種族の体は、
人間とは比べものにならないほど力も強いし、足も速い。
体中を覆っている銀色の体毛は、多少の攻撃なら難なく防いでしまう。
ウェアウルフは人間とフェンリルのいいとこ取りで優秀な種族だが、フェンリルは珍しい種族で、その血をもつ狼人も珍しい上に、子をなすことは難しいので、文献でしかウルスは見たことがなかったらしい。
「今日は魔法について勉強するか。」
その言葉を聞き、即座に考え事をやめた。
実は異世界転生に興味がなくなっても、魔法は憧れていて、あの神からこの世界が剣と魔法の世界だと聞いてから、密かに楽しみにしていたのだ。
「魔法は空気中の魔法素を利用して、自然の力を借りることで行う。魔法素は基本の五属性である炎、水、風、土、緑と、光、闇という種類がある。魔法素は空気中を漂っており、それを集めて、力を与えることで魔法を発動するのだ。」
なるほど。
イメージ的には魔法素とやらが着火剤でそれを集めたところに、マッチとかで火をつける感じかな。
「力とは、我らの体にある魔力のことだ。魔法素に己の魔力を流し込むことで、魔法素を具現化させる。やってみせよう。」
宣言通り、ウルスが手を出して集中し始める。
どうなるのか楽しみだ。
「個によってそれぞれ、得意な魔法の種類は違うが我は炎の魔法素を集めるのが得意だ。」
話している途中で手のあたりの空気が揺らぎ始めた。
…陽炎みたいだ。
「よし、いくぞ。」
そういった瞬間、彼の手の上に野球ボール位の火の玉が出現する。
どこかのアニメのように光ったり、魔法陣が現れたりはしないが格好いい。
「魔力を流し込むときに注意しなければならないのは、魔法素の集まりの中心に流すのではなく、周りを覆うように外側から浸透させていくこと。中心に流し込むとその部分だけが具現化しようとして、弾けてしまうからな
。」
話し中も手の上の火の玉は多少揺らぎはするが、形状を保ったままだった。
「また魔力で周りを覆っておけば、このように手の上に具現化させても、けがすることはない。」
確かに、十数センチぐらい離れていても、火の玉なんて普通だったら、熱くて手の上なんかに浮かばせておけないだろう。
「出現させたら、好きなように扱う。攻撃なら普通に投げても構わんし、魔力をうまく使えば、相手に飛ばすこともできる。勿論、火種して使ってもいい。」
…火の玉を投げるとはあまり想像がつかないが、周りを魔力で覆っているということは、ボールを投げるような感覚なのだろうか。
「魔法素は空気中に漂っており、炎を具現化したいときは、炎の魔法素、略して炎素を集める。慣れてくれば、赤い玉が漂っているのが見えてくるが、見えるか?」
そう言われて、空気中に目をこらしたが、特に何も見えない。
「…見えないか。まあ取りあえず、これをどうにかしないとな。」
ウルスは、依然として彼の手の上で燃え続けている火の玉を一瞥すると、手を何かに捧げるように上げた。
火の玉はふわりと彼の手から離れ、洞穴への壁に向かっていき、壁にぶつかって消えた。
「まほうそとやら見えなかったよ。ウルス、もう一回やって!」
……子供のようにだだをこねるのは不本意だが、この世界に転生してから、子供の精神に引きずられるのか、時々子供のような言動になってしまう。
「分かった。ゆっくりやるのでしっかりと見ておけ。」
ウルスがまた手を出した。眉間にしわを寄せ目を閉じ、考え込んでいるように見えるが、魔法素とやらを集めているのだろうか。
「集まり始めたぞ。先ほどより、大きく作る。」
今度は揺らぎ始めた空間に注目する。
駄目だ、何も見えない。
「やっぱり、見えないや。」
「そうか。なら我の手の上で何が見える?」
見えないといったが。もしかして揺らぎのことをいっている?
「空気がゆらゆらしているのは見えるけど。」
そういうと、ウルスは閉じていたまぶたを開け、こちらを見た。怒っているのではなさそうだ。
「ゆらゆら?ふむ・・・・・・ならばそのゆらゆらしている場所に、赤い炎素が集まっていると想像してみよ。頭の中で色をつけていく感じでな。」
難しそうなことをいっているが、私にそんなことできるだろうか?
まぁ、ダメ元でやってみよう。
陽炎の部分を見る。炎素ってどんなのだろう。空気中に赤い粒子が漂っている感じだろうか。
とりあえず、ほこりの赤い版を想像して、ウルスに言われたとおりにやってみる。
「人間たちが、色づけと呼んでいる作業だ。そうすることで目に見えない魔法素を見ることができる。」
うーん、なんとなくは想像できたが、これって意味はあるのだろうか?
「想像できたか?」
「うん。なんとなくだけど。」
その短い問いかけをしただけで、ウルスは集中する作業に戻ってしまった。
……じっと見ていると、かすか赤い靄のようなものが見えた。
「わあ!!」
これが魔法素?本当にあれで見えるようになるとは。
「その様子だと、魔法素が見えようだな。だいぶ集まってきたから、そろそろ具現化しようか。」
ウルスの言葉に頷いておく。
赤い靄が集まってきた。集まった靄はウルスの手に到着すると、もともとあった靄に合体していく。
「魔力を込めるぞ。」
ウルスがそういった瞬間、赤い靄が、周りから次々と炎に変わる。
炎へと変わった瞬間、まるで何かに閉じ込められたように、自由だった炎が球を形作っていく。ウルスが魔力で覆っているのだろう。
それにしても、赤い靄が炎に変わっていく様は、まるで芸術作品のように美しかった。
完全に球形となった炎らは閉じ込められるのを拒むように、時折、揺らめいている。
「少し集めすぎたな。危険だから少し下がっていろ。」
そういう彼の瞳は真剣そのもので、冗談だとは思えなかったため、忠告通りに下がっておく。
先ほどより大きいバスケットボールぐらいの火の玉を、同じように掲げ持つと、火の玉はまたふわりと揚がり壁に向かっていくが、心なしか先ほどより不安定な気がする。
その予感は的中し、壁に当たる寸前のところで、
「ボファンッ」
火の玉は盛大に爆発した。
…熱波がこちらに向かってくるが、ウェアウルフの厚い毛皮のおかげか、火傷はしなかった。
「ごほっごほっごほ。」
爆発により、発生した土埃にむせた後、被害を確認しにいく。
幸い、この洞穴の石は丈夫なので、天井が崩れ落ちたりすることはなかったが、さすがに爆発をもろに受けた壁は大きく削れていた。
寝床代わりにしている枯れ草は、爆風で吹っ飛ばされたり、燃えたりして見るも無惨な姿になっている。
ため息をつくと、後ろからウルスが、申し訳なさそうに歩いてきた。
4/23歴史→童話に変更しました。
5/7色々変えました。(フェンリルの部分とか)